タイの獣人を捕獲せよ! 特別調査チームの発足でオラン・ペンデクほか東南アジアのUMA研究に大きな一歩が
著名なビッグフットハンターが、タイでの新プロジェクトを発表した。これまで顧みられることがなかった東南アジアのUMAに新たな展開か?
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、インドネシアのスマトラ島でたびたび目撃される、人間によく似た小型の獣人UMAについて取りあげる。
作家の香山滋(1904〜1975)は、ゴジラの名づけ親にして、映画『ゴジラ』の原作者ともされている。その香山のデビュー作は、1946年、雑誌「宝石」の第1回懸賞に入選した「オラン・ペンデクの復讐」であった。
多少ネタばらしをすると、この小説は194X年5月X日、人類学者の宮川大三郎博士が、東京T大で講演を行う場面から始まる。この場で博士は、第2次世界大戦中、インドネシアのスマトラ島にわたり、ふたつの新しい人類、オラン・ペンデクと鰓(えら)を持つオラン・ペッテを発見した経緯を語った。
ところが、博士はこの話をした直後、ミイラのように硬直化して突然死してしまうのだ。さらに博士の友人で、古生物学者の横尾又次博士も急死する。
じつは、宮川博士の娘婿でもある助手の石上という男がオラン・ペンデクであり、同族を何人も解剖した宮川博士や、以前ロカン地方で同族を銃殺した横尾博士に対し、秘伝の毒薬を用いて復讐したのだった。
宮川博士が言及したふたつの人類のうち、オラン・ペッテについては、作中でも毒物に冒された博士の妄想の産物とされている。しかしオラン・ペンデクのほうは、作家の想像ではなく、スマトラ島で実在が噂されている獣人UMAである。ロカンにおける射殺事件も、1932年、実際に現地紙で報じられていることなのだ。
オラン・ペンデクが棲むというスマトラ島は、世界で6番目に大きな島で、面積は日本全土よりも広い43万3880平方キロもある。その大部分は現在も鬱蒼とした密林に覆われ、多くの種類の野生動物たちが、人間の目を逃れて暮らしているところだ。
インドネシアに属してはいるが、マレー半島に近いためマレー人も多く住んでおり、オラン・ペンデクもマレー語で「小さな人」を意味する。地域によってオラン・レトジョ、アトエ・パンダク、アトエ・リンボ、セダパ、イジャオエ、セダボ、ゴエゴエ、ググと、さまざまな名前で呼ばれる。
身長は80センチから1・5メートルほど。皮膚は桃色っぽい茶色をしているが、顔以外の全身が赤褐色の毛で覆われている。頭髪は真っ黒で、背中にたてがみのように連なっている。
頭は尖って額は広く、毛深い眉と人間のような目、大きな耳と広い鼻、小さな口を持ち、口からは長い牙がのぞく。尾はなく、肩は張っていて人間のように直立して歩く。
食糧は草木の若芽や果実、貝など淡水産の軟体動物であるが、ヘビや昆虫、鳥やネズミなどの小動物も捕らえて食べる。特に好物は熱帯産の果物ドリアンともいう。
ときにはバナナやサトウキビを栽培する農場に出没し、畑を荒らすこともあるというが、性格は非常に恥ずかしがりで、人間に気づくとたいてい逃げていく。簡単な言葉のようなものも話すらしい。
オラン・ペンデクの存在は、1914年、スマトラ島がオランダの支配下に入った直後から、オランダ人入植者の耳にも入っていたようだが、ヨーロッパにその存在を最初に伝えたのは、自然史にも関心を持つ入植者エドワルド・ヤコブソンらしい。
彼が1917年にオランダの科学誌に載せた「オラン・ペンデク遭遇談」によれば、1916年7月10日、ヤコブソンがスマトラ島中央部でキャンプをしていたところ、猟師たちがやってきて、20メートルほど先でオラン・ペンデクを見たと述べたという。
そのオラン・ペンデクは腐った切り株に巣くう昆虫の幼虫を探していたようだが、猟師たちに見られているのに気づくと、後ろ脚で走って逃げていった。
さらにヤコブソンは1915年、そこから少し北方にあるクリンチ山で、オラン・ペンデクのものと思われる足跡も発見している。それは長さ12センチもなく、明らかにオランウータンのものとは異なっていたという。
1917年末には、オースティンというコーヒー園の管理人もオラン・ペンデクを目撃している。このとき彼は道に迷ってしまい、森の中を何時間も歩いていると、10メートルほど先に、火を焚いている人のような生物を見たという。それは首が長くて異常に太く、身長は1・75メートルくらいだった。
その後も入植者からは多くの目撃談が報告され、足跡も何度も発見されている。
そして1932年5月22日、西スマトラの地方紙「デーリー・コーラント」は、リアウ州ロカンの地方領主がオラン・ペンデクの子どもを射殺し、死体を持ち帰ったと報じた。
6月になるとその写真も報道されたが、結局死体は普通のオナガザルのもので、顔を変形させたり牙を削ったりして加工したものだった。しかし、前述の「オラン・ペンデクの復讐」によれば、この事件は日本でも報道されたようである。
こうして古くからいい伝えられてきたオラン・ペンデクであるが、本格的な調査が始まったのは、20世紀も末になってからのことである。
まず1987年に、イギリスの探検家ベネディクト・アレンがスマトラを訪れて地元民の証言を集め、その成果を1989年に『ググの探索』として発表した。
同じ年の1989年からは、イギリスのジャーナリスト、デビー・マーターが、カメラマンのジェレミー・ホールデンとともに自然環境保護を行う国際NGO「ファウナ・アンド・フローラ・インターナショナル(FFI)」の後援を得て、以後15年間にわたる継続的な調査を行った。
マーターたちはオラン・ペンデクの足形をいくつか採取し、不完全ながら2枚の写真も撮影したほか、1993年にはマーター本人がオラン・ペンデクらしき生物を目撃している。
さらに2001年9月には、イギリスの未知動物学者アダム・デイヴィスがクリンチ山とグヌン・トゥジュ湖に挟まれた地域を調査、いくつかの足形や体毛を持ち帰った。
2003年以降は、イギリスのデボンにある「フォーティアン動物学センター(CFZ)」が未知動物学者リチャード・フリーマンらの探検隊をこれまでに何度か派遣している。さらに2005年以降は、ナショナルジオグラフィックも探検隊を組織している。
このようにオラン・ペンデクについては、近年何度も調査隊が送られ、採取された体毛や足形についても専門家による分析が進められている。
では、その分析結果はどうなっているのだろう。じつは、少々奇妙な結果が報告されている。
2001年にアダム・デイヴィスらが持ち帰った足形については、ケンブリッジ大学の動物学者でFFI副会長でもあるデヴィッド・チバース博士が調査にあたった。その結果、博士は「オラン・ペンデクは、テナガザル、オランウータン、チンパンジー、ヒトを混ぜたようなもので、既知のどの霊長類とも合致しない。スマトラの森林内には、未知の大きな霊長類が棲息しているようだ」と結論した。
このときの体毛については、オーストラリアのメルボルンにあるディーコン大学の動物学者ハンス・ブルナーが、既知のすべての霊長類、およびスマトラ原産の動物のものと比較分析した結果、未知種の霊長類のものだと証言した。
他方、アメリカ・ニューヨーク大学のトッド・ディソテル博士は体毛のDNA分析を行い、ヒトのものだと鑑定した。さらに2009年にCFZの体験隊が採取した体毛についても、デンマークの動物学者ラース・トーマスがDNA分析を行った結果、人間に一番近いという結論が出た。
未知の動物という説がある一方、ヒト、あるいはヒトに近いという結論も出ているわけだ。
ただし体毛については、ひとりがオーストラリアでもうひとりがアメリカ、そして3人めはデンマークと地理的に離れていることから、同じ1本の体毛が3人の学者によって調査されたものではないようだ。
とすれば、オラン・ペンデクのものと思われた体毛に、人間のものが混じっていた可能性もあるだろう。またDNAが同じものでも、体毛の形状が異なるというケースもあるようだ。
あるいはオラン・ペンデクの正体が、ヒトに非常に近い生物という可能性もある。
この点で、2003年9月、スマトラ島と同じインドネシアのフローレス島で、非常に示唆的な発見があった。オーストラリアとインドネシアの研究者チームが、新種のホモ属に属するヒト科生物の化石を発見したのだ。
この人類化石は、発見場所にちなんで「ホモ・フローレシエンシス」と名づけられたが、完全な成人女性でありながら身長わずか1メートルしかなく、脳容積もチンパンジーほどだった。
つまり背の低い人類の親戚が、インドネシア地域に実在していたのだ。
もしかしたらスマトラ島には、ホモ・フローレシエンシスのような小型の人類が密かに生きのびており、それがオラン・ペンデクと呼ばれているのかもしれない。
さらにオラン・ペンデク以外にも、小型の獣人UMAについては、インドネシアだけでなく東南アジア各地で目撃されている。
まずスマトラ島からは、オラン・ペンデクとは別のヒト型のような生物の報告がある。
2011年、4回目に現地を訪れたCFZの探検隊は、現地のガイドから、オラン・カルディルなる身長90センチほどの小さな人間のような生物について聞かされている。これは頭以外に体毛はなく、毒を塗った竹槍を用いるという。
マレー半島でも1953年12月、トロラクのゴム園で作業員の少女が後ろから肩を叩かれ、振り向くと背後に毛むくじゃらの女性がいたという事件が起きている。この女性は黒い髪の毛で肌は白いが、腕と胸に毛がはえ、髭もあり、動物のような匂いがしたが腰布を身につけていたという。
さらにボルネオ島でも「バトゥトゥート」と呼ばれる猿人の存在が報告されているし、ラオスやカンボジアでは「ナム・ヌング」と呼ばれる、身長1・5メートルほどで短い尾を持つ人間のような生物の伝説が伝わっている。
もしかしたら、太古から密かに生きのびている人類の親戚は、1種類だけではないのかもしれない。
●参考資料=『未確認動物UMA大全』(並木伸一郎著/学研)、『On the Track of Unknown Animals』(Bernard Heuvelmans/KPI)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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