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見た目はただの「石ころ」を守護石として携帯する民間信仰が台湾で拡大中。パワーストーンを携帯する人は珍しくないが、どういうことか?
今、台湾で石がペットとして流行しているのをご存知だろうか。
台湾では寵物石頭(可愛がる石)と呼ばれ、目を付けて箱庭に置いて家で眺めたり、持ち運んだりするという。
元々は、韓国でブームになった「伴侶石」(石のペット)の影響とも言われる。
韓国では、K-POPアイドルの「SEVENTEEN」のジョンハンが、2021年に「石小淨」と名付けた石を愛でる姿をInstagramで公開し、部屋に小さな住まいを設け、石に可愛らしい表情をほどこし、ペットのように接している様子が話題となった。また、「TOMORROW X TOGETHER(TXT)」のヒュニンカイも、2023年に「HUENING LIONEL MBAPPE」と名付けた石をInstagramで公開し、石を会社に持ち込んで可愛がっている様子も話題となった。
そんななか、韓国の影響ではなく、石敢當文化の影響で寵物石頭を飼い始めたという青年と出会った。場所は、首都台北の南に位置し、バスで1時間以内で行くことができる宜蘭。宜蘭は昔から他の地区より石敢當文化が浸透しており、身近な存在だという。
そもそも石敢當とは、中華圏で見られる民間信仰のひとつで、災厄や悪霊からの守護を目的とした魔除けの石のことで、主に家や店の前に置かれる。台湾だけでなく、沖縄や鹿児島など日本の一部地域でも見られ、車の侵入を防ぐ目的もあるという意味では、京都の「いけず石」とも共通するものがある。
寵物石頭を飼っている青年の名前はシシャさん。年齢は20歳で現在は宜蘭大学の学生だ。
「宜蘭は、台湾のなかでも特に石敢當が多い地域だと思います。石敢當が守り神になってくれているという気持ちは幼少の頃に植え付けられました。
小さい頃から石を祀っているのをずっと見てきていたので、石を持つことで、お守り代わりにすることに抵抗はありませんでした。受験前に祈ることでご利益を求める学生もいたりして、僕もそういうことをしたりしました。結果、合格することもできました。学校内では、石を『石神』と名付けて、吉祥のシンボルとして祀っていますよ。友人たちも石を護符のように持ち歩き、何かあったときの身代わりになってくれると思っているみたいです。こんなふうに、石敢當は、僕らの生活の身近にあるので、それを持ち運んで可愛がるという発想は自然な流れなのです」
シシャさんは、その勢いで、Instagramで「宜大寵物石頭養殖社」というアカウントを設立。最初は冗談で作ったアカウントだったが、どんどんフォロワーが増えて冗談ではすまなくなってきた。
「寵物石頭を拾って目をつける『石の養子縁組』の活動を行ったり、みんなで寵物石頭を拾いに行ったりしています。目をつけることで寵物石頭に『魂』が宿る気がするんですよね。
寵物石頭は自分の主人を選ぶとも言われていて、購入するよりも自分で探して拾うのが一番です。そもそもネットでも売られているのも見たことがありませんが(ちなみに、日本では河川法で、川の石を拾って売ることは禁止されている)。寵物石頭の歴史は70年代のアメリカからあったそうですが、韓国の文化からの影響から飼う人もいるみたいですね。僕はその影響は全然受けていませんが」
寵物石頭の良さは、手がかからないこと、永遠に飼い続けることができること、餌などのお金がかからないこと、それなのに動物と同じ癒しが得られることだという。それに加えて魔除けの役割までしてくれるのだから願ってもないことだ。
シシャさんに持っていて一番のメリットは、と聞くと、「コスパの良さ」だと返ってきた。
「僕は、宜蘭という地元を愛しているので、その地域の伝統文化である石敢當が、こういうかたちで注目されて嬉しく思っています。みんなが寵物石頭を持ち運ぶことで、石敢當文化が台湾全土に広がってくれたらこんなに嬉しいことはありません。そのために、なるべく活動を長く続けて行こうと思っています」
台湾での奇妙な文化の流行の一助は、少なくとも青年のZ世代特有のコスパ思考と地元愛の融合がもたらしたものだった。寵物石頭は、まだ日本に上陸していないが、日本で流行したとき、沖縄や鹿児島だけでなく、その他の地域でも石敢當文化が注目される日が来るのかもしれない。
また、台湾では、昔から信仰心が篤く、占いも盛んで、人々は、日常的に神社仏閣のお参りはかかさない。台湾で名物の夜市は、ほぼ神社仏閣の入り口付近から発展していて、お参り帰りの人々目的に食べ物を売り出したところから発展したと言われている。
今回の事例は、その信仰心を常に携帯するところがポイントで、それが昨今の何でもクラウド化しサブスクしてしまう文化とSNSの交流とがうまくハマったのではないかというのが筆者の見立てだ。読者はどう思うだろうか。ぜひ意見を乞いたい。
神田桂一
フリーの編集者、ライター。台湾周りをメインに、カルチャーからグルメまで取材中。台湾ニュースサイト『THE NEWS LENS』編集も担当していた。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『台湾対抗文化紀行』(晶文社)など。
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