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本誌でも何度か取り上げたことがある量子力学の観測者問題。 光が二重スリット(平行に並ぶふたつのすき間)を通過するとき、観測者がいない場合は光子が波として振舞うのに、二重スリットのどちらを光子が通過するのか、観測した途端に波が粒子になる=波動関数が収束する。 不思議な現象のことだ。 これはいったいどういうことなのか? 100年に及ぶ論争に、今、答えが出ようとしている。 キーとなるのは情報だ。
二重スリット実験では光を二重スリットに通すと、スリットの向こう側に縞模様=干渉縞ができる。光は波なので、波と波が干渉するためだ。
ところで、光は光子という粒子の集まりでもある。では発射した光子がどちらのスリットを通るのか、片方のスリットにセンサーをとりつけて観測するとどうなるか? センサーは1個の光子を検出し、その位置を教える。観測の瞬間、広がっていた波が振動するのをやめて、1個の光子が一点に出現するのだ。そしてスリットのどちらを通ったかわかると、干渉縞も消えてしまう。
量子力学のたとえに、「月は見るから存在する」といういい回しがある。月を見なければ、月があるかどうかはわからない。月を見ようとした瞬間に波動関数が収束し、月が見えるというのだ。量子の世界で起きている観測者問題は、それぐらい突拍子がない。
意思のない無生物である光子が、まるで人間が観測していることを知っているかのように振舞うわけだ。あるいは人間が見る=意識することで量子レベルで物理現象を左右するという、意識が世界に干渉するかもしれない傍証と解釈することもできる。
「念じれば花開く」ではないが、人間の意思によって確率波である波動関数は収束する。つまり量子スケールでは、世界は人の意識によって選び取られると考えてしまうほど奇妙な話なのだ。
観測者問題をどう考えるかは長らく論争が続き、今も結論は出ていない。
しかしそうもいってられないのは、量子コンピューターが実用段階に入りつつあるからだ。これまでのコンピューターが0と1のビット単位で情報を処理するのに対して、量子コンピューターは量子ビット(キュービットともいう)で処理を行う。量子ビットは確率波なので、0と1がここだと0が20パーセントで1が80パーセント、この位置だと0が80パーセントで1が20パーセントというように確率で表現される。ビットは0と1なので凸が並んだ形で表現される(1は凸の飛びでた部分で0は平らな部分)が、量子ビットの場合は球状になる。
もし人間の意思が、光子のように量子ビットにも干渉するなら、人間が望む方向に量子ビットが収束してしまい、量子コンピューターそのものが成立しなくなってしまう。人によって答えが違うコンピューターなんて、使い道がない。
(文=久野友萬)
webムー編集部
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