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産業界に一大革新が生まれ、地球のエネルギー問題は一気に解決する「常温核融合」研究を三上編集長がMUTubeで解説。
エネルギー革命への胎動
今、常温核融合が再評価されている。2019年、米海軍は常温核融合の研究に3500万ドルの予算を付けた。長期間の艦船運用に可能なエネルギーとして、常温核融合の実用化を目指すという。日本でも2017年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は「常温核融合研究プロジェクト」を開始。常温核融合の一種「金属水素反応」に着目して、研究を進めている。
日米以外でもフランスでは超音波を利用した方法や金属水素化物を使用した方法が研究され、中国では通常の核融合をより低温度で行う方法として、プラズマを使った常温核融合が研究されている。
もっとも、常温核融合は30年以上前に発表され、完全に否定された技術だ。
それが、なぜ今になって再評価が始まったのか?
完全に否定された常温核融合
常温核融合は1989年に発表された未知の現象で、当時の科学界は騒然となった。
核融合は太陽のような恒星で起きている現象で、水素と水素が超高温高圧下でぶつかり、ヘリウムに変化、同時に大量の熱エネルギーが発生する。現在、研究されている核融合では、水素からヘリウムへの反応よりも低い圧力で反応が進む重水とトリチウムが使われているが、それでも数千万度~1億度の超高温を必要とする。核融合がいまだ実用化できない理由はいくつもあるが、第一条件である超高温と高密度を安定して作りだすことが極めて難しいことがある。
ユタ大学の電気化学者スタンレー・ポンズとマーティン・フライシュマンは、重水をパラジウムの電極で電気分解することで発熱が起きる(ポンズ=フライシュマン法と呼ばれる)と発表した。
核融合が目指すエネルギー発生量には遠く及ばないものの、加熱も加圧もなく、通常の気温と気圧の下で核融合とよく似た現象が起きたのだ。これが本当なら、今まで莫大な資金をつぎ込んで巨大な実験施設を作ってきた物理学者は大恥だ。
世界中で追試が行われたが、ほとんどの結果がネガティブ。
再現できなかったのだ。さらに彼らの実験の欠点やデータの不備も指摘された。
核融合では入力のエネルギーより出力のエネルギーが大きくならないと意味がない。核融合を起こすために必要な温度や圧力を作りだすために必要な電力は、あくまで分子と分子がぶつかって原子核を融合させるためのエネルギーだ。分子を超高温でイオンと電子にまで分解し、ドーナツ形の磁石の中でブンブン回転させて、衝突させる。衝突の際に原子核が融合し、別の原子核へと変わり、エネルギーが放出される。超高温でイオンをぶん回すエネルギーのために投入した電力を上回らないと核融合を起こしても無駄だ。
ポンズ=フライシュマン法でも1ワットの投入電力で4ワット換算の熱量が発生したといわれたが、彼らの行った方法を追試しても、入力を上回る余剰エネルギー(過剰熱ともいう)が生まれなかった。
さらにスタンレーらは、パラジウムには水素を吸着する性質があるため、電極のパラジウムの微小な孔に重水素や水素が吸着、そこに電気を流すことで電子に押されて重水素と水素が電気的な壁(原子がくっつきすぎないようにクーロン斥力という弾こうとする力が働いている)を越え、核融合が起きると説明した。
しかしこれは単なる電気分解で、パラジウムに水素が吸着した際に発熱しただけではないか?──と批判された。
核融合が起きたなら、余剰エネルギーは放射線としても周囲に拡散する。物理学者の計算では、1ワットから4ワットが生まれた場合の核融合反応でも致死量の放射線が発生するはずだが、両名に何の放射線障害も見られないのはおかしいというもっともな意見もあった。
とどめを刺したのは1990年のアメリカ連邦議会審議での常温核融合研究予算の否決だった。前出の常温核融合の研究者フライシュマンらが数億ドル規模の研究予算を申請、連邦議会に稟議が上がったが、あまりにも研究者の見通しが楽観的過ぎたために否決されたのだ。
最近になってもグーグル社が、2015年以来行ってきた常温核融合研究で、ポジティブな結果が得られなかったとの論文「Revisiting the coldcase of cold fusion(常温核融合の再検討)」をネイチャー誌に発表している。
今に至るまで、常温核融合をめぐる風向きは決してよくない。発見から30年を超えても成果が出ない研究に、疑似科学だと敬遠する学者は多い。
さらなるスキャンダル、E-Cat
2007年、イタリア・ボローニャ大学の物理学者アンドレア・ロッシは新たな常温核融合技術を開発、E-Catと名づけた。複数の科学者を集めて行われたデモンストレーションでは、核融合反応を起こすために400ワットを投入すると、電源を止めた後もおよそ12時間にわたって400ワット相当の熱を発生しつづけたという。利用する電極はニッケルで、基本的にはポンズ=フライシュマン法と同じらしい。 ”らしい”というのは、特許を盾にロッシ氏がデバイスの内部公開を拒否しているからだ。
ニッケルと水素の核融合で大量の過剰熱が放出され、ニッケルは銅に核種変換(核融合反応なので、水素がヘリウムに変わるように、電極に使った金属は別の物質へと変化する。核変換や核種変換と呼ぶ)を起こすとロッシ氏は説明、2011年にはE-Cat社を設立した。しかし多くの学者は懐疑的だ。
複雑な配線を使ったトリックではないかと疑われており(ダミーの配線を使って給電し、その電気で発熱させている)、2013年に追実験をしたスウェーデンの研究者は大量の発熱があったと発表したものの、学界からは実験の体裁をなしていないと総攻撃を受ける羽目になった。
常温核融合では分が悪いと思ったのか、いつのまにか、E-Cat社の売りEnergy CatalyzerというE-Catの進化系に移行している。この技術、常温核融合ではなくゼロ点エネルギー、空間自体の場が持つエネルギーをダイレクトに利用するというものだ。ゼロ点エネルギーは量子力学と並んで永久機関関係の詐欺でよく使われる物理用語だ。ゼロ点エネルギーと聞いたら、詐欺かスピリチュアルと思って間違いない(厳密な物理用語としてのゼロ点エネルギーとは意味が違う。物理学のいう波動とスピリチュアル業界の波動がまったく別モノであるのと同じだ)。
それでも核融合は起きている?
物理学界が完全に否定し、E-Catがスピリチュアルの彼方へ消えたことで決着がついたかに見えた常温核融合だが、それでも科学者の間では細々と研究が続けられた。金属孔に原子を閉じ込め、電子で圧力をかけるというスタンレーらの発想は魅力的で、たしかにポンズ=フライシュマン法は間違っていたかもしれないが、発想に間違いはないのではないか、別の素材で行えば核融合反応は起きるのではないのか?──と考えたのだ。
常温核融合の研究者のひとり、水野忠彦(元北海道大学助教授)は金属孔に集まった原子が起こすのは核融合反応ではなく、核種変換反応で、さまざまな核種が生まれる(パラジウムと水素の反応では、ホウ素やケイ素、カルシウムなど複数の物質が生まれる)と発表、このため常温核融合から凝集系核反応と名前を変わり、反応温度も常温ではなく、常温~数百度で起きる核反応と定義も変更されている(混乱を避けるため、本記事では常温核融合で一貫させる)。
2012年に民間で常温核融合研究を行うクリーンプラネット社が起業され、日本での常温核融合界が一変する。同社は東北大に資金提供をして凝縮系核反応研究部門を発足。三菱重工で常温核融合の研究を行っていた岩村康弘を東北大学電子光理学研究センター特任教授に迎え入れ、水野忠彦が退官後に設立した水素技術応用開発を同社の傘下に加えた。
クリーンプラネット社では、凝集系核反応で生じる熱エネルギーを量子水素エネルギーと呼び、ボイラーの大手、三浦産業と共同で二酸化炭素等の廃棄物が発生しないボイラーを開発するとしている。
こうなってくるとUFOみたいなものだ。異星人の乗り物かどうかはさておき、何かが空を飛んでいるのか?──と同じく、核反応かどうかはともかく金属の孔の中で何かが起きているのか? 起きていないのか?
(文=久野友萬 イラストレーション=坂之王道)
続きは本誌(電子版)で。
webムー編集部
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