「この宇宙は別宇宙のブラックホールの内部」だった!? ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測結果が示唆する可能性

文=仲田しんじ

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    無気味に渦巻きながらあらゆるものを飲み込んでしまうブラックホールだが、実は我々の宇宙はこのブラックホールの中にあるのかもしれない――。

    宇宙は時計回りに回転していた

     コロナ禍の2021年、クリスマスに打ち上げられたNASAの「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」は翌年の運用開始から数々の画期的観測を行い、天文学研究を現在進行形で劇的に進展させている。

     JWSTによる「先進的深宇宙探査 (JADES)」プログラムによって263個の銀河が観測されたのだが、その結果は奇妙な謎を孕むものであった。

    ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 画像は「Wikipmedia」より

     深宇宙の263の銀河のうち約3分の2(158)が時計回りに回転し、残りの3分の1(105)は反時計回りに回転していることが判明したのだ。宇宙が完全にランダムであるとすれば、銀河の50%が一方向に回転し、残りの50%が反対方向に回転していて然るべきである。

     JWSTから送られてくる画像データから、この偏りは肉眼でも明らかに識別できるほど顕著であり、誰でもすぐに数の違いに気づけるという。では、この宇宙が趨勢として時計回りに回転しているのはいったいなぜなのか。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     この謎に着目した米カンザス州立大学のリオル・シャミール氏が今年2月に学術誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』で発表した研究では、この謎について2つの説明が考えられることが示されている。

    「1つの説明は、宇宙が回転しながら生まれたということです。これは宇宙全体がブラックホールの内部にあると仮定する『ブラックホール宇宙論』などの理論と一致します。しかし、もし宇宙が本当に回転しながら生まれたのなら、宇宙に関する既存の理論が不完全だということをも意味します」とシャミール氏は説明する。

     つまり、「宇宙に関する既存の理論が不完全」であることが2つめの説明ということになり、現代宇宙論の基盤を見直さなければいけなくなる。

     これまで科学者たちは、天の川銀河の自転速度は遅すぎて、JWSTによる観測に影響を与えることはないと考えていたのだが、ひょっとすると、天の川銀河自体の自転が原因で、JWSTが時計回りに回転する銀河を数多く観測した可能性が疑われることにもなっている。

    「もしそれが事実なら、深宇宙の距離測定を再較正する必要があります。距離測定の再較正は、宇宙の膨張率の違いや、既存の距離測定によれば宇宙自体よりも古いはずの大きな銀河の存在など、宇宙論におけるいくつかの未解決の問題も説明できるかもしれません」とシャミール氏は言及する。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    ブラックホールの内奥でビックバンが起きた

     われわれが今いるこの宇宙は、ブラックホールの内部なのであろうか? ブラックホール宇宙論は「シュワルツシルト宇宙論」とも呼ばれ、観測可能な宇宙自体が、より大きな親宇宙内にあるブラックホールの内部であるという理論だ。

     この考えは、理論物理学者のラジ・クマール・パスリア氏と数学者のI・J・グッド氏によって初めて提唱され、「事象の地平線」としてよく知られている「シュワルツシルト半径」が、可視宇宙の地平線でもあるという考えを示している。

     我々の宇宙がブラックホールの内部にあるとするなら、この宇宙はどのようにはじまったのか。

     米ニューヘイブン大学のポーランド人理論物理学者、ニコデム・ポプラウスキー氏はブラックホール内部に吸い込まれた物質がビッグバンを起こしたのだと説明している。

     ブラックホールの内部へと吸い込まれた物質は質量を何桁も増加させ、きわめて高密度になり、跳ね返り(ビッグバン)の原動力となる重力反発を強めるという。

     あたかもポップコーンの種のように、高密度になった物質がブラックホールの内部の奥底で破裂してビックバンを引き起こし、ブラックホールの入口があった宇宙とは別の新たな宇宙が出現したというのである。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     ポプラウスキー氏によれば、ブラックホールの内部は一方通行で別の宇宙に繋がっており、今我々がいる宇宙にあるブラックホールもまたその内部の奥は別の宇宙に繋がっているということだ。

     ポプラウスキー氏はブラックホールは恒星や銀河、そしておそらく球状星団の中心で形成され、それらはすべて回転していると説明する。つまりブラックホールも回転し、ブラックホールの回転軸はブラックホールによって作られた宇宙に影響を与え、“優先軸(preferred axis)”になるという。

    「回転する宇宙の最も単純な説明は、宇宙が回転するブラックホールで生まれたということだと思います。…(中略)…親のブラックホールの回転軸から受け継がれた私たちの宇宙の優先軸が、銀河の回転ダイナミクスに影響を与え、観測される時計回りと反時計回りの非対称性を生み出した可能性があります」(ポプラウスキー氏)

     深宇宙の銀河の多くが時計回りで回っているのは、この宇宙の“親”であるブラックホールが時計回りで渦巻いていたからだということになる。

    「銀河が優先方向に回転するというJWSTの発見は、ブラックホールが新しい宇宙を生み出すという理論を裏付けるものであり、これらの発見が確認されればとても心が躍ります」(ポプラウスキー氏)

     とすれば、この宇宙はブラックホール内部で起きた137億年前のビッグバンで生まれたのだろうか。そして我々の宇宙にあるブラックホールもまたその内部で、新たな宇宙を生み出しているのか。なんとも壮大なスケールの天文学研究になるが、さらなる研究の進展によって果てしなく広大な宇宙の実像がわずかでも照らされることを期待したい。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「The Forbidden Archive」より

    【参考】
    https://www.livescience.com/space/black-holes/is-our-universe-trapped-inside-a-black-hole-this-james-webb-space-telescope-discovery-might-blow-your-mind

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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