予言獣、巨大獣、一切不明の怪奇生物……海からやってくる怪獣たち/鹿角崇彦・大江戸怪獣録
江戸時代、謎の怪獣は島国ニッポンを取り囲む海からも続々と上陸していたのだ。各地で目撃された、海棲怪奇生物の正体とは?
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「神々の描き方」は昔から不変ではなく、時代によってさまざまに変化してきた。江戸、明治から現在にいたる神々の姿を縦覧することで、その豊かなイマジネーションの世界を追体験してみよう。
昨今の神社ブームや、2012年、2020年がそれぞれ『古事記』『日本書紀』の編纂1300年にあたったことなどもあり、ここのところ日本神話をライトに紹介する書籍、マンガや動画作品などがずいぶんと増えている。最近は神社でも、それぞれの祭神をイラスト化した絵馬やのぼり旗などをよく目にするようになった。
そうした神々は、上下白の衣装を身にまとい、首には勾玉、髪の毛を左右に振り分けた美豆良という姿で描かれていることが多い。多くの人が「日本の神さま」といわれてパッと思い浮かべるのも、おそらくこのパターンだろう。
しかし、古くから神々がこの姿でイメージされ、描かれてきたのかというと、実はそうではない。そもそも、日本では長らく神は「見えないもの」であり、「見てはならないもの」でもあった。
三輪山を神体とする奈良県の大神神社のように、山や岩など自然物そのものを神の依り代として祀るのが神道の起源で、仏教の影響を受けるまでは「神を人の姿で表現する」という文化さえなかったのだ。
仏像崇拝に触発されて神像づくりが盛んになるのは平安期だが、仏像にくらべて神像はマイナーな印象が否めない。それは、神像はあくまで神社内部に秘められる「ご神体」として求められたもので、不特定多数に見せることを想定していないものが多かったからだ。
やがて神々の姿は寺社の由緒由来を伝える縁起絵巻などにも描かれるようになるが、そこでもその姿はほのかに隠すような配慮がなされることがあった。
上図の『日吉縁起』絵巻には、童子を先触れにして雲の上を進む騎馬の神々が描かれているが、その顔はたなびく雲で覆われている。「描きつつ描かない」というセンシティブな技法が用いられているのだ。
神は本来、みえない存在。そもそも不可視なものを描くのだから、その表現には「正解」はないのだともいえる。ここに挙げた3つの図はすべて天照大神だが、その様相はずいぶん異なっていることがおわかりいただけるだろう。
下図は天照大神の現在のイメージに近いと思われる、「いらすとや」の作品。頭に宝塔を載せ、手には宝珠と剣をもつ仏像のような絵だが、これも天照大神だ。神仏習合の時代に祀られた「雨宝童子」という姿で、天照大神が地上に降臨した16歳のときの姿だともいわれている。
そして上の図、絵の右側、椅子に座る漢風装束の神も天照大神である。天照大神と第六天魔王が証文を交わすという、中世に変容した神話、いわゆる「中世神話」の有名な場面を描いたものだ。日本神話のなかで最も有名な神といって過言ではない天照大神ですら、そのビジュアルにはこれだけの振り幅があったのである。
「描く/描かない」というレベルから揺らぎがあり、多くの変遷を経てきた神々の造形。ここでは、豊かな表現性とその多様性を再認識する「神話絵巻」の旅にしばしお付き合いいただきたい。
神像や縁起絵巻の神々は、あくまで信仰の対象としてつくられ、描かれたものだった。それゆえに神社の奥に秘められたり、顔を隠されたりしたのだが、近世になると状況は大きく変化する。
出版文化が盛んになり、黄表紙や浮世絵などの職業作家が誕生した江戸時代。人々はさまざまな娯楽作品を求めるようになり、神話や伝説を元ネタにしたパロディ作品も数多くつくられるようになったのだ。そこに登場する神々は、まるで市井の人間のように個性豊かな存在として描かれるようになった。いわば神の擬人化、キャラ化である。
たとえば、下の2点はどちらも出雲での神々の様子を描いた江戸後期の作品。
当時の伝承では、10月、出雲に参集した神たちは氏子の男女の名前を書いたくじをひいて縁組をするのだとされていたが、絵のなかの神たちも、額をつきあわせてくじ用のこよりをつくったり(下図)、障子の向こうでくじをひいたり(上図)と大忙しの様子だ。
上図の右隅、現在の駐車場にあたる馬留めには、馬のほかキツネやイノシシ、シカなどユニークな神々の乗用獣が描かれる遊び心もみえる。
下に掲げた図はまた少々趣が異なる。幕末に描かれた「海上安全万代寿」には、大海原を進む蒸気船を空から見守る神々が描かれるが、じつはこの蒸気船は徳川幕府の所持する船で、この絵は14代将軍家茂が海路京から江戸に戻る様子を描いたものなのだ。
江戸時代は、将軍はおろか織田豊臣以降の武将を描くことも禁止というご法度が敷かれた時代であり、絵師たちは徳川将軍を鎌倉将軍に擬すなどスレスレの技を駆使して絵を仕立てていた。この場合は将軍の航海を描くために神さまをダシに使ったわけで、上空の神々はご法度逃れのカモフラ要因ともいえるのだ。
この「神恵朋世記」は神仏の軍団と疫病軍の戦いを描いたもの。
神の吹かせる風と、錦の御旗から発せられる謎のビームによって疫病軍が大敗するさまがみて取れるが、じつはこれも「見立て」で、神仏軍の下に描かれているのは薩長軍、逃げているのは幕府軍という戊辰戦争の風刺画になっているのだ。「神恵朋世記」と銘打たれてこそいるものの、メインは神よりもむしろ戊辰戦争のほう。ここでも神々は風刺画の隠れ蓑として使われたともいえるだろう。
このようにキャラ化された神々だが、江戸の人々が信仰を失っていたわけではないし、神話の文脈をまったく無視していたのかというとそんなことはない。下図は『通言神代巻』という神々を主役にした黄表紙だが、ここに描かれるのは、左から病身で寝込むツクヨミ、それを看病する姉の天照大神、父親のイザナギとエビス、スサノオの弟神たちという面々。いわば日本神話の〝ロイヤルファミリー〟たちだ。
現在では、イザナギの子というと天照大神、ツクヨミ、スサノオの三貴子とするのが一般的だが、江戸時代には蛭子すなわちエビスを加えた一女三男のきょうだいとする説が広く認知されていた。江戸の人々は、神話の物語をじゅうぶんに理解したうえで、そのパロディを楽しんでいたのだ。
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