ニュージーランドの心霊廃病院がお化け屋敷になっていた! 悲鳴と心臓発作と異常な賑わいの「スプーカーズ」潜入取材

文=田辺青蛙

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    世にも稀な「心霊廃墟を転用したお化け屋敷」に怪談作家が突撃取材!現地で遭遇した絶叫と悲鳴の正体は…?

     凄惨な歴史をもち、「ニュージーランドで最も幽霊が出る場所」として有名になってしまった旧キングシート精神科病院。現在、その建物はなんとお化け屋敷に転用されて人気を集めているという。小説家・田辺青蛙が現地を突撃レポート!

    キングシート精神科病院の歴史についてはこちらの前編で。

    心霊廃墟を改装したお化け屋敷に突撃!

     行けども行けども闇で、車のヘッドライトが照らす道以外は何も見えない。辺りは牧場と深い森のようで、すれ違う車も街灯もない。この道であっているのだろうか……本当にこんな場所に年間数万人も訪れるお化け屋敷があるんだろうか。
     そんな不安な気持ちを抱きながらニュージーランドの最大都市オークランドから車で40分ほど進むと、遠くにぼんやりとオレンジ色の光と煉瓦造りの建物が見えてきた。
     あれが、かつて多くの死者を出したという、劣悪な精神科病院として知られたキングシート病院を改装してできたお化け屋敷「スプーカーズ」か。そう思いながらゲートに着くと、パーカーを着た女性が出てきて「ようこそ!この世で最も恐ろしい場所に」といって駐車場まで案内してくれた。

     駐車場にはどこから集まったのか、すでに20台以上の車が停まっており、受付開始までの時間を潰す若者の姿も多く見られた。辺りは大音量のテクノ音楽が流れ、元精神科病院の看護師病棟だった場所には大きな蜘蛛の置物が飾られていた。
     この看護師病棟は劣悪な病院の状況に耐えられず、自死した看護師が多くいたことで知られ、そのせいか灰色の看護師と呼ばれる幽霊の目撃談が何度も報告されている。

    心霊病棟を改装したスプーカーズの外観。

    入場時から続発するアクシデントは霊障か!? 

     受付は19時スタートで、時計の針は現在18時40分。お化け屋敷の「スプーカーズ」は13歳以下の入場が不可で、事前にネット予約も受け付けている。受付前に並ぶ人達に話を聞いてみたところ、ほとんどがニュージーランドの近場からきている人達で、13歳の誕生日祝いに親に頼んできたという子達もいた。海外からは、オーストラリアやサモアからきたという人が多く、アジア圏からきたのはどうやら私だけのようだった。
     19時少し前に、絹を引き裂くような声が辺りに響き、振り返るとメイクアップを施した幽霊役の少女が叫びながらこちらに向かってくるところだった。
     彼女はキィいいいいいい!!! と一段高い叫び声を上げると私の方にきたので、思わず2ショットをお願いできますか? と頼んでみたら快く応じてくれた。彼女は私と写真を撮った後、何度も叫び声を上げながら受付付近をうろうろと歩き回っていた。

    脅かし役のお化けとの2ショット。

     19時過ぎに受付のドアが開き、なかに入ると写真撮影は禁止、脅かし役に暴力等の危害を加えないこと、物を壊さない等の注意事項が知らされた。
     インターネットで予約したチケットのQRコードを見せて入ろうとしたら、なんとスタッフに1人では駄目、グループで参加してと、止められてしまった。サイトにはそんなこと書いてなかったのにこれは困ったな、と思っていると後ろにいた10代の少女のグループが「良かったら一緒に回りましょう!」と提案してくれた。おかげでなんとか入ることができた。ちなみに私は彼女達の母親と同年代ということだった。

     なかに入ると、腕に青い紙製のバンドを巻かれた。そこには4つのマークがプリントされていた。
    「このマーク1つ1つに沿った内容の恐怖を、これからあなた達は楽しむことができます。順番は自由ですが、今から21時30分までにすべてを回って下さい。最終入場は21時です。そして真っ暗な場所が多くありますが、懐中電灯は1グループ1つしか所持できません。懐中電灯を持っていない方は、受付で借りる事も買うこともできます」
     そんなことを背の高い魔女のコスチュームをまとった美女が説明した。そして少女たちと共に私は4つの印の1つ「森」に入っていった。

    森にこだまする少女たちの絶叫

     最初は精神科病院を改装した病院のなかを歩きまわるだけだと思っていたのだが、まさか建物の裏の森にもお化け屋敷があったなんて……そんなことを思いながら夜の森を歩くと、ブブブブブブブンっと低いエンジン音が聞こえてきた。
     それだけで少女たちは早くもパニックになり、「何あれ? チェーンソーの音?」「恐い」と口々に言いあっていた。途中、生首のオブジェや煙の吹き出す仕掛け等もあって、彼女達は悲鳴をあげ続け、なかには泣き出す子までいた。やがて、いつの間にか私が少女たちの先頭を歩いていた。
    「前を歩いて、凄く怖いの……」震えながらか細い声をあげる少女たち。だが、皮肉なことに驚かせるお化け役が狙うのは最後尾と、二番目の子ばかりだった。

     森の中、あちこちから悲鳴が聞こえはじめ、辺りは異様な雰囲気に包まれた。
     そして「助けてくれ!!誰か!!!誰かきてくれ!!!」と大きな声がし、やぶの中から人が飛び出して凄い速さで横を駆け抜けていった。不意打ちのような状況だったので、これには流石に私も驚かされてしまった。
     やがて、お化けの脅かし役のメイキャップを施した男性がやってきて「救急医療が必要だ!」といった。何事? と思って見ると、そこには顔に全く血の気がなく、はっはっはっはっと浅い呼吸を繰り返しながら横たわる男性と、その横で「どうか彼を助けて」と彼の横で何度もつぶやく人達がいた。
     近くに立っていた青年が説明してくれたのだが、どうやらお化けの登場に驚いてグループの一人が心臓発作を起こして倒れてしまったらしい。

    受付を待つ人を襲う脅かし役。

     そんなアクシデントも途中あったけれど、深い森を抜け、少し歩くと開けた場所に出た。
     そこにはなぜか日本国旗が下がっていて「呪」や「怨」の文字も書かれた半紙も貼られていた。少女の1人に「この漢字の意味は?」と聞かれたので、答えようとした時、ガサっと音を立てて白いワンピースに長い黒髪……そして青白い肌の人物が姿を現した。
    「貞〇に似ているな……」と思う間もなく、その人物は日本語で「アブナイ!」「アブナイ!」といいながら、我々を威嚇してきたので、少女達は悲鳴をあげて出口近くまで足早に駆けていった。敷地内は走ってはいけないルールだったのだが、よほど怖かったのだろう。

      そんなふうにして最初の「森」を抜けることができたが、入り口から出口までかかった時間は40分以上。とにかく敷地が広大なのだ。

    「次は『病棟』に行きましょうよ」と、リーダー格らしい少女の提案もあって、私達は病院を改装した建物の中に入っていった。「病棟」の名の通り、病院そのものの部屋もあれば、なぜか子供部屋のような場所や拷問ルームみたいな部屋もあった。内部の造りは迷路のようになっており、これはもともとの建物が脱走できないようにということで、そういう構造になっているそうだ。
    「森」と違い、世界のWETAスタジオが内装や美術を手掛けただけあってかなり凝ってはいたものの、病棟のお化け屋敷は日本の遊園地等で見られるタイプと似た仕掛けも多く、それほど新鮮さは感じなかった。ただ、少女達は悲鳴で声が枯れやがて笑い出しさえするような状況だった。
     怖さは麻痺すると笑いに転じるという噂はどうやら本当だったらしい。

    お化け屋敷のカフェで霊の気持ちを考える

     出口に着くと20時40分、そこで記念撮影をしてから、もうひとつのテーマ「水流」のお化け屋敷に向かった。そこは3人ずつ挑戦する場所で、ここのギミックが一番すごかった。
     今までに見たことのないタイプのイリュージョンのような仕掛けで、しかし事前に知ってしまうと面白さが半減してしまうので、いった人のお楽しみということで詳細にしてはあえてここには書かないでおこう。
     そんなこんなで、気がつけば21時を5分程過ぎており最後の4つめのパートは見ることができなかった。「スプーカーズ」は時期によってテーマを変えて仕掛けも変わると聞いたので、また訪れてみたいと思う。年齢制限も時間帯や時期によって変化し、ハロウィンシーズンになると、大変な人出で、延々と車の渋滞が続くほどの賑わいを見せるのだそうだ。

     スプーカーズができる前のキングシート精神科病院の建物は、心霊マニアや廃墟探索を趣味にする人が時折ここを訪れるだけだった。このままではやがて廃墟は落書きにまみれ、不良のたまり場になるのではと心配した人もいたらしい。
     それがこれだけの賑わいを見せる場所になるとは誰が予想しただろう。お化け屋敷になる時に地元の反対はあったのだろうかと思い、スタッフに聞いてみたところ、そんな話は聞いたことがないということだった。ただ夜に営業しているので、騒がしくなるのは困るという人はいたそうだ。
     今回の訪問で本物の幽霊を見ることはできなかったが、人によってはすうっと壁に溶け込むように消える看護師の姿や、窓の外に浮かぶ子供の顔等を見かけることがあると聞いた。ここに住んでいる幽霊たちはお化け屋敷となって、賑わいを見せている現状をどう感じているだろう。

     お化け屋敷内に併設されているカフェでそんなことを考えながら、コーヒーを飲み干し「スプーカーズ」を後にした。

    スプーカーズのトイレ。ここでの幽霊目撃譚も多くあるという。
    物販スペースには下着が。怖さのあまりおもらしする人も多くいるそうだ。

     

    田辺青蛙

    ホラー・怪談作家。怪談イベントなどにも出演するプレーヤーでもある。

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