異星人たちの会話を“盗聴”することでコンタクトを目指せ! 鍵は狭帯域無線信号と惑星間掩蔽にある

文=仲田しんじ

    同じ物理方式の下で暮らしている以上、地球外文明を無線通信を使っている可能性がある。それが検知できれば、会話内容を“盗聴”できるかもしれない――!

    エイリアンの会話を傍受するには

     1977年に打ち上げられたNASAの「ボイジャー1号」は現在、地球から約254億キロメートル離れた太陽系外縁部を航行しており、人類が送り出した探査機として最も遠い場所にある。2026年11月には光の速度で移動して丸一日かかる1光日の距離に到達するといわれている。

     ボイジャー1号との通信は人類が達成した最長の超長距離通信であり、巨大アンテナと高度な信号処理技術から構成されるNASAの「ディープスペースネットワーク(DSN)」技術が用いられている。きわめて遠くにある探査機の信号は微弱であるため、狭い帯域で慎重に信号を送受信することが必要になるのだ。

     もしも、地球外文明がお互いに交信をしているならば、同様の狭帯域通信を用いている可能性がありそうだ。ならば、われわれはエイリアンの会話を“盗聴”することで地球外知的生命体探査を進めることができるのかもしれない。

     米ワシントン州立大学の博士研究員であるニック・トゥセイ氏が学術誌「The Astronomical Journal」で発表した研究では、地球外の電波通信を検出できる新しい手法が説明されている。

    掩蔽(Occultation)の例 画像は「Wikipedia」より

     日食や月食は地球上から観測できる天文学上の大イベントだが、天文学においてある天体が別の天体の前を通過し、後方の天体を一時的に隠してしまう現象のことは掩蔽(えんぺい)と呼ばれている。

     掩蔽する惑星は必ずしも背後の惑星の情報を完全に隠すわけではなく、掩蔽された惑星からもしも地球外文明がメッセージを送信していた場合、狭帯域信号が宇宙空間に漏れ出し、電波望遠鏡で検出できる可能性が生まれてくるという。

    「私たちがいつも発しているような信号――つまり、異星文明が自分たちのための仕事をこなす中で普段から発している信号を見つけたり、探したりできるようになりたいのです」(トゥセイ氏)

     惑星間掩蔽によってエイリアンの会話を傍受できるとするトゥセイ氏の方法は、天体が発する多様な電波と比べて明らかに人工的に見える狭帯域無線信号を探し出すことを目的としている。

     狭帯域無線信号が自然に発生しないという事実は、地球外探査(SETI)にとって有効である。なぜなら、地球上の電波望遠鏡が宇宙から来た狭帯域信号を検出した場合、それはほぼ間違いなく人工的な信号であることを意味するからだ。

    エイリアンも無線通信を行っている?

     科学メディア「Popular Mechanics」によると、SETI研究所の上級天文学者であるセス・ショスタク博士も、狭帯域信号は宇宙において何者かが通信している確かな兆候であることに同意している。

     もちろん、地球外生命体がまだ人類には理解できない種類の信号を使用している可能性もあるが、天体物理学者でもあるショスタク博士は、宇宙人も人間と同じ通信手段を使用する可能性が高いと考えているようだ。

    「彼らの世界の物理法則は、地球の物理法則と同じです。彼らもおそらく無線信号を使うでしょう。なぜなら、それは宇宙の物理法則と合致しているからなのです」(ショスタク博士)

     SETIおよび非営利団体アメリカ物理学会の科学史家、レベッカ・シャルボノー博士によると、惑星間で伝送される狭帯域信号に頼ることの現実的な理由は、人間がそれを理解しているからだという。

     SETIが始まった1950年代後半から1960年代初頭、宇宙開発競争が本格化した頃、人類は宇宙に人工信号を送信していた。そして人類はすでに同じようなことをしている知的生命体が存在するのではないかと考え始めていた。

    「私たちが目にするものについて考えるとき、私たちは環境に大きく影響されるものです」(シャルボノー博士)

    Josep Monter MartinezによるPixabayからの画像

    見つかるまで探索を止めるな

    「The Open Journal of Astrophysics explores」に掲載された最新研究によると、エイリアンの通信技術はきわめて進歩しており、重力波を使って通信している可能性があることが報告されている。重力波は時空の“さざ波”であり、物理学者はまだその仕組みを完全に理解していない。

     そこで問題になるのは、狭帯域の電波とは異なり、われわれの現在の科学技術レベルでは自然の重力波と人工的な重力波を区別できないことだ。

     それでもトゥセイ氏は落胆していないようだ。“盗聴”技術の考え方を文献に残し、将来の科学の進歩によって不自然な信号を拾うために必要な調整が行われるようにしたいと考えているという。

    PexelsによるPixabayからの画像

     また、たとえ地球外文明からの信号を検知できたとしても、実際に解読できるかどうかは全く別の問題だという点には注意が必要となる。

    「解読はおそらくできないでしょう。しかし信号の変調から、彼らの惑星や彼ら自身の姿といった単純な情報が伝わってくるかもしれません。アンテナを空に向けることで、なにかわかることがあるかもしれません」(ショスタク博士)

     一方でシャルボノー博士は、エイリアンのメッセージが謎のままである可能性に加え、そもそもエイリアン由来の信号と特定するには、厳密な科学的検証が必要だと考えている。また、人類自身の偏見を問い直す必要もあるという。われわれは地球上で馴染みのある信号や文明を想像し、探し求める傾向がある。結局のところ、それが人類が知っていることのすべてだからだ。

    「なにか見つかるまで、こうした探索を続ける必要があります。なにも見つからないからといって、そこに何もないというわけでもありません」(トゥセイ氏)

     はたして、地球外生命体の痕跡や信号を特定できる日は近いのか。ともあれ今後も地道に地球外探査を続けていくしかないようだ。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「The WOW Contact」より

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/space/a69674444/listening-for-alien-radio-signals/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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