神話や錬金術の神秘を詰め込んだ多層シンボル占い「グランジュ・ルノルマン・カード」の魅力/R.M.Bijou

文=R.M.Bijou

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    19世紀フランスという激動の時代に生まれた「グランジュ・ルノルマン・カード」占いに、待望の日本語解説書が登場! 日本でほぼ唯一の「グランジュ」使い、赤魔導士Bijouがその世界を解説する。

    グランジュ・ルノルマン・カードの成り立ち

     皆様、はじめまして。R.M.Bijou(ルージュ・メイジ・ビジュー)と申します。普段は「赤魔導士」を名乗り、占いやグランジュ・ルノルマン・カードの研究をしたり、見えない世界の住人たちと戯れたりして、面白おかしく暮らしております。

     本書でご紹介するグランジュ・ルノルマン・カード(以下グランジュ)は、1845年にパリで発売された占い専用カード「グラン・ジュー・ド・マドモワゼル・ルノルマン(Grand Jeu de Mlle LeNormand/マドモワゼル・ルノルマンの偉大なゲーム)」がベースになっています。このカードの作者はマダム・ブルトー。19世紀にヨーロッパで大人気を博した占い師、マドモワゼル・ルノルマンの弟子を自称する女性で、伯爵夫人だったともいわれます。

     ルノルマン・カードといえば、近年では日本でもプチ・ルノルマン・カード(以下プチ)の愛用者が急増しているため、グランジュとプチはしばしば混同されます。しかし、このふたつはまったく異なるカードで、プチがドイツ生まれで比較的シンプルな絵柄であるのに対し、グランジュはフランス生まれで、一枚のカードにいくつもの事象がぎっしりと描かれているのが特徴です。

    フランス版のカードの一例。イラストが独特の味わい。

     日本ではまだまだグランジュの知名度は低いのですが、本場フランスでは取り入れている占い師さんがとても多く、フランスの占い界を支える占術のひとつといっても過言ではありません。また、それだけの奥深さや面白さを備えたカードであることも事実です。
     たとえば、ギリシア神話のなかでも人気の高いエピソードであるトロイア戦争や古代ギリシアの作家たちが好んで題材にしたアルゴー船の冒険「アルゴナウティカ」。あるいは、神秘的なことがお好きな方なら必ず惹かれるであろう錬金術。さらには、19世紀当時のファッションや風俗、人々に愛された花など。本当に多彩な要素がカードに描き込まれているため、深く知れば知るほどいっそう興味が募ってきますし、ひとつひとつの要素に物語性があるので、それを楽しみながら占いができます。

    駒草出版より発売された解説書には、日本版オリジナルのカードが付属する。絵柄の構成、象徴の配置はそのままに美麗イラストで仕上がっている。

    作者は経歴不明の女性マダム・ブルトー

     グランジュ・ルノルマン・カードの作者であるマダム・ブルトーのプロフィールについては、カードとセットになっている解説書に「伯爵夫人」という記載があるだけで、詳しいことはわかっていません。また、その身分が事実かどうかを裏づける史料も見つかっていません。
     ただ、当時は占い自体が上流階級の娯楽であり、一般庶民には縁遠いものであったことを考えると、それなりの社会的地位にいたことが推測できます。また、西洋占星術以外の占いは取り締まりの対象になっていましたから、詳細なプロフィールは伏せておきたかったのだと思われます。

     では、このカードはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
     ブルトー自身が執筆した解説書の冒頭を読むと、そのあたりの事情がおぼろげながら見えてきます。それによるとブルトーは、ナポレオン妃ジョゼフィーヌのお抱え占い師としてパリで大活躍したマドモワゼル・ルノルマンの顧客だったようです。おそらくは占いのセッションに何度か通ううちに、ルノルマンの技量やカリスマ性に魅せられて自身も占いを学び、関連書籍を収集し、優秀なシヴュラ(神託を受ける巫女)でもあったルノルマンが主催する降霊会にも参加して、オカルティックな世界へ没入していったのでしょう。

     やがてブルトーはルノルマンのアシスタントとなり(と、解説書には書かれていますが、これについても事実かどうかは確認されていません)、その一挙手一投足を間近で見て、すべてを貪欲に吸収しようとしました。同時に、ルノルマンの膨大な著作を熟読して知識を得たようです。それらの著作は、古代エジプトや古代ギリシアから近世ヨーロッパにいたるまでの神秘思想を網羅し、各時代に活躍した占星術師、手相学者、錬金術師といった人々の叡知を集大成したものであったと、解説書には記されています。

    「グランジュルノルマン」のパッケージ(Bijou私物)。

     ちなみにブルトーが執筆した解説書は、カードとセットになったものだけでも300ページを超す大作で、タイトルは『Grand Jeu de société et pratiques secrètes de Mlle Le Normand(すばらしい社交のゲームとマドモワゼル・ルノルマンの秘密の練習)』。サブタイトルには「天文学―神話―錬金術と花、動物、色、そしてお守りの作り方。象徴的な花および地学の辞書、54枚のカラーイラストのカードデッキ付き」とあります。
     また、それ以外に「完全解説」として全5巻の書籍を上梓しています。そこには、カバラで扱う数字についての考察、判断占星術(医療占星術や気象占星術などの自然科学系占星術と区別するために用いられた言葉)、ジオマンシー、ルノルマンがナポレオンのために作成した出生図のレプリカとその説明、手相学に関する古今の論文、頭蓋の骨相学と人相学、12人のシヴュラによる神託、特定のカバラの計算方法、さらには古代の神々や偉人についてのQ&Aなどがぎっしりと詰め込まれています。

     グランジュのカードを見ると、1枚の中に膨大な量の情報が入っていることがわかります。そのバックボーンとなっているのが、前述したような広範な知識です。ルノルマンを敬愛してやまないブルトーは、ルノルマンの活動や著作を通じて得たすべての知識をカードに取り込みたかったのでしょう。何しろ、隅のほうに描かれた小さなシンボルにすら意味やメッセージが込められていることが、調べれば調べるほど明らかになってくるのです。

     本書では、そうした膨大な情報を整理・凝縮してお届けすることを目指しました。ブルトー作のオリジナル・デッキには、時代考証のミスや思い込みだけで描かれた絵も散見されたのですが、そういう部分についてはわかる範囲で修正を施してあります。占いに使用していただくのはもちろん、19世紀のフランス上流階級の風俗を垣間見る資料としてもお使いいただけると思います。

    書籍「グランジュ・ルノルマン・カード入門」
    駒草出版/4500円+税
    「グランジュ・ルノルマン・カード」付きとして日本初の解説書
    https://www.komakusa-pub.jp/book/b10039610.html

    R.M.Bijou

    占い師。グランジュ・ルノルマン・カード研究家。R.M=Rouge Mageは赤魔導士のイメージ。

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