太陽系外「3l/アトラス」の謎/MUTube&特集紹介 2025年10月号

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    今、静かに太陽系に近づきつつある、超巨大な恒星間天体がある。その名を「3I/アトラス」。長い宇宙の旅を続けてきたこの天体は、地球に何をもたらすのだろうか? この記事を三上編集長がMUTubeで解説。

    太陽系に最接近する巨大恒星間天体アトラス

     アメリカ時間2025年7月1日、NASAの支援で南米チリのリオ・ウルタド渓谷に設置されたATLAS望遠鏡によって、恒星間天体アトラス(「3I/ATLAS」)が発見された。
     2017年における、オウムアムア(「’Oumuamua」)、2019年のボリソフ彗星(「2I/Borisov」)に続き、恒星間天体の発見としては史上3例目となる。
     6月14日までさかのぼることができる観測データによれば、アトラスは太陽から約6億7000万キロ離れた宇宙空間で発見されて以来、秒速約61キロで太陽へ向かっている。双曲線の軌道を描きながら、太陽の重力の影響を受けないまま太陽系を通過し、その後は恒星間空間へ戻ることが予測されている。
     核のサイズは最大で20キロ程度と推定されるが、太陽に接近するにつれて形成されるコマ(ガスや塵の雲)が与える影響を考えると、実際の大きさは見た目ほどはないかもしれない。
     太陽に最接近するのは2025年10月29日ごろで、そのタイミングで地球と火星の軌道間を通過する。地球への最接近は12月19日あたりと推測され、約2・7億キロまで近づくが衝突の危険性はなく、最接近でも2.4億キロの距離が保たれる。
     アトラスはこれまで観
    測された3つの恒星間天体のなかで離心率(軌道の開き)がもっとも高く、かつ速度もあるため、今回の発見は太陽系外天体をこれまでにないほど直接的な形で検証できるまたとないチャンスであるといわれている。
     世界中の天文学関連機関が追跡観測の体制を整え、7月から9月にピークを迎える観測期間に備えている。10月下旬には一度、太陽に隠れて見えなくなるが、12月初旬になると再び観測が可能な状態になる。
     アトラスは科学的にも哲学的にもきわめて重要な意味を持つ恒星間天体と位置づけられており、発見がもたらすものは多岐にわたる。
     3つ目が見つかったということは、かつては出現や発見自体がきわめて稀であるとされていた恒星間天体が、実際には想像以上の頻度で太陽系を通過している証拠となる。また、観測によって、以下のようなさまざまな科学的メリットももたらされるだろう。
    ❶他の恒星系の形成のプロセスや化学的組成を、より直接的な方法で比較できる
    ❷星系形成モデルの検証データを蓄積することができる
    ❸有機分子や生命の種の「宇宙的移送説」(パンスペルミア説)の根拠を探ることができる

    恒星間天体アトラスは巨大宇宙船なのか?

     恒星間天体は、銀河内での重力相互作用(恒星、惑星、星間雲など)によって宇宙をさまよっている。軌道解析から銀河系内での質量分布や天体の運動史を逆算することも可能で、銀河全体の進化シミュレーションに関する重要なデータも集積されるはずだ。
     恒星間天体という言葉から、ハーバード大学の理論物理学者アヴィ・ローブ博士を連想する人は少なくないだろう。2017年に発見されたオウムアムアは「地球外文明によって太陽系に送りこまれた探査機である」という主張で知られることになった人物だ。英米のメディアでは〝エイリアン・ハンティング・サイエンティスト〟というニックネームが定着している。
     その奇妙な形状や加速の様子から、オウムアムアが「人工的な探査機である可能性を排除できない」という持論を展開したローブ博士は、世界レベルで巻き起こった議論の出発点であり、中核でもある。
     そして今、アトラスもオウムアムアと同じ太陽系外から飛来した人工物であるとする声が高まっている。中心にいるのは今回もローブ博士だ。
    「アトラスは自然物体ではなく、高度文明による人工物体、あるいは宇宙船かもしれない」──博士の言葉は、科学界だけではなく一般社会に再び大きなインパクトを与えることになった。
     オウムアムア偵察機仮説で一気に有名になったあと、ローブ博士は自説をバックアップする意味もあって別方向の検証プロジェクトを展開した。
     その一環として2023年6月に実行したのが、2014年にパプアニューギニアの沖合140キロに落下した「IM1」という隕石に関連する物質を海中から回収するプロジェクトだ。
     このとき回収されたのは約700個の金属片で、ワイヤー状のものや極小の金属球が含まれていた。こうした数多くのサンプルの分析を行って得られた結果は驚くべきものだった。
     ローブ博士によれば、地球上の自然界では考えられない組成の合金であると考えるに十分な要素が多かったのだ。
     金属球に限っていえば、太陽系標準の隕石と比較してベリリウムやランタン、ウランといった元素が異常なほど多く含まれていたため、太陽系外から飛来したという仮説がクローズアップされることになった。

    (文=宇佐和通)

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    webムー編集部

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