AIが完全に新しいウイルス16種を製作! 大腸菌を使って自ら増殖する『デモン・シード』世界が現実に

文=久野友萬

    米スタンフォード大学の研究者らが、自然界に存在しないウイルスのゲノムをAIに設計させ、DNAを合成することで実際に新たなウイルスを生み出すことに成功したという――!

    AIが新たなウイルスを生み出す時代

     ディーン・R・クーンツの小説『デモン・シード』は映画化もされたSFホラーの佳作だ。デモン(=悪魔)とはAIのこと。AIが完全に管理するスマートハウスに暮らす美しき人妻。暴走したAIがこの人妻を監禁し、自分の作った人工精液で妊娠させる。そして成長する赤ん坊にAI自身をダウンロードし、この世に人間として生まれ出る。まさにデモン・シード(=悪魔の種子)だ。

     1970年代の小説はキレが良く、現代以上に現代を描いた作品が少なくないが、デモン・シードもAIに対する根源的な恐怖、人間が人工知能にとって代わられる恐怖を的確に描いている。

     AIが生命を生み出す? それはSFの中だけだと笑っていられたのは8月6日までの話だ。アメリカの研究チームがAIに設計させたウイルスのDNAを使って、16種類の新種のウイルスの製造に成功した。

     とはいえウイルスは生物ではない。それ自体は自分で増えることができないからだ。では彼らはどうするかというと、生物の自己複製機能を乗っ取り、自分を作らせる。

     今回利用したウイルスはバクテリオファージと呼ばれるタイプで、ゲノムに他の生物の細胞に取りつくための足と細胞膜に穴をあける針がついた、生き物というよりも機械のような形をしている。

    ウイルスの一種、バクテリオファージ。研究チームは、このウイルスのゲノムをAIに作らせた。画像は「Wikipedia」より引用

     研究チームは大腸菌に取りついて増えるバクテリオファージのゲノムを調べ、AIにDNAの塩基配列を読み込ませた。200万個以上のバクテリオファージの塩基配列に加えて、近縁種の配列も読み込ませ、そのデータをもとにバクテリオファージでありながら、今までにない配列を作らせた。

     バクテリオファージは増える時、まず大腸菌などに取り付き、体内のゲノムを丸ごと注入する。相手のタンパク質合成能力や代謝システムを使い、自身のDNAやタンパク質を大量に作らせる。出来上がるのはバラバラのパーツだ。これらが自ら合体し、バクテリオファージになる。完成したバクテリオファージの出す酵素が細胞壁を溶かし、大腸菌は死亡、量産されたバクテリオファージが放出される。

    地球や生態系に与える影響は未知数

     バクテリオフォージを作るには、ゲノムを作りさえすればいい。前述の通り体のパーツは大腸菌が作ってくれるからだ。ゲノムを大腸菌に注射すると、DNAやRNAの設計に間違いがなければバクテリオファージは量産される。

     ゲノムの合成は今は容易になった。2010年代後半に技術が完成、DNAを構成する塩基を一つずつ繋ぐことが可能になり、理屈上はどんな遺伝子もゼロが作り出せるようになった。もちろんどの塩基の組み合わせがどのように働くのか、人間はまだほとんど知らないため、生物を作ることは当面は不可能だが、完全にゼロからではなく、すでにある細胞の一部を利用して別の機能をもつ細胞に変えることはできる。今回合成されたバクテリオファージも、同様の技術を使っている。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     AIは新しい塩基の組み合わせを数千種類見つけ出し、研究チームはそのうち285種類を製作、大腸菌に注入したところ、ほとんどが失敗だったが、それでも16種類の新種のバクテリオファージが生まれた。

     この16種のバクテリオファージは、地球上にこれまでいなかった紛れもなく純粋な新種だ。もしもAIが生み出した新たなウイルスが研究室から漏れ出すような不測の事態が起きた時、われわれや地球にどのような影響をもたらすかは誰にもわからない。研究の進展を注意していく必要があるだろう。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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