地球の磁場が“極端に弱い領域”が急速拡大中! ポールシフトの前兆か、科学者が注視する異変

文=仲田しんじ

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    南米とアフリカにまたがる、磁場が著しく弱い領域「南大西洋異常帯」。現在、その範囲が拡大しているという。地球に良からぬことが起きているのだろうか!?

    磁場が弱い「南大西洋異常帯」が拡大

     地球の磁場(地磁気)は、宇宙から絶えず高速で飛来する放射線(宇宙線)や荷電粒子を防いでくれる。この惑星で暮らす生命にとって、決して欠くことのできないシールドにほかならない。

     この磁場を生成しているのは、地下約3000キロで渦巻いている溶融した鉄だ。この鉄の海が、自転車のダイナモのようなメカニズムで電流を発生させているのだが、それによって磁場が生じるプロセスは極めて複雑である。その結果、場所によって磁場は弱まり、他の場所では強くなるなどのムラが見られるのだ。

     地球の磁場が著しく弱い領域である「南大西洋異常帯(South Atlantic An、SAA)」は、南米とアフリカにまたがる範囲に広がっていることが19世紀に判明している。この領域では、地球を取り巻く放射線帯(ヴァン・アレン帯)の高度が低くなっており、同領域を通過する人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)が通常よりも多くの高エネルギー粒子に晒されてしまう。そのため、機器の故障や誤作動を引き起こす可能性が高まるのだ。

     そして最近の観測によると、この異常帯の範囲が拡大しており、2014年以降にヨーロッパ大陸のほぼ半分の面積にまで広がっていることが報告されている。

     過去11年、欧州宇宙機関(ESA)は観測衛星群「スウォーム(Swarm)」を使って地磁気を観測してきた。ESAによれば「南大西洋異常帯」が2014年から2025年の間に着実に拡大しており、アフリカ南西部周辺の大西洋では2020年以降、地球の磁場がさらに急速に弱まっていることが突き止められた。

     南半球の地磁気 画像は「ScienceDirect」より

     今年9月、学術誌「Physics of the Earth and Planetary Interiors」に掲載された論文の主筆でデンマーク工科大学の地磁気学教授であるクリス・フィンレイ氏は、「南大西洋異常帯は単一のブロックではありません。アフリカ方面では、南米付近とは異なる変化が見られます。この地域ではなにか特別なことが起きており、それが磁場をより激しく弱めているのです」と説明する。

     この現象は、地球の外核(溶けた鉄)と岩石マントルの境界にある磁場の向きが局所的に反転する現象である「逆磁束パッチ(everse flux patch)」が発生していることに起因すると考えられている。

    「南大西洋異常帯の下では、磁場が地球のコアへと逆戻りする予期せぬ領域が見られます。スウォームのデータのおかげで、その領域がアフリカ上空を西に移動していることが判明しました」(フィンレイ氏)

     現在、「南大西洋異常帯」は宇宙の安全の観点から特に注目されており、同領域を通過する衛星は以前よりもさらに故障や損傷、停電のリスクが高まることになる。ちなみに、地上にいるわれわれへの直接的影響はほとんどないことがNASAからアナウンスされている。

    画像は「European Space Agency」より

    地磁気が逆転する“ポールシフト”の前兆なのか?

     地球の核、マントル、地殻、海洋、および電離層と磁気圏から発生する磁気信号を正確に測定するESAの地球観測ミッションは、今も継続中だ。スウォームは当初の設計寿命をはるかに超えた運用だが、それによって地磁気の研究やさまざまなサービスが支えられている。

     最新のスウォーム観測結果は、想定よりもダイナミックな地磁気の性質を浮き彫りにしている。たとえば、磁場が特に強い地点が南半球には1つ、北半球には2つあることが判明した。北半球の1つはカナダ周辺、もう1つはシベリア周辺だ。

    北半球の地磁気 画像は「ScienceDirect」より

    「地球の磁場を理解しようとする際には、それが棒磁石のような単純な双極子ではないことを覚えておくことが重要です。スウォームのような衛星があって初めて、この構造を完全にマッピングし、その変化を観察できるのです」(フィンレイ氏)

     観測が始まって以降、シベリア上空の磁場は強まり、カナダ上空では弱まりはじめたという。カナダの磁場が強い領域は地球の表面積の0.65%(インドとほぼ同じ面積)まで縮小したが、シベリアの領域は地球の表面積の0.42%(グリーンランドとほぼ同じ面積)まで拡大した。

     そしてこの変化は、北磁極が少しずつシベリアに向かって移動している近年の動きとも無縁ではないという。

     地球の磁極(北極と南極)が入れ替わる「地磁気逆転」、つまりポールシフトは過去に11回以上起きたといわれているが、北磁極がシベリアに向かって移動していることはポールシフトの前兆かもしれないというのだ。

     ESAはスウォームの運用を2030年以降も続ける予定で、これにより研究者らは今後何年も地球の磁場の動きを追跡し続けることができる。約78万年前に起きたというポールシフトがはたして再来するのか。地球の磁場の詳細な観測は、ポールシフトのメカニズムの解明にも繋がるのかもしれない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Eruption Zone」より

    【参考】
    https://www.esa.int/Applications/Observing_the_Earth/FutureEO/Swarm/Swarm_reveals_growing_weak_spot_in_Earth_s_magnetic_field

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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