死を呼び込む階段井戸の深みを覗く! インド・メフラウリ遺跡公園にまつわる心霊現象/遠野そら
宗教的、歴史的な地層が厚いインドの遺跡は、必然、異界の力が高まってしまうのか……。心霊スポットと知られる階段井戸の逸話を紹介。
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。今回は、トルコ・カッパドキアの奇岩群の下に築かれ、キリスト教徒が隠れ住んだ巨大な地下都市を取りあげる。
カッパドキアはトルコのほぼ中央部、平均標高1200メートルというアナトリアの高原地帯に位置する。
カッパドキアの地表には、世界でもこの場所でしか見られないような、独特の景観が刻まれている。地面からは、まるで巨大なタケノコのような、先の尖った巨岩が天を目指して無数に立ち並んでいる。場所を変えると、これがキノコのような形になる。白い石柱の上に、キノコの傘のような黒っぽい円錐型の岩が微妙なバランスをとりながら鎮座しているのだ。
さらに、こうした不思議な形の岩をくりぬく形で、鮮やかな色彩の壁画で飾られた数多くのキリスト教会や人々の住居が作られている。
その光景はまるで、お伽話に登場する妖精の住まいのようでもあり、一種この世のものとは思えない印象深い眺めとなっている。
こうした幻想的な風景は、1985年に「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩窟群」としてユネスコ世界遺産にも登録され、今では世界的にも有名な観光地となっている。新型コロナウイルスで世界の人流が途絶するまでは、日本からも毎年多くの観光客が訪れており、壮大な奇観を空から眺める気球ツアーも人気を博していた。
そのカッパドキアにはもうひとつ、世界でもこの場所でしかお目にかかれないものがある。数々の大規模な地下都市だ。
カッパドキアの地下都市については、紀元前5世紀の古代ギリシアの歴史家クセノポンが著書に記しているが、その存在は長く忘れ去られており、再発見されたのは20世紀も後半、1964年のこととされる。
この年の早春、カッパドキアでは雨が断続的に降りつづいた。雨が止んで、村人たちが春を迎えるために外に出てくると、村はずれの小高い丘の一画が雨で崩れており、そこに大人ひとりが楽に入れるような穴が開いていた。村人たちはランプをかざして中に入ってみたが、それはとてつもなく大きなもので、どこまで行っても果てがなかった。これがカイマクルの地下都市であった。ほぼ同時期に、デリンクユとギョズテジンにも洞窟が確認され、1965年5月になると、トルコの考古学者ヒクメット・ギュルチャイとマホムット・アコクのふたりが現地調査に訪れた。彼らはこれらの洞窟を調べ、それが大規模な地下都市であることを確認して、大いに驚いた。
カイマクルの地下都市は地下8階の構造を持ち、各階層は階段や傾斜した通路でつながっていた。部屋の入り口には、内側に大きな石の円盤が壁に密着して置かれていた。つまり、この石盤を転がすと、内側から入り口を密閉できるようになっているのだ。
地下都市には飲料水を確保するための井戸が掘り抜かれており、食糧や油の貯蔵庫、共同の炊事場、家畜小屋やワインの醸造所、さらには礼拝所まであった。つまりこれらの地下都市は、かなりの数の住民が、ある程度の期間、いっさい地表に出ることなく生活できる設備を備えていたのである。
トルコの考古学者たちは、カイマクルの内部には1万5000人を下らない数の人々を収容できたと推定している。
1972年に発見されたオズコナクの地下都市はなお一層大規模で、地下11階まであり、推定許容人口は6万人ともいう。現代の日本でも、人口6万人に達しない地方都市がいくらもあることを考えると、当時としてはかなりの大都市といえよう。
驚かされることは、地下都市の規模ばかりではない、調査の結果、カイマクルの地下都市は、直線距離にして9キロ離れているデリンクユの地下都市とトンネルで結ばれていることが判明したのだ。正確な方角を知ることの難しい地下で、これだけの距離を地下通路で結ぶというのは驚異的な技術である。
この種の地下都市はその後も続々と発見され、現在では36か所が確認されている。もちろん、未発見で眠る地下都市はまだ数多く残っているのだろう。
カッパドキアの古代人たちは、なぜこのような地下深くまで掘り進み、穴の中に住む道を選んだのだろうか。
当然、何らかの外敵から身を守るためという理由が推定されるが、地下11階まで掘り下げなければ防げない外敵とはいかなる存在だったのだろうか。
一部には、カッパドキアの特殊な地形と考え合わせて、これらの地下都市は、じつは古代の核戦争で用いられた核シェルターなのではないかと唱える者もある。古代の地球で核戦争が実際に発生し、人類は一度滅びかけたと主張する論者がその証拠としてしばしば取りあげるのが、古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」に登場する、核戦争を彷彿とさせる記述である。
さらに、インド系イギリス人のデヴィッド・W・ダヴェンポートとイタリアのエットーレ・ヴィンセントは、インドの古代遺跡モヘンジョダロの一画で、高熱のため完全にガラス化した平原を発見し、古代に起きた核戦争の証拠と主張している。
さらにふたりは、カッパドキアのあるトルコのアナトリア地方においても、チャタル・ヒュユクやカレホユック、パトノスなどといったカッパドキア周辺の遺跡から、高熱で焼け焦げた日干しレンガや、高熱で溶けて接合した粘土板などが発見されていることを指摘したうえ、カッパドキアという地名が、現地の言葉で「落ちたところ」を意味するとして、この場所に核爆弾が投下され、そのエネルギーで独特の地形が生まれた可能性を示唆している。
筆者自身も、この説は以前から気にかかっていた。そこでかねがね、実際にカッパドキアを訪れて自分の目でこの説を検証してみたいと願っていたのだが、実際に地下都市を訪問したときには、正直いってがっかりしてしまった。
というのは、カッパドキアの地下都市は、いずれも最下層まで吹き抜けの井戸が掘られており、地下の各層からはこの井戸穴に面する窓が作られているのだ。そうしないと屋内の喚起ができず、住民は窒息してしまうのである。つまり、地下都市は放射能汚染を遮蔽できる構造にはなっておらず、汚染された大気は容易に地下都市に侵入できるのだ。
個人的見解ではあるが、その点を見ても、ことカッパドキアに限っては、地下都市を核シェルターと断定するのは少し無理があるように思える。
それにカッパドキアという地名も、かつてこの場所を支配していたヒッタイトの言葉で「美しい馬の国」を意味するというのが通説である。
カッパドキアの独特の地形については、火山活動によるものと説明されている。今から1000万年ほど前、この場所では火山活動が活発であり、何度も大規模な噴火があった。火山灰がこの地方一帯に深く降り積もり、圧縮された火山灰が凝灰岩という岩になった。凝灰岩は非常に軟らかい石で、雨や風などの浸食には弱い。そのため、長い年月の間に次第に削られて、先の尖った形になったのだ。
キノコ岩については、上部の岩石のほうが硬く、その分浸食に強かったため、その下になる部分が残ってキノコの柄のような形で残ったと考えられている。
では、人々は何を思って地下に潜ったのだろうか。
正直いって、このあたりは推測するしかない。地下都市の建設がいつ始まったのか、正確に推定することは困難だが、紀元前1900年ごろのヒッタイトの時代に始まったともいわれている。
おそらく、最初は外敵から身を守るために作った浅い洞窟のような構造だったのだろう。すでに述べたとおり、このあたりの地層を構成する凝灰岩は石質が軟らかく、穴を掘るのはそれほど困難ではない。
いざ地下に住みはじめると、冬の寒さや夏の暑さをしのぐにも便利であり、その後幾世代にもわたり、いくつもの民族が継続して使用したのではないかと推定される。
上述のように、クセノポンの時代には、もうかなりの規模の地下都市が作られていたようだが、地下都市を大規模に拡張したのはローマ帝国時代、まだキリスト教が公認されていなかったころに、この場所に逃れてきたキリスト教徒たちらしい。
その後、この場所は常に戦乱の舞台となった。ササン朝ペルシアが勃興すると、東ローマ帝国とこの地域の支配を巡って争うようになり、ササン朝が滅びるとイスラム教徒アラブ人の侵略を受けた。戦乱の際には、地下都市は住民の避難場所として、大いにその真価を発揮したことだろう。
やがて、オスマン帝国がアナトリアを支配するようになった。オスマン帝国は異教徒であるキリスト教徒にも比較的寛大であったから、これまで地下に潜っていたキリスト教徒たちも地上に出て、普通に生活するようになった。こうして地下都市の存在自体、いつしか忘れられてしまったようだ。
ただ、カッパドキアの地下都市の謎は完全に解明されたわけではない。まだ構造がよくわかっていないものもいくつもあるし、なんといっても大地の下には、未発見の地下都市がいくつも眠っているはずなのだ。
今後、これまでの常識を覆すような新発見がなされる可能性は大いにあるといっていいだろう。
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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