潜在エネルギーを解放して癒しと覚醒を得る!/「ムドラ瞑想」実践法(1)

監修=ガイアブックス

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    ムドラとは、心身のバランスを調え、精神的な覚醒を促す「印」のことだ。古代インドの聖賢たちが瞑想の中で至高の境地に至り、それを追体験するために、あるいは弟子に教えるために、自然発生的に生まれたという。現代人のわれわれも、これを実践することで、本来備わっている好ましい性質を呼び覚ますことができる。今回は、ムドラを瞑想に活用する意義と、初めて実践する人に向けた5種類のムドラを紹介する。

    ムドラは内なる喜びを引きだす

     ムドラとは、身体と心のバランスを調え、精神的な覚醒を促す、手や顔や体を使ったジェスチャーのことだ。
     サンスクリット語の「ムドラ(mudrá)」は、「喜び」や「魅力」を意味する「mud」と、「引きだす」を意味する「rati」が組みあわさってできた言葉で、身ぶり、印、特性などの意味がある。このことからムドラは、常に私たちの中にあり、目覚めるのを待っている内なる喜びや魅力を引きだしてくれるジェスチャーだといえよう。

     ムドラの生みの親は、古代インドの聖賢たちだ。
     彼らは、瞑想を通じて創造の源との精神的結合を極めようとした。その瞑想状態のひとつの表れとして、自然発生的にムドラが生まれたと考えられている。やがてムドラは、リシたちが瞑想状態を追体験し、新たに加わった門弟とも体験を分かちあうための手段として使われるようになった。
     インドの絵画や彫刻に見られる神々の多くは、それぞれの特性を反映するか、特性とかかわりのあるムドラを結んだ姿で表現されている。そうしたなかでも最古の部類に入るのがエローラ石窟群やアジャンタ石窟群の像で、古いものは約2000年前にさかのぼる。

    エローラ石窟群の第10窟。ストゥーパの前面に刻まれたブッダが、左右の手でムドラを結んでいる。

    癒しと覚醒の手段としてムドラは重視される

     ムドラには、いくつかの種類がある。たとえば「第三の目」を見るように両目を上に向けるシャンバヴィ・ムドラは、いわば顔のムドラで、微細な精神エネルギーを覚醒させるのに役立つ。また、両肩で逆立ちをするようなポーズのヴィバリタ・カラニ・ムドラは、全身を使うムドラで、微細なエネルギーの流れを長期間にわたって強める。

     そうしたいくつかの種類があるなかで、癒しと覚醒の手段として最もよく使われ、重視されているのは手のムドラだ。それには以下のような理由がある。

    ・感覚神経と運動神経の末端が多く集まっている指は、脳や体の各部位と直接つながるための強力な媒体となる。
    ・繊細で巧みな動作が可能な手と指は、より広く心や精神の特性を目覚めさせる可能性を秘めている。
    ・5本の指は、昔から5大元素と結びつけられており、指で印を結ぶことによって5大元素のバランスを安定させ、心と体を健康にする可能性が広がる。

     本稿では、初心者でも無理なく実践できて効果を感じられる手のムドラを紹介していく。

    目に見えない微細な身体も調える

     ムドラを実践することによって、実際にどんな変化が起きるのだろうか。先述したように、私たちに本来備わっている好ましい性質が呼び覚まされる。この性質を「核となる特性」という。核となる特性は、私たちの深いところに眠った状態で目覚めを待つ「精神の真髄」を反映している。
     そしてムドラは、存在のすべての層において調和を促す。
     身体面においては、ムドラの助けで体の特定の部位に呼吸と意識を向けることで認知力が高まり、よりたやすく体の発するメッセージをとらえ、それに応えられるようになる。
     また、呼吸をよりよく調える働きもある。印を結ぶとムドラ自体が呼吸を導き、たちどころに呼吸の速さや性質などを変えることができる。特定の部位に意識と呼吸を向けるムドラの働きは、マッサージ効果を生み、呼吸が向けられた箇所の血行も改善される。

     ムドラは、微細な身体におけるバランスも調えてくれる。呼吸は、生命の気であるプラーナを取り入れるための最も重要な手段だ。ムドラによって体の特定の部位に意識が向けられると、私たちは微細なエネルギーの流れを感じとれるようになり、エネルギーを遮断する障害物が取り除かれ、プラーナがふたたび自由に流れだすようになる。エネルギーの中心であるチャクラ、エネルギーの流れであるプラーナ・ヴァーユ、エネルギーの通路であるナーディといった、微細な身体のさまざまな領域におけるバランスが、ムドラによって調えられる。
     心理面においては、ムドラは心が凪いだ状態から激しく活動する状態まで、さまざまな気分や感情を引き起こす。ムドラによって促進される幅広い心理状態や感情には、自信や勇気や自尊心も含まれる。
     さらに私たちは、自分を縛りつけ、ネガティブな考えや感情のもととなる思い込みに、ムドラのおかげで気づき、そこから自由になることができる。そうした思い込みから解き放たれると、心に余裕が生まれ、自分の中に眠る好ましい特性、つまり核となる特性を開花できるようになる。

    ムドラ瞑想の実践方法とは

     一度ムドラを結んだら、「核となる特性」が表れるのを感じとれるまでキープすることをおすすめする。はじめは5〜10呼吸キープし、慣れてきたらひとつのムドラを1日3回、5分間ずつキープしてみよう。
     ムドラの効果を探るときには、活力やエネルギーが増したか、心が落ちつき、頭がすっきりしたか、人生の変化にオープンに向きあえるようになったかなど、存在のあらゆる領域における変化に気づくようにする。

     以下に、実践する際の注意点をまとめておく。

    ・次ページ以降に掲載されているムドラについては、それぞれの効能が記されているが、この分野の研究はまだ進んでいない。効能が必ず得られるという意味ではなく、効能が期待できるという意味だと考えてほしい。
    ・ムドラによって微細なエネルギーへの扉が開くと、違和感や不快感を感じることがあるかもしれない。そんなときは無理に実践を続けようとせず、自分が心地よいと感じるレベルにとどめること。
    ・ムドラを結ぶときの力加減は、弦楽器の弦を押さえるときの力が目安となる。弱すぎても強すぎてもよくない。
    ・ムドラは、背筋を伸ばした座位で行うのが理想だが、立ったままでも、横になっていても実践できる。
    ・呼吸の速さや、呼気と吸気の長さは、ムドラによって自然と決まってくる。ムドラに導かれるままに、呼吸をすればよい。
    ・ムドラの実践には空腹時が最適だ。食後に実践する場合は30〜45分たってから行う。

    意識を広げるハスタ・ムドラ

    「手のムドラ」という意味のハスタ・ムドラは、入門編のムドラだ。ムドラをはじめて実践する場合、まずハスタ・ムドラを行い、これらがラクにできるようになってから、5つのコーシャのムドラ(後述)に移るとよいだろう。
     ハスタ・ムドラでは、左右同じ指の指先を合わせることで、体の特定の部位に呼吸と意識とエネルギーを向けていく。たとえば小指同士の指先を合わせるカニシュタ・ムドラを行った場合、呼吸と意識とエネルギーが骨盤底(恥骨から尾骨の間にある菱形のプレート)に向かう。また、薬指の先を合わせるアナーミカー・ムドラでは、呼吸と意識とエネルギーが骨盤に向かい、自己治癒をもたらす。
     なお、それぞれのムドラに付随する「核となる特性を呼び覚ます言葉」は、ムドラ瞑想を行うときに、声に出して、または心の中で唱えることにより、各ムドラが導く状態を実感しやすくなる。

    カニシュタ・ムドラ(小指のムドラ)

     カニシュタ・ムドラは両手の小指の先を合わせることで、呼吸と意識とエネルギーを体の下方にある基盤に向け、安定性と確かなよりどころをもたらす。このムドラを結ぶと呼気が長くなり、深くリラックスできるため、ストレスが軽減される。
     このムドラは、地の元素を活性化させて自然界とのつながりを深め、会陰に位置する第1チャクラが開くのを助ける。これによって生存に必要な欲求を妨害する微細な障害物が取り除かれ、信頼感や安心感が高まる。
    【核となる特性】
     大地とつながる。
    【核となる特性を呼び覚ます言葉】
    命ある大地が自らのうちに鼓動し、私は地の特性に満たされます。
    【主な効能】
    ・身体感覚を高め、大地とのつながりを深める。
    【手順】
    ①手のひらを体側に向け、みぞおちの前で両手を保つ。
    ②ゆっくりと小指の先を押し合わせ、ほかの指は力を抜いて内側に丸める。
    ③肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

    アナーミカー・ムドラ(薬指のムドラ)

     アナーミカー・ムドラは、両手の薬指の先を合わせることで、呼吸と意識とエネルギーを骨盤に向け、内なる滋養と自己治癒をもたらす。このムドラを結ぶと、骨盤の内部に微細なマッサージ効果を感じ、骨盤の中心から流れだした癒しのエネルギー波が、自分の全存在を育むのを実感する。このムドラは、骨盤周辺に宿る水の元素を活性化させる。また、丹田に位置する第2チャクラが調うため、エネルギーを阻む障害物が骨盤から取り除かれ、自らを育む力や自己治癒力が養われる。
    【核となる特性】
     自らを癒す。
    【核となる特性を呼び覚ます言葉】
    内なる海のリズムに同調し、癒しのエネルギーの波に育まれます。
    【主な効能】
    ・自己治癒力を高める。
    ・親密な関係を健全に育む。
    【手順】
    ①手のひらを体側に向け、みぞおちの前で両手を保つ。
    ②ゆっくりと薬指の先を押し合わせ、ほかの指は力を抜いて内側に丸める。
    ③肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

    マディヤマ・ムドラ(中指のムドラ)

     マディヤマ・ムドラは、両手の中指の先を合わせることで、呼吸と意識とエネルギーを、個人の力が宿るみぞおちに向ける。みぞおち周辺と同調するにつれ、エネルギーレベルでのバランス調整の重要性に気づく。このムドラを結ぶと、暖かさ、輝き、変容などの性質を持つ火の元素が活性化される。みぞおちに位置する第3チャクラが整い、自尊心や個人の力や活力が自然と高まる。
    【核となる特性】
     エネルギーバランスを調える。
    【核となる特性を呼び覚ます言葉】
    あらゆる活動のバランスを調えることで、より大きなエネルギーと活力を体感します。
    【主な効能】
    ・エネルギーレベルの安定化。
    ・与えることと受け取ることのバランスを調える。
    ・可能性を開花させる。
    【手順】
    ①手のひらを体側に向け、みぞおちの前で両手を保つ。
    ②ゆっくりと中指の先を押し合わせ、ほかの指は力を抜いて内側に丸める。
    ③肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

    タルジャニー・ムドラ(人差し指のムドラ)

     タルジャニー・ムドラは、両手の人差し指の先を合わせることで、呼吸と意識とエネルギーを胸部と心臓と肺に向け、拡張性や開放感をもたらす。このムドラを結ぶと、風の元素が活性化し、軽快さ、優美さ、気楽さなどの特性が高まり、やる気や高揚感がもたらされる。胸の中央に位置する第4チャクラを覚醒させ、感情の受容を容易にする。また、自己受容、感謝の念、思いやりなど、心の本質的な特性が立ち現れる。
    【核となる特性】
     心を開く。
    【核となる特性を呼び覚ます言葉】
    心の内なるシンフォニーに同調し、喜びと活気を持って生きていきます。
    【主な効能】
    ・微細な心臓を開く。
    ・やる気の増進により、うつ症状の軽減が期待できる。
    【手順】
    ①手のひらを体側に向け、みぞおちの前で両手を保つ。
    ②ゆっくりと人差し指の先を押し合わせ、ほかの指は力を抜いて内側に丸める。
    ③肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

    アングシュタ・ムドラ(親指のムドラ)

     アングシュタ・ムドラは、両手の親指の先を合わせることで、呼吸と意識とエネルギーを胸の最上部、鎖骨、喉、首に向ける。このムドラを結ぶと、空の元素が活性化され、拡張性、無限性、存在の微細なエネルギーへの開放性、さらには明瞭なコミュニケーションなどの性質が高められる。喉に位置する第5チャクラが自然に開き、それによって内なる声を聴く力が高まり、人生という旅路の道しるべとなるメッセージを受け取れるようになる。
    【核となる特性】
     内なる声を聴く。
    【核となる特性を呼び覚ます言葉】
    耳を澄まし、感受性を高めることで内なる存在の導きを受けとめます。
    【主な効能】
    ・内なる導きを受けとり、世界に向けて明瞭に発信できる。
    ・話術と歌唱力を向上させる。
    【手順】
    ①手のひらを体側に向け、みぞおちの前で両手を保つ。
    ②ゆっくりと親指の先を押し合わせ、ほかの指は力を抜いて内側に丸める。
    ③肩の力を抜いて後方に押し下げ、両肘を体から離す。前腕を地面と平行にし、背筋を自然に伸ばす。

    108のムドラが詳細に解説された『ムドラ全書』(ガイアブックス/本体3200円+税)。癒しや覚醒を求める人の助けとなる一冊だ。なお、本稿のテキストと図はこの書籍に依拠する。

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