この世は二次元情報の三次元投影だった!? 宇宙の実相に迫る最先端「ホログラフィック原理」

文=仲田しんじ

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    漫画やスマホなど、日頃から二次元に慣れ親しんでいる我々だが、そもそもこの世界の実相が二次元だったなら――。三次元に見えるこの世界が、実はホログラフィーであるという「ホログラフィック原理」の説得力が一層増しているという。

    宇宙は二次元情報の三次元投影?

     この世界が実は二次元だったとすれば驚くばかりだが、米バーミンガム大学の理論物理学者マリカ・テイラー教授は、「宇宙を三次元構造とみなす従来の見方は不完全かもしれない」と説明する。

     同教授は、我々が見ている現実はホログラフィーであり、この世は二次元の境界に保存された情報の三次元投影にすぎないと見なす「ホログラフィック原理」を提唱する学者の一人だ。では、なぜ科学者は宇宙が二次元であり、ホログラムであると考えているのだろうか。

     その足掛かりは、スティーブン・ホーキング博士が提唱してブラックホールが物理学の基本法則に反していることを示唆した「ブラックホール情報パラドックス」問題にある。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     量子物理学の法則において“情報”は生成も破壊もできないとされているのだが、ブラックホールに落下した物質の情報は失われると考えられている。つまり、ブラックホールの存在は量子物理学の法則に反していることになる。

     しかし、ブラックホールが二次元であると仮定すればこの矛盾は解消される。ブラックホールに吸い込まれた情報は破壊されるのではなく、ブラックホールの二次元境界全体(事象の地平面)に拡散されることになり、質量のない二次元情報として保存されるのである。

     このアイデアはSF的な空想に留まらない。ホログラフィック原理に基づいて構築された「AdS/CFT対応」という仮説は、1997年に物理学者フアン・マルダセナによって考案された。

     AdS/CFT対応では、三次元に見える時空構造空間(AdS)と、二次元の境界面(CFT)が正確に対応関係にあることが説明される。つまり、二次元で起きていることが三次元でも起きているのである。

     現段階では、AdS/CFT対応は数学的分析に基づいた推測に過ぎず、残念ながら実際にこの対応が正しいと証明した人はいない。しかし、我々の三次元宇宙の物理と、その境界面の物理の間に密接なつながりが見つかった場合、話は一気に進展することになる。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    宇宙は“考えても仕方がない問題”!?

     ホログラフィック原理を支持する一部の物理学者は、すでに我々の現実は幻想であり、空間や時間や重力として認識されるものは、一段低い次元に存在するものと見なす。

     アインシュタインの研究以前は、重力は質量を持つすべての物体を結びつける目に見えない紐の集合体であると考えられていた。しかし現在では、重力は時空構造の歪みと見なされている。これは、一般相対性理論が提供する見解は、アインシュタイン以前の理解よりも「現実的」と判断しているに過ぎない。

     だが、こうした理論をすべて人間の脳が世界を整理し理解するため開発した数学的ギミックであると見なせば、その数学が必ずしも宇宙の真実と直結しているわけではなく、究極的には全てがフィクションにすぎないとも言える。我々がどう解釈しようとも、宇宙は宇宙の為すべきことを淡々と行っているだけなのかもしれない。

    Juan Agustín Correa TorrealbaによるPixabayからの画像

     たとえば物理学者は、問題を解くために日常的に無数の“数学ゲーム”を駆使し、時には問題は高次元や低次元に投げ込まれたり、虚数の領域に押し込まれたり、あるいはプロセスを時間軸で前後に移動させたりと忙しい。こうした数学的に高度な試みが、この世の実相に迫る探究であるとは言えない可能性もあるのだ。

     もしホログラフィック原理が正しく、宇宙の実像が二次元であることが証明された場合、現実が幻想であると結論づけるのか、それとも物理学者たちがさらに研究を進めることになるのか、それを決めるのは結局のところは我々次第となるのかもしれない。宇宙が“考えても仕方がない問題”になってしまうとすれば、なんとも味気ない世の中になりそうだ。

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/space/a65292363/universe-is-a-hologram-illusion/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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