翼竜の生き残りか空飛ぶ悪魔か? パプアニューギニアの怪鳥UMA「ローペン」の謎/羽仁礼・ムーペディア

文=羽仁礼

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    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、パプアニューギニアで昔から目撃が多発し、先住民たちに恐れられている飛行UMAについて取りあげる。

    先住民が恐れる「空飛ぶ悪魔」と怪光現象

     ローペンは、パプアニューギニアで目撃される空飛ぶUMAである。
     鳥のように翼があり、翼開張、つまり両翼を広げた長さは通常1メートルから3メートルだが、9メートル近くあったと証言する者もいる。ただ、ローペンには翼開張1メートルほどの小型のものと、8メートルほどの巨大なものの2種類があるとする者もいる。
     嘴は細くて長く突きだし、ワニのように鋭い歯が並ぶ。尾は鞭のように細長く、先端は菱形になっている。羽毛らしきものはなく、体色は黒もしくは暗褐色、あるいは赤褐色で質感はなめし革のよう、両翼の中央には鉤爪のようなものがある。
     後頭部にとさかのようなものがあるとか、瘤のような隆起が首から尾まで連なるという目撃談もある。性格は凶暴で主に魚を捕食するが、ときには死肉も漁り、人間や動物を襲うこともあるとされる。
     夜行性で、夜飛ぶときは全身もしくは腹部が発光するという。この発光現象は「ローペン・ライト」と呼ばれるが、地元民は「インダヴァ」とも呼んでいるようだ。

    鋭い鉤爪で墓場を荒らし、死肉をついばむローペンのイメージ図。体に羽毛はなく、黒や暗褐色、赤褐色でなめし革のような質感をしているという。

     ちなみにローペンというのは、パプアニューギニアの中でもウンボイ島での呼び名らしく、現地の言葉で「空飛ぶ悪魔」、あるいは「悪魔の飛行生物」といった意味合いだ。
     他の地域でも、「セクロ・バリ」「ワワナール」「ドゥアー」あるいは「ドゥワス」などと呼ばれる飛行UMAが目撃されているが、これらもローペンと同じものといわれている。

    パプアニューギニアのウンボイ島にある火口湖。この島では特にローペンの目撃が多発している。

     ローペン、そしてローペン・ライトは、地元民の間では昔から知られていたようだが、西洋人として最初にローペン・ライトを目撃したのは、イギリスの著名な女流昆虫学者ルーシー・イヴリン・チーズマン(1881〜1969)らしい。
     チーズマンは1926年以来、太平洋のさまざまな島々を単独で探検旅行し、昆虫や植物の標本を数多く採取した。そうした探検行の一環として1935年にニューギニアを訪れたとき、彼女自身がローペン・ライトを目撃したのだ。
     チーズマンは科学者らしくその正体を突き止めようと調査を行い、少なくとも人為的に作られたものではないと確信したが、最終的な結論は得られず、未確認の動物の仕業とも考えなかったようだ。

     その後、ニューギニアを訪れたキリスト教の宣教師たちも、地元民からローペンの噂を聞いており、1944年にはウンボイ島に派遣されていたアメリカ兵ドウェイン・ホジキンソンが、ローペンらしきものをかなり近くで目撃している。
     ホジキンソンは当時陸軍装甲部隊の一員として、ウンボイ島南部のジャングル地帯近くに布陣中だったオーストラリア部隊に配属されていたが、8月のある日の午後、オーストラリア人兵士とともに森の開墾地を抜けて小道を歩いていると、野生の豚が怯えた様子で彼らの横を走り去った。
     その直後、地面から巨大な鳥に似た怪物が飛び立ち、大きく旋回しながら豚を追っていった。翼のさしわたしは最低でも6メートル以上あり、皮膚は暗い灰色、長い嘴を持っていた。この怪物は、コウモリに似たなめし革のような翼をはばたかせて飛び去ったという。
     後日、ホジキンソンは翼長7・8メートルの小型機パイパーサーベイを入手したのだが、この飛行機と改めて比較してみると、怪物の翼のさしわたしは9メートル近くあったかもしれないと回想している。

    1944年にウンボイ島でローペンを目撃したアメリカ兵のドウェイン・ホジキンソン(写真=YouTubeより)。
    ホジキンソンが遭遇したローペンのスケッチ。オオコウモリとの比較で、その大きさの違いがよくわかる。
    1994年に撮影されたローペンの姿。撮影者や撮影場所など、詳しいことは何ひとつ明らかにされていない。

    続出する目撃証言と継続される現地調査

     それ以後も、地元民だけでなく、パプアニューギニアを訪れたアメリカ人やオーストラリア人が何度かローペンを目撃しているが、本格的な調査が始まったのは20世紀も末になってからだ。
     まずは1994年、アメリカにある「創造の証拠博物館」館長カール・ボーがポール・ネーションとともにウンボイ島を訪れ、現地の宣教師ジム・ブルームや多くの現地住民から目撃談を採取した。同じ年、イリノイ大学のE・M・クラーク博士もパプアニューギニアでローペンの調査を行っている。
     ボーは1996年にもウンボイ島を再訪したほか、最初ボーに同行したポール・ネーションも、2002年、2006年、そして2007年と3度にわたり現地を訪れ、2006年にはローペン・ライトをビデオに撮影した。
     他方、ジョナサン・ウィットコムも2004年9月に2週間ウンボイ島を訪れ、島民17人にインタビューして目撃談を発掘している。

    2004年、ウンボイ島でローペンの調査にあたったアメリカ人ジャーナリストのジョナサン・ウィットコム。
    ウィットコムが島での調査結果などをもとに発表した著書『サーチング・フォー・ローペン』。

     同じ2004年の10月には、「ジェネシス・パーク」という、やはり創造論を支持する団体のスタッフがパプアニューギニアのシアッシ島を訪れ、2007年にはアメリカのテレビ番組「デスティネーション・トゥルース」の司会ジョシュア・ゲイツが、さらに2009年には「モンスター・クエスト」の番組が調査に訪れている。
     最近では2015年、カナダの調査チームもニューブリテン島を訪れており、ローペンと思われる生物が飛行するのを目撃している。

    中生代の翼竜が現在も生き残っている?

     このように何度も調査団が訪れ、目撃も多数あるが、残念ながら現在まで信用できる写真は撮られていない。そこでその正体についても、さまざまな説が唱えられている。
     まずは、グンカンドリやペリカンなど他の鳥類の誤認という説があるが、こうした鳥類とローペンの姿はあまりにも異なっている。

    こちらも詳細は不明だが、飛行中のローペンの姿を捉えたとされる連続写真。

     次に、パプアニューギニアに棲息するオオコウモリではないかとの説がある。
     オオコウモリの仲間には、時に翼開張2メートル近くに達するものもあるが、ローペンのような長い嘴はないし、魚や死肉ではなく果物を食べる。おまけに地元民にとってオオコウモリは貴重なタンパク源として捕獲の対象となっているから、これを「空飛ぶ悪魔」と呼んで恐れるとは思えない。

    ウンボイ島に棲息するオオコウモリ。ローペンの正体はこの生物を誤認したものなのだろうか。

     そこで有力となっているのが、中生代の翼竜の生き残りという説である。
     じつはこの説は、ボーやネーション、さらにウィットコムなどの創造論者が声高に主張しているものでもある。

     創造論者とは、宇宙や地球は『旧約聖書』の「創世記」に記されたとおり、神によって創造されたと主張する者たちである。もちろん一口に創造論といっても細部では異なり、さまざまな主張があるのだが、ローペン探索に乗りだしている者たちは「若い地球説」あるいは「特殊創造説」と呼ばれる一派に属している。
     この説の論者は、神による天と地とすべての生命の創造が紀元前数千年前から1万年前の間という、比較的近い過去に行われたと信じている。彼らは進化論を否定し、恐竜が6500万年前に絶滅したなどの科学的年代を拒否、恐竜も人類も一緒に創造されたので共存していたと主張する。
     たとえばボーが館長を務める創造の証拠博物館の展示物には、アメリカのユタ州で発見された三葉虫を踏み潰したような靴跡の化石や、ネバダ州などで発見された恐竜と人間の足跡が一緒に刻まれた化石などが展示されている。
     これらは日本ではオーパーツとして紹介されることが多いが、創造論者にいわせると、地質学的年代測定がいかに当てにならないかを示すものであり、人類が三葉虫や恐竜と共存していたという証拠になるのだ。
     ローペンが翼竜という主張も、彼らにとっては恐竜も人類もわずか数千年前に同時に生まれ、共存してきたという主張を補強する材料になるのである。

     たしかにローペンの特徴は翼竜、それもランフォリンクスなど長尾型翼竜の仲間によく似ている。通常の古生物学では、ランフォリンクスは約1億4550万年前に絶滅したはずだが、長い嘴に歯が並び、先端が菱形になった長い尾を持つという、ローペンに似た形状をしている。
     ただランフォリンクスの仲間は通常、翼開張1・8メートル程度であり、最大のものでも3メートルほどとされている。つまり目撃されるローペンよりずっと小さいのだ。

    中生代ジュラ紀に棲息していたランフォリンクスのイメージ図。ローペンの正体として有力視する声もある。

     さらに近年では、翼竜には羽毛があったという説が有力になっており、もしかしたら鳥類のようにカラフルな色彩を持っていたという説もある。
     そうなると、羽毛がなくなめし革のような皮膚というローペンの外見とは異なるが、まだ未発見の翼竜でこのような特徴を持つものが存在する可能性はあるかもしれない。

    水上をかすめるように飛ぶローペン。パプアニューギニアで撮影されたとみられるが、これもまた詳細は明らかにされていない。

    怪鳥の体が発光する? ローペン・ライトの謎

     では、ローペン・ライトについてはどう考えればよいのだろう。
     飛び方からして、飛行機や流星の可能性は考えられない。他方、発光しながら飛行する鳥類や哺乳類、爬虫類は、今のところ確認されていない。
     地上の照明が上空の鳥に反射したという可能性についても、国土の大部分が密林に覆われているパプアニューギニアでは、そのような光源があるとは考えにくい。

     だが、日本でも「青鷺火(あおさぎのひ)」といって、年を経たアオサギが夜間発光するという伝承が残っていることを考えると、鳥や動物が夜間発光するという現象は実在するのかもしれない。
     ひとつ考えられるのは、アオサギやローペンが発光バクテリアの付着した獲物を捕食した際、バクテリアが体についたという可能性である。
     一方で、ローペン・ライトが本当にローペンの仕業かどうかは、どうもはっきりしていないようだ。ローペン・ライトの目撃報告は多数あるが、そのほとんどが単なる発光体であり、長い嘴や翼などが同時に確認された例はないようなのだ。
     地元民はこの発光現象をローペンの仕業と信じているようだが、もしかしたらローペンとは別の説明を求めるべき現象なのかもしれない。

    アオサギは夜飛ぶときに青白く光るという伝承がある。鳥山石燕の「青鷺火」にも体から光を放つさまが描かれている。

    ●参考資料=『未確認動物UMA大全』(並木伸一郎著/学研)、『UMA事件クロニクル』(ASIOS著/採図社)、「ムー」2015年7月号(学研)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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