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――1987年夏、仙台で見た記憶
1987年の夏、仙台市内の予備校に通っていた頃のこと。
夜のビヤガーデンでのアルバイトを終え、最終バスで帰宅。市営住宅脇の坂道を歩いていた。時刻は23時近く、人通りもなく、街灯の下に自分の影だけが伸びていた。
そのとき、左側の歩道から黒いスーツ姿の男が現れた。
アタッシュケースを持ち、顔は真っ正面を見据え、スタスタと道路を横切る。
家路につく足取りではなく、まるで“任務中”のような緊張感が漂っていた。
その瞬間、違和感に気づいた。足元が…透けていた。
「えっ? 足、なかったよなぁ…」
顔を上げたときには、もう姿は消えていた。
数日後、同じ場所でアンテナ工事の作業員が落下して死亡したという話を聞いた。
また、友人の父親が入院中に似た紳士を見たという。翌朝、隣のベッドの人が亡くなっていたそうだ。
あの紳士は“死を運ぶ者”ではなく、“死の断面に現れる気配”だったのではないか。
誰にも語られず、誰にも気づかれず、語り部の目にだけ触れる存在。
都市の中に潜む“語られない記憶”として、私はこの体験を記録する。
数年前に観た映画『イキガミ』に、語りのスタイルが近いと感じた。
死の予兆を静かに届ける者、観察者としての距離感、都市の制度的な死の気配。
語装堂・熱海の語りは、まさに“イキガミ的都市怪異”として位置づけられる。
語装堂・熱海名義で、この記憶を語り残す。
都市の闇に潜む“気配”の断面として。
誰に届くかは分からない。
けれど、語ることが、私にとっての“もうひとつの生き方”になりつつある。
(語装堂 熱海)

〈編集部より〉
死に神……を思わせる、謎の男。現代社会に溶け込みやすい姿になっているのでしょうか。
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webムー編集部
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