「流星の音」=電磁波が聴こえる仕組みとは? 体を包む電子の膜で人は宇宙とつながっている!

文=久野友萬

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    流れ星から音が聴こえる――そう訴える人々がいる。しかし、それは通常の音とは異なるメカニズムで聴こえているものだった?

    流れ星の音を聞く人たち

     鎌倉在住のイラストレーターと話をしていた時、流れ星の音の話になった。

    「浜でみんなで流星群を見ていたら、音が聞こえるんです。流れ星が飛んでいくと、音がするんですよ」

     大気圏に入った時の衝撃音(超音速で突入するので、爆発音が起きる)や低空を飛ぶ時の衝撃波ではなく、流れ星からリアルタイムで音がするらしいのだ。流星が飛んでいくのは地上から100キロの高高度なので、爆発音は拡散し、地上には届かない。仮に届いたとしても、音速は秒速340メートル、雷の音がピカッの数秒遅れでゴロゴロ聞こえるように、リアルタイムでなんか絶対に聞こえない。それなのに隕石の音が聞こえるのだという。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     鎌倉という土地柄、サーファーやエコに傾倒する人が多いため、そういうポエティックなことを言うのだろうなぁ、と勝手に思っていた。

     しかし、流星の音が聞こえるという話は天文ファンの間では有名で、「シュー」とか「パチパチ」という音が聞こえるのだそうだ。

     流星の音が音ではないとすれば、あとは突入時に何らかの理由で電磁波が発生し、それを聞いたのだろうか。

     いや、電波が聞こえる? そうだとしたら、駅前でブツブツ言いながら、空中のどなたかと喋っているおじさんやおばさんは、実は本当に電波を受信して聞いているのか? それはないだろう。電波が聞こえるわけがないと思うのだが……。

    天文学者はいう、何かが聞こえている

     1980年、オーストラリア・ニューカッスル大学の天文学者コリン・ケイは、流星の音が聞こえる原理について、超低周波によるものだとする仮説を発表した。流星が地球の電離層を通過する際に超低周波の電磁波が発生し、それが地上に届くと金属などを振動させ、音に変換される(電波音響変換といい、スピーカなど音響機器の原理だ)。それが流星の音の正体だという。

     流星の音が聞こえたという人の話には、メガネをかけていた人だけが聞こえた、空からではなく周囲一帯から聞こえた、テープレコーダーに録音できた、というものがある。そうした例は、金属などがスピーカーのように電気を音に変換したと考えれば納得がいく。超低周波の電磁波とは一般に1000Hz以下を指すので、人間が聞こえる音の周波数20Hz~20kHzに収まる。電磁波がそのまま音に変換されれば、可聴域の音が出るはずだ。テープレコーダーに録音できた例では、恐らくスピーカーに電磁波が届き、スピーカーを振動させ、音波に変えたのだろう。

     流星の音を聞いた人は流星から発した電磁波を聞いたわけではなく、その電磁波が震わせた物体の振動音を聞いたわけだ。

    しし座流星群の最中、記録された電子音 画像は「Instrumental recording of electrophonic sounds from Leonid fireballs」(Journal of Geophysical Research: Space Physics 23 July 2002)より引用

     1998年、モンゴルでしし座流星群の観測最中、ロシアの天文学者チームによって電子音が記録された。超低周波を確認、ポンポンという音をレコーディングしている。この時のしし座流星群の発した音は全世界に記録があり、シューシューという電子音やパチパチというはじける音が聞こえたと残されている。

    生物を包む不思議な電気の膜

     こうした現象はエレクトロフォニック・サウンド(=electrophonic sound)、日本語で「電磁波音」と呼ばれ、まだ詳しい原理はわかっていない。コリン・ケイの仮説以外にも、周囲の木や金属が帯電し、微細な放電を起こしている音だとする説、あるいは電磁波が頭蓋骨を加熱し、脳内に衝撃波が発生、それが音として聞こえるフレイ効果説(フレイ効果は暴徒鎮圧用の兵器としても利用されている)なども唱えられているが、決め手に欠けている。

     そして最近、新たに登場したのが「準静電界」である。準静電界とは、電磁波を出す通信機や家電の周りに発生する静電気のようなもので、物体を囲むように発生する。これが生物にもあるのだそうだ。神経には電気が流れているので、それが体の周りを電気の膜のように包み込んでいる。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     準静電界は、元ソニーの研究者で現在は東大に在籍している滝口清昭特任准教授が発見した。

     自然界では、準静電界は動物が獲物を発見したり、仲間を見つけるために利用しているらしい。たとえばサメやナマズは非常に電気に敏感で、ロレンチーニ器官という電気をキャッチする専用の器官をもっている。100万分の1ボルトという電位差もわかるのだそうだ。

     魚の準静電界をキャッチし、サメは襲い掛かる。いわゆる気配、目で見えたり音が聞こえたわけではないのに、何かが近づいたことがわかるのは、準静電界の働きではないかとも考えられる(無意識のはたらきや匂いなど諸説ある)。

    オーラの正体? 人と宇宙をつなぐ電子の糸

     この準静電界は、指紋のように個人によってパターンが違うらしい。滝口准教授の研究では、人体の組織の違い(脂肪量や水分量など)や、歩行姿勢など動き方の癖や違いで特定のパターンを作ることがわかっている。準静電界を使って、カードなどをセンサにかざす必要もなく、ダイレクトに個人認証が可能になるかもしれないのだ。

     準静電界を経由して、デバイスとセンサーの間で信号をやり取りする人体通信も研究中だ。スマホの認証データをスマホを取り出さずに行ったり、人間を回線として使うことで、面倒な配線なくデータをやり取りすると言った使い方が考えられている。

     準静電界の性質を知れば知るほど、オーラとは準静電界のことだったのではないかという気がする。気配とは準静電界のことで個別のパターンがあるなら、視覚と触覚が混じってしまうような共感覚の持ち主には、相手の準静電界が色として見えるのではないか。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     しかし、人間には電気をキャッチするロレンチーニ器官がない。一体どこで?

     滝口准教授は内耳ではないか? と推測している。鼓膜を震わせた音は内耳の蝸牛管にある有毛細胞の繊毛を震わせ、電気信号に変換されて脳に届く。内耳に集まる有毛細胞は非常に多い。外部と脳を電気的に結びつける細胞の密度がもっとも高い。内耳で準静電界の電磁波を直接キャッチしているのでは? というのだ。

     流星からの電磁波は、音に変換されるのではなく、内耳で脳にそのまま伝わり、音として認識される。

     あくまでこれも電磁波音の仮説のひとつだが、そう考えると夢がある。宇宙から降り注ぐ電磁の音楽に私たちは包まれ、可聴域を超えた宇宙の音楽を脳は聞いているのだ。私たちは電子の糸で宇宙とつながり、その音を聞いている。

    【参考】
    「流星の『音』の謎」渡邉 堯(名古屋大STE研、情報通信研究機構)、会報あすとろ Vol. 23

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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