フランスのUFO研究機関が認めた第三種接近遭遇事例 「ヴァレンソール事件」の基礎知識

文=羽仁礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、1965年にフランスの小さな村で、農夫が謎のUFOと異形の生命体に遭遇した事件を取りあげる。

    早朝のラベンダー畑に着陸した奇妙なUFO

     ヴァレンソールは、南仏プロヴァンス地方にある「コミューン」のひとつである。
     日本人にとっては聞き慣れない言葉かもしれないが、コミューンとはフランスでは最小単位の地方自治体を指す。フランスの行政制度においては、法律上、市や町といった区別はなく、県の下に郡、小郡があり、その下にある最小単位の行政区画が、現在約3万8000あるコミューンなのだ。
     ほとんどのコミューンは人口2000人未満の小さな集落だが、パリやマルセイユのような大都市も制度上はコミューンである。ただ、これらのコミューンを日本で紹介する際には、日本人の感覚に合わせて「市」や「村」などを適宜つけている。

     今回紹介するヴァレンソールも人口2000人に満たない小さな共同体なので、村と呼んでいいだろう。

     1965年7月1日未明、このヴァレンソール村の近くで、フランスの、いや世界のUFO事件史に残る第三種接近遭遇事件が発生した。より正確にいえば、事件はヴァレンソール北西2キロに位置するオリヴォルという場所で起きたのだが、一般には「ヴァレンソール事件」と呼ばれている。

    1965年7月1日未明、農夫のモーリス・マス(写真左:帽子を被った人物)がUFOと謎の生命体に遭遇したことを報じた記事。

     この日、ヴァレンソールに住む41歳の農夫モーリス・マスは、午前5時ごろ家を出て、オリヴォルにある自分のラベンダー畑に向かった。

     5時45分ごろ、ひとしきり畑仕事を終えたマスが、小さな岩山の陰でタバコを吸ってひと休みしていると、まるで口笛のように甲高い、奇妙な金属音が聞こえてきた。彼はフランス軍のヘリコプターがやってきたものと考えた。

     というのは、彼の畑には以前にも何度か、演習に参加した軍のヘリコプターが着陸したことがあったのだ。そこでマスは岩山の裏に回り込み、ヘリコプターの姿を期待して辺りを見回してみた。ところが、彼の見たものは、見慣れたヘリコプターとは似ても似つかないものだった。

     90メートルほど離れたところに着陸していたのは、ラグビーボールのような形をした、奇妙な乗り物らしき機械装置だった。

     大きさは、ルノー社のドーフィンという乗用車くらいで、上部は透明だった。下部には4本の細い着陸脚があった。その着陸脚は中央の太いパイプのような支柱とつながっており、支柱と4本の脚で地面に着陸していた。マスはこの姿を「まるで巨大なクモのようだった」と述べている。

    フランス南部ヴァレンソール村の高台から、UFOが着陸した現場方面をのぞむ(矢印の示すあたり)。
    UFOが着陸したラベンダー畑。矢印で示した部分が着陸地点。
    マスが目撃したUFOのイメージスケッチ。ラグビーボールのような形で、4本の脚があったという。

    マスと遭遇して驚いた? 異形の人物が見せた行動

     物体のドアは開いており、そこから内部に背中合わせになったふたつの席があるのが見えた。そして近くにはふたりの人物がおり、ラベンダー畑の端にかがみ込んでいた。

     彼らの姿がまた奇妙なものだった。ふたりとも身長は1.2メートル足らずで、体にぴったりフィットするカバーオールを着ており、その色はグレーがかった緑色だった。
     腰にはベルトを巻いており、その左右に小さなシリンダーか、箱のようなものを装着していた。手にグローブなどはめてはおらず、頭もむき出しで、ヘルメットなどは被っていなかった。その頭はカボチャのように大きく、成人男性の3倍ほどもあり、髪の毛はなく、つるつるだった。
     目は吊りあがっており、頬は肉づきがよく、出っ張っていた。尖った顎をして、口は唇がなく穴のようだった。肌は子どものように滑らかで、非常に白かった。そして彼らはブツブツという音を発し、会話しているようだった。

     ふたりが自分のことに気づいていないようだったので、マスはそっと近寄っていった。ふたりから4~5メートルの距離まで接近したとき、突然ひとりが振り向いた。

     彼らはマスの姿に仰天したようで、すぐさまベルトにつけていたシリンダーのようなものを引き抜いてマスに向けた。その物体から光線がほとばしると、マスはその場に釘づけになり、完全に動けなくなってしまった。ただ、彼らからはまったく敵意が感じられなかったので、マスは体が動かなくなっても恐怖を感じなかったという。

    UFOの乗組員とみられる異形の生命体は、マスの存在に気づくと、彼にシリンダー状の物体を向け、光線を放ってきた。

     ふたりの人物はブツブツというような音を出し、1分ばかりマスについて話し合っているようだったが、すぐに驚くほど敏捷な動きでUFOに引き返していき、スライド式のドアから中に乗り込んだ。

      ほどなく着陸脚が回転して引っ込み、UFOは音を立てずに地上数メートルの位置に浮きあがると、45度の角度で西の方角へものすごいスピードで飛んでいった。マスが見ていると、ほんの20メートルほど飛行したと思ったら、もう青空に消えてしまっていた。マスの体が再び動くようになるまでは、20分ほどかかったという。

    畑に残された着陸痕とマスを襲った謎の症状

     マスの報告を受けた地元の憲兵隊は、さっそく翌日の2日から3日にかけて、マスを伴って現地調査に乗りだした。憲兵隊というと、日本では軍隊内部の取り締まり機関のような印象を受けるが、フランスでは警察と協力して、通常の事件も捜査するのだ。

    地元の憲兵隊が事件直後に行った調査の報告書。

     着陸現場の地面には、異常な痕跡が残されていた。まず、UFOが飛び去った後の地面はまるでコンクリートのように硬くなっていた。

     また、中央の支柱の部分には直径20センチ、深さ50センチの穴が残り、それを中心に十字型の痕跡が刻まれていた。これは4本の着陸脚が中央の支柱とつながっていたというマスの証言とも一致するものだった。この痕跡については、5日に改めて憲兵隊の別の部隊が調査し、スケッチと写真を残した。

    マスの証言をもとに描かれたUFO(上)と着陸現場に残された異常な形の着陸痕(下)。
    マスがUFOを目撃した際の位置関係を示したスケッチ。

     現場付近の土壌のカルシウム濃度は、周辺と比べて異常に高くなっていた。天文学者でUFO研究家のピエール・ゲランによれば、報告されたカルシウムのレベルは、マスが肥料を散布したせいとは考えられず、UFOからの電磁放射による渦電流によって生みだされたものだということだ。

     さらに、物体が飛び去った際、その経路の下にあったと思われるラベンダーは、100メートルにわたって萎れていた。

    調査のため、着陸現場の土を採取する様子。
    ラベンダー畑の土壌サンプルでのテスト。同じ条件で種をまいたところ、普通の土(左側)では発芽したのに対し、着陸痕から採取した土(右側)では芽が出なかった。

     マス本人は5日から数か月間にわたって睡眠過剰の状態となり、1日に少なくとも12時間も眠るようになった。そして、彼の畑では、以後10年間ラベンダーが育たなくなった。

    現場のラベンダー畑に立つマス。謎の光線を受けた影響か、彼は数か月にわたって体調に異常をきたしてしまった。

    マスが見た飛行物体はヘリコプターの誤認か?

     マスが目撃したものはいったい何だったのだろうか。マスは堅実で真面目な人物であり、ありもしないことを口にするような人間ではなかったし、現場に残された痕跡からも、何か異常なことが起きたのは確かだった。

     だが、すぐに彼の体験について否定的な説が出た。その代表的なものがヘリコプター説だ。

     フランスの有名な新聞「ル・モンド」は、早くも7月4日付の紙面で「ヘリコプターを見間違えたもの」という説を展開した。記事では、とある軍関係者が「マスが見たUFOはフランス陸軍軽航空司令部に属するヘリコプターである」と述べたとしている。
     軽航空司令部とは、フランス軍独自の存在で、いわば陸軍のヘリコプター部隊で、偵察や攻撃、補給などを担当する。記事によれば、フランス南部プロヴァンス地方では、6月29日から「プロヴァンス65」というコード・ネームで軍事演習が行われており、それに軽航空司令部も参加していたというのだ。
     ヴァレンソールは演習地域には入っていなかったが、演習領域の東の境界がヴァレンソールから19キロの位置にあった。ヘリコプターであればひとっ飛びの距離だ。つまり、何らかの原因でヘリコプターがヴァレンソール上空にまで達し、マスの畑に不時着したというのである。

     具体的なヘリの機種として、フランス製のアルエットⅡ、あるいはアルエットⅢとの指摘もなされた。アルエット ⅡもⅢも、シュド・アビアシオン社が製造した単発エンジンのヘリコプターで、フランスだけでなく世界中で使用されている。

    フランス製のアルエットⅡ(写真=Wikipediaより)。当時、フランス陸軍軽航空司令部では軍事演習が行われており、マスが見たのは演習に参加していたヘリコプターではないか、という意見が多くあった。

     しかも、アルエットⅡはガスタービン式のエンジンを搭載しており、ローターが停止するとタービンが口笛のような特徴的な音を出す。つまり、マスが聞いた奇妙な音はこのヘリコプターのものだったというのだ。

     また、同じヘリコプターでも、じつはアメリカ軍第6艦隊のヘリコプターが密かにスパイ活動を行っていたのではないかとの説も出された。

     地面の穴については、近隣の畑を所有する農民が一時的に置いた液体燃料タンクの跡ではないかとの主張もある。

    事件の真偽は不明のまま「説明不能」とされた

     こうした指摘に対して、マスは反論している。マスは自分の畑に着陸するヘリコプターを何度も見ているが、7月1日に目撃した乗り物にはローターも羽根もなかった。さらに乗り物が離陸したときの音も、飛行機やヘリコプターのものとは違うと主張している。

     フランスを代表するUFO研究家のひとりであるエメ・ミシェルも、地面に残された十字型の痕跡に関して、どのような航空機もこのような痕跡を残すことはできないと反論する。

     一部では、マスの体験が1960年に出版された『空飛ぶ円盤の乗員』という小説に似ているという指摘もなされている。この小説の舞台はプロヴァンスで、背の低い宇宙人、それに体を麻痺させる光線など、マスの証言に似た要素が含まれているというのだ。だが、この指摘に対しても、マスの体験には小説に似た部分もあるが、違う部分のほうが多いという反論が出ている。

     このように、さまざまな説や主張が飛び交った事件だが、フランスの公的なUFO研究機関であるGEIPANの分類においても、ヴァレンソール事件は「説明不能」と分類されているそうだ。

    マスの目撃談は漫画化もされるほど大いに話題となったが、最終的には「説明不能の事件」という扱いを受けている。

    ●参考資料=『未確認飛行物体UFO大全』(並木伸一郎著/学研)、『宇宙人大図鑑』(中村省三著/グリーンアロー出版社)、『Flying Saucer Review』1965年9/10月号

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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