人類の誕生は重力波のおかげだった!? 最新研究が明かす宇宙の深淵なメカニズム

文=仲田しんじ

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    地球という惑星で今我々がこうして存在していることは、ある意味で奇跡に近いとも言えそうだが、では我々の身体を形作っている“原材料”はどこから来たのか? 新たな研究では、我々は重力波なしには存在し得ないことが報告されている――。

    地球の“原材料”が揃ったのは重力波のおかげ

     我々の身体の“原材料”である原子や元素は、燃え盛る恒星で最初に形成された。つまり、この宇宙で天体の活動がなければそもそも我々はここに存在していないことになる。

     英カーディフ大学をはじめとする研究チームが今年5月に電子ジャーナル「arXiv」で発表した研究では、重力波と我々の存在を結びつける天文学的、地球物理学的、生物学的な一連の出来事を詳述する思考実験を説明している。

     論文主筆のバーナード・シュッツ氏は長い間、重力波があらゆるものの存在に不可欠である理由について考えてきた。2018年のブログ記事でシュッツ氏は、2つの中性子星の衝突によって生じた重力波が初めて検出された事例「GW170817」を再検証し、キロノバ(Kilonova)として知られるこれらの連星中性子星の衝突が、最終的に天の川銀河を形成して太陽系の地球上に知的種族を生み出す連鎖反応のきっかけとなった経緯について検証し、まるでドミノ倒しのような一連の出来事によって、重力波こそが我々人間を生み出したという論考を提示した。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     では、連星系から地球上の生命が繁栄するまで、具体的にどのように進展するのか? 今回の研究では、その基本的プロセス全体を解説し、中性子星衝突による重力波は、豊富な重元素が特徴である地球の形成において“主役”を担ったと説明している。

    「キロノバ爆発は、周期表で鉄より上の元素の主な供給源となっている。これらにはウランとトリウムが含まれており、これらの放射性同位体である238Uと232Thは地球内部全体に分布している。キロノバがなければ、これらの同位体の存在量ははるかに少なく、あるいはゼロだっただろう」(研究論文より)

     キロノバは地球の溶融核の形成に不可欠な重元素を放出し、地球の磁気圏を形成し、プレートテクトニクスを始動させることで生命の誕生を促し、さらには高度な認知能力を獲得したホモ・サピエンスを誕生させる原動力となったことが示されるということだ。

     重力波は宇宙の進化だけでなく、地球上の生命にも計り知れない影響を与えているため、科学者たちは重力波の新たな発生源を探るためのツール開発に尽力している。昨年、欧州宇宙機関(ESA)は、レーザー干渉計宇宙アンテナ(LISA)の開発を承認した。これは超大質量ブラックホールの合体から発生する信号を捕捉することを目指した宇宙ベースの重力波検出プラットフォームである。ESAは宇宙形成時に発生する重力波を検出するために、LISAの後継機であるビッグバン・オブザーバー(BBO)の計画も開始している。

     すべての生命が天体の物質でできているが、どうやら地球の“原材料”がすべて揃ったのは重力波のおかげのようだ。

    LISA運用想像図 画像は「Wikipedia」より

    プレートテクトニクスが生物進化を促進

     さらにキロノバによって、地球では岩盤層が移動するプレートテクトニクスが駆動することになったのだが、地球の大陸プレートの動きがすべての生命の進化における変化の大きな原動力であったことも2015年の研究で報告されている。

     豪タスマニア大学をはじめとする研究チームが2015年6月に科学誌「Gondwana Research」で発表した研究では、プレートテクトニクスによる山脈の形成に伴って起こる海洋への栄養素循環が生物進化を促す主因であった可能性が示されている。

     研究チームは、世界中から採取された海底泥岩サンプルから4000個以上の黄鉄鉱粒子(pyrite grains)を分析し、7億年の間に海洋中の微量元素濃度がどのように変化してきたかを明らかにした。

     微量元素には銅、亜鉛、リン、コバルト、セレンなどがあり、これらは海洋植物プランクトンから人間に至るまで、ほぼすべての生命の活動に不可欠である。

     最も驚くべき発見は、地球の歴史において海洋中の栄養微量元素がきわめて豊富だった時期と、これらの重要な微量元素のレベルが非常に低かった時期があったことだ。そして、栄養微量元素が非常に豊富だった時期に生物の進化が著しく進行し、逆に栄養素の乏しい時代は海洋プランクトンの枯渇を引き起こし進化の速度を鈍化させ、場合によっては大量絶滅を招いたというのだ。

     海洋の栄養分は、最終的には大陸の岩石の風化と浸食によって供給される。風化は岩石中の鉱物を分解し、生命を養う微量元素を海洋へと放出するのだ。

    画像は「ScienceDirect」より

     地質学の歴史から見ると、プレートの衝突が徐々に起こる造山運動の際に侵食率が劇的に上昇し、その結果海洋の栄養素が増加する。そして浸食が進むと、徐々に供給される栄養素が枯渇してくる。

     プレートテクトニクスと生物の進化はどちらも数百万年という同じ時間スケールで動いており、因果関係があると考えるのは理にかなうと思われると研究は結んでいる。

     とはいえこの因果関係は海洋生物に限ったものであり、約3億7000万年前の陸生動物の出現以降は、生物進化にとって海洋の栄養素の影響は徐々に弱まってきたことになる。

    JoeによるPixabayからの画像

     それでも我々ホモ・サピエンスの誕生の礎を築くうえで重要な役割を担っていたのは地球のプレートテクトニクスということになる。そして、地球にプレートテクトニクスの機能を持たせたのは重力波であるとすれば、宇宙の深淵なメカニズムに畏怖の念を禁じ得ない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「UTD GEOSCIENCE STUDIO」より

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/space/deep-space/a64855623/gravitational-waves-life/
    https://theconversation.com/plate-tectonics-may-have-driven-the-evolution-of-life-on-earth-44571

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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