南信州の「霜月祭」と「昼神の御湯」で八百万の神々が生まれ清まる!/奇祭巡り・影市マオ
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1日に160キロの距離を踏破するというヨーガの秘術──ルンゴム(空中歩行)。はたしてそれはどのように行われたのか? 世界最高地の塩湖での実践をレポートする。
その写真を見ると、歩行中の身体がふわりと宙に浮いている。足取りも軽やかに、リラックスしているように見える。とくに上半身は、どこにも力が入っていないようだ。
その人物がそのまま静かに、スーッと前に進んでいったことは写真からわかる。
これをヨーガの秘術で、ルンゴム(空中歩行)という。
風の行者ともいい、ヨーガの達人はこのテクニックで、1日に160キロも移動することが可能となる。
浮いている人物は、ヨーガ行者の成瀬雅春(なるせまさはる)氏だ。
驚きの空中歩行の写真を前に、そのコツというか、極意のようなものを成瀬氏に尋ねてみた。
「あくまでもこれは、意識の問題です。遠くの一点を見据えて、そこに意識を集中させる。先に意識を置く、という感じでしょうか。あとはそこに、肉体を追いつかせていくだけです。その連続で先に進むのです。
肉体のロスをなるべく減らす、ということが重要で、だからこれも走っているわけではありません」
成瀬氏はかつては「サンデー毎日」で空中浮揚の連続写真が掲載されて大きな話題を呼んだ世界的なヨーガ行者で、いまも毎年のように4000メートル級のヒマラヤ山中で修行に励む。全インド密教協会から、ヨーギーラージ(ヨーガ行者の王)の称号も授与されている。ここで紹介する写真は、その成瀬氏が中心になって昨年行われた、インドのラダック地方への研修旅行の途中で撮影されたものだ。
ちなみにラダックは小チベットと呼ばれ、かつては独立した仏教国だった地域だ。チベットが中国によって支配されている現在では、チベット仏教の真髄を伝える聖地とされる。実際、ラダックには「ゴンパ」と呼ばれる仏教僧院が各地にあり、多くの僧侶たちが修行に励んでいる。
そのゴンパのなかで興味深いのがタクトク・ゴンパだ。一見、木造の大きな建築物が岩山に建てられているように思えるのだが、実際の構造は違うと成瀬氏はいう。
「たしかに立派な建物に見えますが、入るとすぐに岩山で本堂は洞窟になっています」
つまり、もともと修行のために岩山に掘られた洞窟を、のちに木造建築で入り口を覆ったものにすぎないというのだ。だが、逆にいえばそれは、その昔、聖者や行者が修行を積んだ聖なる洞窟が、そのまま残されているということでもある。
今回のツアーではゴンパを巡り、岩に穿(うが)たれた本堂や勤行堂で瞑想(めいそう)に励む、というのが目的だった。
その中心となったのが、倍音声明(ばいおんしょうみょう)である。
声明というのは、簡単にいえば仏教の経に独特のメロディをつけたものだ。倍音声明はチベット仏教のニンマ派に伝わる声明のもっと古い形で、具体的な経の言葉ではなく、5つの母音だけを発する。
今回、ラダックのゴンパで行われた倍音声明のように、ある程度密閉された空間で多人数が同時に声明を行うと、母音の音程(基音)の上に倍音と呼ばれる周波数の高い音が現れる。それが共鳴しながら空間を満たし、なんともいえない高揚感(こうようかん)と独特の神秘的な空気感に包まれることになるのだ。
さて——。
ルンゴムに話を戻そう。
空中歩行の写真が撮影されたのは2019年9月18日。場所は中華人民共和国チベット自治区ルトク県とインドのラダック連邦直轄地との国境に位置するアジア最大の塩湖、パンゴン湖のほとりだ。ここは標高4250メートルに位置し、世界でもっとも高地にある湖としても知られている。
ラダックでの倍音声明ツアーの途中、成瀬氏たち一行はこの湖に立ち寄った。聖なる湖のほとりで、瞑想に励もうというのである。ルンゴムはその一環として行われ、写真は手本として成瀬氏が自ら行ったものだ。
写真の影を見ていただけば、それがトリックの類いではないことは一目瞭然だろう。チベットの聖地で起こったこの奇跡──だが、涼しい顔でラダックの宙を歩く成瀬氏にとってそれはある意味、日常的なことなのかもしれない。
中村友紀
「ムー」制作に35年以上かかわるベテラン編集記者。「地球の歩き方ムー」にもムー側のメインライターとして参加。
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