マッドモンク=濟公活仏の巨像が鎮座する台湾の珍寺「聚善堂」へ! 聖人信仰のリアル/小嶋独観
珍スポ巡って25年、すべてを知る男による台湾屈指の珍寺・奇祭紹介!
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神々が憩う「昼神の御湯」レポート後編。霜月祭を踏まえた現代神事は、盛大な湯屋守様のお焚き上げでクライマックスを迎える。
前編はこちら(https://web-mu.jp/spiritual/15982/)
広場の足湯を我慢しつつ、筆者が次に向かったのは、すぐ近くで営業する旅館「石苔亭いしだ」。なんでも、この創業40年の温泉宿が、「昼神の御湯」と深い関わりを持っているという。
玄関からお邪魔すると早速、ロビーの奥にある“能舞台”が視界に飛び込み、思わず息を呑んだ。単に立派で幽玄だからではない。舞台全体に、無数の雛人形と吊るし雛が飾られており、しかもその中央には、異形の像が鎮座しているのである。
豪華絢爛を通り越し、もはやワンダーランドといった感じだ。
近付いて眺めると、天井から吊るされた飾りには、松竹梅などの縁起物の他、険しい顔をしたミニ湯屋守様の姿もある。そして舞台上の像は、どうやら“藁製の大ウサギ”のようだ。高さ2メートル程で、赤と青に塗られた体には、注連縄が巻かれている。
3月3日(雛祭り+ウサギの日)の化身の如き、このインパクトある像は、「湯屋守大権現ヤークー様」。支配人の井口洋氏に詳細を伺ったところ、「2020年に令和への改元を記念し、湯屋守様から派生した新しい神様です」との事。元々、敷居が高い能に親しみを持ってもらおうと、季節限定で展示していた名物の「二千体雛飾り」に、さらに神像が追加された事で、ド派手な祭壇と化したようである。
ヤークー様の姿は干支がモチーフで、毎年その造形が変わり、4代目の今年は、卯年にちなんだウサギ(狛犬風)が依代。体の色が赤と青なのは、火と水で湯のイメージらしい。
他の湯屋守様と同様、最終的にお焚き上げされるが、こちらは御湯以降もしばらく一般公開されるという。
神号「湯屋守大権現」については、湯屋権現そのものや、上位の存在を指す意味ではないそう。あくまで人々の厄除けに重点を置いた神様で、来館者が形代(紙人形)に自身の厄を書き、それを食べてもらう(首の穴に入れる)祈願方法のようだ。
神名「ヤークー」には、「厄を食う」と「焼く(お焚き上げ)」の意味があり、地元小学生達から集めた案から選ばれたとか。
なんと、この名前を「分かりやすい」として選んだ人物が、あの宮崎監督だという。
実は、同旅館の元社長と宮崎監督は、霜月祭などの南信州の民俗芸能を介して知り合い、以前より親交があったそうだ。この能舞台「紫辰殿(ししんでん)」でも、宮崎監督原案の人形芝居『うつ神楽(障遣願舞・宇津神楽)』が定期公演され、カオナシそっくりの面まで登場する。
つまりここは、千と千尋の原点となった南信州における、縁ある場所の1つなのだ。建物の見た目で“油屋のモデル”と噂される各地の温泉宿よりも、むしろ本質的な“聖地”と言えるかもしれない。奇しくも大ウサギが、和製『不思議の国のアリス』を象徴しているようでもある。
そもそも「昼神の御湯」も、2007年に南信州や温泉街を盛り上げるべく、「神(か)ぐ和しの里」を称する当地に合うイベントとして、元社長が考えた企画だったらしい。
すなわちそれは、神々が温泉に浸かる設定などに、霜月祭のみならず、『千と千尋の神隠し』(2001年公開)の世界観が影響している事を意味する。もっと古そうな風格があるが、意外にも今回で16回目の新しい行事なのだ。
とはいえ、この若い温泉地で、歴史ある伝統行事を生まんとする試みは、非常に意義深い事と言えよう。
井口氏も御湯について、「冬の風物詩として末永く続けていきたいです。温泉は自然の恵みで、日本には古くから自然信仰があります。それに近い立ち位置の仕事なので、湯がある事に感謝し、顕在化したものを継承すべきと考えています」と語る。
また最後に、こんな体験談も。
「以前、お風呂場で倒れ、仮死状態になったお客様がいらっしゃいました。ちょうど御湯の時期だったので、私も湯屋守様に手を合わせて、ずっと祈りましたよ。藁にもすがる思いで……。幸い、なんとか無事に蘇生されたのですが、その時は非常に、湯屋守様のご加護を感じました。そのお客様も、“神様が浸かってくれてたから助けてもらったんだ”と、おっしゃってましたね」
――どうやら、新しい民間信仰が根付きつつあるようだ。少なくとも筆者は、そう実感したのであった。
午後7時半頃、お焚き上げを見に広場へ再訪すると、先程とは様子が一変していた。
湯屋守様達がライトアップされ、暗闇の中にしっとりと浮かび上がり、雅楽のBGMも相まって、神秘的な雰囲気を漂わせているのだ。手前のテーブルには、野菜や果物、御神酒などの供物も並べられている。見物客を入れた通常開催は3年ぶりだそうで、周囲には既にある程度の人だかりが出来ていた。
そんな中で、法被を着て準備に勤しむのは、主催の御湯実行委員会(宿泊施設関係者)の人達だ。
実行委員長の今井竜也氏に話を伺うと、「湯屋守様の基本的な形は、この地域に昔から伝わる“ほんやり様”がモデルなんです」と教えてくれた。
「ほんやり様」とは、正月飾りなどを積んで燃やす火祭りの事で、全国的には「どんど焼き」や「塞の神」と呼ばれている。そのお焚き上げの塔を模して、災いを威嚇する怖い顔を付け足したのだとか。
確かに、「ほんやり」と「ゆやもり」の語感も何処となく似ている。
また、湯屋守様は毎年、参画する各宿ごとに製作される為、それぞれの造形や大きさ、ご利益が異なるそうだ。
例えば、前方の中央に鎮座する湯屋守様(今井氏経営のホテルに祀られていた)は、紙垂や形代まみれで、お腹が膨らんでいるが、これは子宝・安産祈願を司っている。他にも開運、縁結び、交通安全などの湯屋守様が並ぶが、中にはしれっとアマビエまで混じり、疫病退散祈願も忘れてはいない。
そして、後方の中央に鎮座するのは、他より少し体が大きめな「本湯屋守様」。
これまで橋の上で温泉街全体を見守っていたという、リーダー的存在だ。
今井氏はさらに、「昔は4メートルの湯屋守様がいたり、本湯屋守様を神輿みたいに担ぐ練り歩きもあったんですよ」と懐古する。それはそれで見たかったが、諸々の事情から現状に落ち着いたという。ともあれ、強固な守りの温泉街である事は間違いない。
午後8時になり、いよいよ神送りの儀式が始まった。
村長や今井氏らの挨拶後、近所にある「阿智神社」の宮司が修祓、祝詞奏上を行うと、辺りはすっかり厳粛な空気に包まれた。
やがて、周囲の明かりが消え、氏子総代ら数人が松明を持ち、湯屋守様への点火に臨む。
先程にこやかに取材に応じてくれた井口支配人も、勇壮に松明を掲げていて別人のようだ。
「いよいよ、湯屋守様とのお別れの時間が近付いています……」
そんな女性司会者の語りと、昔話風のBGMが切なさを煽る。
数時間前に初対面したばかりの筆者ですら、妙に寂しい気持ちが込み上げてきた。さようなら、全ての湯屋守様――。
カウントダウンの唱和を経て、前方中央の1体に松明の火が付けられる。
すると、たちまち全身の藁に燃え広がり、高々と火柱が上がった。
煙とともに火の粉が夜空に舞い上がり、まるで無数の星のように刹那に煌く。
それを皮切りに、他の12体も順次点火されていき、火柱が林立。
燃え盛る炎に周囲は赤く照らされ、結界から十分離れていても、強い熱気が伝わってくる。
何処からか「ありがとー!」と叫ぶ子供の声も聞こえた。
3か月間、雨の日も雪の日も温泉街を守り、シンボルと化していた存在に、誰もが感謝と惜別の念を抱いているようだ。
しばらく炎を見守っていると、突如として夜空に轟音が鳴り響き、辺りが眩い光に包まれた。
神の御業か?
いや、違う。湯屋守様を天へ導く“打上花火”だ。火柱の背後に、色鮮やかな大輪の花が連続で咲いていく。
それはまるで、春の到来を告げる祝砲のようでもある。
意表を突いた幻想的な光景に、約200人の見物客達から歓声と拍手が沸き起こった。
この数分間の花火が終わる頃には、藁製の御神体は完全に消滅。実に華々しい昇天であった。
お焚き上げで残った炭は「御炭」と呼ばれ、体に塗ると1年間の無病息災が約束されるという。自分ではなく、連れの者に塗ってもらう事で、特に効果が得られるとか。それを聞いた見物客達は、焼け跡に集まって御炭を塗り付けあい、中には顔を真っ黒にする人もいた。
この「御炭付け」をもって、午後9時頃に儀式は終了となった。
今度は御湯から出た湯屋権現が、再び霜月祭のある年末まで、温泉街を守り続けるのだろう。
ところで昼神温泉周辺は、かの『万葉集』にも詠われた、東山道(古代の幹線道路)沿いの歴史深い地である。史跡や古社寺などが点在し、いくつもの神話や伝説が残されている。温泉と星空だけでなく、悠久のロマンにも浸れるのだ。
筆者は翌日、上着に付いた煙の匂いに“不思議な癒し”を感じながら、そうした聖地を訪ねたのだった。まさに「神ぐ和しの里」――その神々と古代史の世界へは、次の機会に誘いたいと思う。
影市マオ
B級冒険オカルトサイト「超魔界帝国の逆襲」管理人。別名・大魔王。超常現象や心霊・珍スポット、奇祭などを現場リサーチしている。
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