異形の神々の来訪を求めて…北陸の奇祭「上村木七夕祭」(1)/奇祭巡り・影市マオ
2022年、3年ぶりに北陸・富山で繰り広げられた奇祭を3回にわたって現地レポート。闇に現れた異形の集団は、神か精霊か天狗か……?
記事を読む
「遠山の霜月祭」の後、神々が滞在する湯治の温泉街を訪問! 湯屋守様が出迎える「昼神の御湯」へ向かった。
「ここはね、人間の来るところじゃないんだ。八百万の神様達が疲れを癒しに来るお湯屋なんだよ」
――ジブリアニメの名作『千と千尋の神隠し』の劇中において、異界に迷い込んだ主人公の少女・千尋に対し、湯屋「油屋」を営む魔女・湯婆婆が言う台詞である。映画の観客にも、物語の世界観を簡潔に説明したものだ。
いくつかのメディアで宮崎駿監督が語ったところによると、この“神々がくつろぐ湯治場”のアイディアは、テレビで見た「霜月祭」が基になっているそうだ。(参考)
霜月祭とは、昼が最も短い毎年12月(旧暦霜月)の冬至の頃に、全国から神々を招いて湯を捧げるという儀式。聖なる湯浴によって穢れを祓い、太陽とともに弱まった万物の「生まれ清まり」、すなわち命の再生などを願うのである。
「湯立神事」とも呼ばれる同様の儀式は、日本各地の神社で行われている。
が、宮崎監督に影響を与えたのは、南信州の奇祭「遠山の霜月祭」だという。鎌倉時代から約800年間、ほぼ原形のまま続くと言われる伝統行事(国の重要無形民俗文化財)で、長野県飯田市の遠山郷(上村・南信濃地区)にある複数の神社で開催される。
神社ごとに日時や形式が異なるものの、この祭りでは基本的に、神職と氏子らが一昼夜かけて「湯立神楽」の奉納を行う。社殿の中央に設けた竈や大釜で湯を立て続け、その周りを神楽歌とともに舞うのである。
そしてクライマックスには、様々な面(おもて)で八百万の神に扮した氏子達が現れ、煮えたぎる熱湯を素手で豪快に跳ね飛ばす。遠山郷だけに伝わる「湯切り」の荒行だ。この熱湯を浴びた人間も、神々と一緒に浄め癒され、無病息災を得られるという。
実に神秘的で興味深い祭りである。
だが、筆者がより気になったのは、同時期に隣りの阿智村で行われる関連行事の方――その名も「昼神の御湯(おんゆ)」であった。
阿智村と言えば、「日本一の星空の村」として近年有名だ(以前「ムー」も星空観賞イベントに協力している)。実は知人の出身地という事もあり、スタービレッジ化する以前から阿智村についてなんとなく知っていた。
しかしまさか、こうした不思議な行事を見に訪れる事になろうとは、全く思いもよらなかった。
JR飯田駅から車で約30分、小さなトンネルを抜けると、やがて阿智村の「昼神温泉郷」に到着した。
ここは中央アルプスの南端、岐阜県との県境付近に位置する、山あいの静かな温泉街。阿智川の清流沿いに、約20軒の旅館・ホテルが建ち並んでいる。
2023年現在、昼神温泉はちょうど開湯50周年に当たり、温泉地としては比較的新しい。
ただし、美肌の泉質を誇る温泉自体の歴史は、古くは戦国時代まで遡り、“武田信玄の隠し湯”の1つだったと言われている(阿智村は信玄の没地でもある)。
江戸時代の中頃には、川の上流の「湯の瀬」と呼ばれる場所で、傷ついた鹿が浸かる温泉を村人が発見。温かさや硫黄の匂いから、霊験あらたかな湯水と考えられ、すぐに「湯屋権現」の神が祀られた。その後、山越えの旅人が疲れを癒す湯屋となったが、明治時代に土砂崩れで埋もれ、湯屋権現だけが取り残された。
だが、時は流れて1973年(昭和48年)、旧国鉄の中津川線建設の際、トンネル工事中に再び温泉が湧出。この湯脈によって昼神温泉は復活し、南信州最大の温泉地にまで発展した。いわば「生まれ清まり」を果たした温泉なのだ。
地元の人々は湯屋権現の霊験に感謝し、守り神として今も崇め続けているという。
さて、筆者はまず、温泉街の中心部にある「朝市広場」へと向かった。
名前の通り、普段は早朝に市が立つ場所らしいが、既に昼過ぎだったとはいえ、この日は明らかに様子が違う。
広場の中央に大きな結界が張られ、内部には藁で作られた“何か”が、ズラッと13体も並んでいるのだ。その見た目は大小様々だが、概ね高さ1~2m余りの円錐形で、真ん中に獅子舞のような怖い顔がある。というか、全身の大部分が顔で、それこそ『千と千尋の神隠し』に登場しそうな雰囲気である。
これらは「湯屋守様(ゆやもりさま)」と呼ばれる神様。湯屋権現の分霊のような存在らしい。
昼神温泉では「遠山の霜月祭」の後、八百万の神がそのまま湯治で滞在し、1年の疲れを癒すと考えられている。湯屋権現も冬の間は温泉で休むとされ、毎年12月から3か月間、代わりを務める湯屋守様が各宿の玄関先などに祀られる。いわば、温泉版の道祖神で、災いが入らぬよう地域と入浴客を守るのである(長野市の芦ノ尻道祖神にも姿が似ている)。
また、この時期に昼神の湯に浸かると、神様と混浴したとして無病息災のご利益があり、各施設から「入湯の証し」の札を貰えるという。
この神様が入る湯こそが「御湯」であり、一連の催しを指して「昼神の御湯」と呼ばれているのだ。
12月の開幕時には、阿智川に架かる恩出橋の上で、降神祭と分湯式が執り行われる。湯立神事などで、湯屋守様に御霊を入れるのだ。
そして、3月の第1土曜日の夜には、御湯期間のフィナーレとして、お焚き上げ神事(昇神祭)が盛大に執り行われる。役目を終えた全ての湯屋守様を広場に集め、一斉に燃やして天に送り帰すのである。
もちろん、この夜の儀式が目当てで来た訳だが、明るいうちに会場を下見する事で、湯屋守様をじっくり拝みたかったのだ。その御神体の迫力には、 予想以上に心躍るものがあった。
(つづく4月15日公開)https://web-mu.jp/spiritual/16002/
影市マオ
B級冒険オカルトサイト「超魔界帝国の逆襲」管理人。別名・大魔王。超常現象や心霊・珍スポット、奇祭などを現場リサーチしている。
関連記事
異形の神々の来訪を求めて…北陸の奇祭「上村木七夕祭」(1)/奇祭巡り・影市マオ
2022年、3年ぶりに北陸・富山で繰り広げられた奇祭を3回にわたって現地レポート。闇に現れた異形の集団は、神か精霊か天狗か……?
記事を読む
宮古島の奇祭パーントゥ・プナハ訪問! 泥まみれの来訪神と遭遇/奇祭巡り・影市マオ
美しい海に囲まれた南の楽園に、「パーントゥ・プナハ」という奇祭が伝わる。全身に泥をまとった異形の神「パーントゥ」が、人々を追い回しては泥を塗りつけるのだ。“日本一恐ろしい祭り”とも称されるその伝統行事
記事を読む
ひとつ目の藁人形を流す奇祭! 大宝八幡宮「ひとつもの神事」/奇祭巡り・影市マオ
秋祭りの晩、夜道を無言で進む和装の集団。その行列には、ひとつ目の奇妙な人形が厳かに掲げられている。 飛鳥時代から続く古社に伝わる謎の祭礼「ひとつもの神事」には、失われゆく日本古来の宗教観と、今も息づく
記事を読む
負のエネルギーを跳ね返す秘策は「明るい変化」! エスパー・小林が「呪いの解き方」を指南
霊能者・小林世征氏が指導する「呪いの解き方」第3回。今回は、自分に向けられたネガティブなエネルギーを跳ね返すための心構えと具体的なアクションについてお伝えする。
記事を読む
おすすめ記事