不動産情報を除霊する!? 事故物件のオバケ調査を請け負う特異なコンサル会社「カチモード」の挑戦

文=羽仁礼

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    居住者の不幸が「心理的瑕疵」として記録される事故物件。不動産業界を悩ませる「わけあり物件」の対策に乗りだした会社がある。オバケの不在を証明する方法とは?

    不動産業界で絶えない「事故物件」問題

     カチモードという会社をご存じだろうか。
     ホームページによれば、この会社の社長は児玉和俊氏。事業内容は不動産コンサルティング(経営・運用・その他)、不動産調査、映像配信、各種情報提供サービス、遺品整理、清掃、リフォームの補助、その他となっている。

     これだけ見ると、よくある不動産コンサルティング会社のようだが、このカチモードの活動が現在、不動産業界のみならず、オカルト・怪談業界でも大きな話題となっている。

     というのは、この会社が現在主に行っている活動が、事故物件その他の不動産で不思議な現象が起きているかどうかを調べる、「オバケ調査」なのだ。

    カチモードのHPより。 https://kachimode.co.jp/

     児玉社長は1979年生まれ。大学卒業後はまず、某大手家電量販店に就職したが、不動産経営を行っていた父親の健康状態が悪化したため、家業を継ぐべく3年で退職した。ところが、その後父親の状態が回復し、家業を継ぐ予定が変わってしまう。そこで児玉社長はまず人材派遣会社、続いて賃貸不動産管理会社に勤務した。その児玉社長が事故物件なるものについて知ったのは、賃貸不動産管理会社に勤務してすぐのことだった。

     話を進める前に「事故物件」について簡単に解説しておこう。

     事故物件とは、そもそもどのような物件をいうのか。
     その家屋あるいは室内で人が死亡した物件と思う人もいるかもしれないが、単にその場所で人が死んだだけでは事故物件にはならない。事故物件となるのは、死に方が特殊な場合だ。具体的にいうと、自殺、殺人、火災やはっきりした死因が不明な場合である。老衰のような自然死や転倒などの事故死、持病などによる通常の病死が生じた場合は事故物件とはならない。ただしこうした通常の死亡原因であっても、発見が遅れて腐敗し特殊清掃が行われた場合は事故物件となる。

     では、不動産が事故物件になると、どうなるのだろう。

     事故物件については、家主に告知義務というものが生じる。つまり、この物件を誰かに賃貸しようとするとき、異常な死亡事件などが起きた事故物件であることを賃貸希望者に告げる義務が生じるのだ。
     たとえどんなに綺麗にリフォームされ、機能的に優れていたとしても、自分がこれから借りようとしている建物やアパートの一室で人が不自然な死を遂げたと聞くと、誰だってよい心持ちはしないだろう。ほとんどの人がなんとなく気持ち悪い、と感じるようだ。中には、死んだ人の霊がまだその場所に留まっていて奇妙なことが起きるのではないか、もしかしたら祟りを受けてひどい目に遭うのではないか、と心配する人もいるかもしれない。
     こうした抵抗感を、物件に対する「心理的瑕疵」と呼ぶ。嫌悪施設などに隣接する場合も心理的瑕疵が該当するが、事故物件については感覚的なものではなく、「事故」という条件が明確である。

    「心理的瑕疵」への抵抗感に対して家主ができることは、家賃を下げることしかない。
     つまり、「この物件は事故物件で、居住には抵抗感があるでしょう。でもその分家賃を下げますから住んでください」ということだ。世の中には、こうした家賃の安い事故物件を選んで住んでいる人もいるようだが、家主にとしては、本来期待できる賃料よりずっと低い収入で我慢せざるを得なくなる。児玉社長が直接経験した例でも、元々月額13万円の家賃が、事件後管理会社から4万円を提示されたというものがある。

    カチモードを起業した児玉和俊氏。現場での「オバケ調査」は社長自身が担当している。

    不動産を「オバケ調査」する

     児玉社長がカチモードを設立した主な理由は、事故物件の心理的瑕疵による家賃減額分、不動産の損失分を何とか回復できないか、というところにあった。

     児玉社長は賃貸不動産管理会社に勤務していたサラリーマン時代に、「事故物件による家賃の下落を何とかできないか」と相談されたことが何度もあるという。
     しかしその度に、「今を乗り切ることが先決です」という場当たり的な回答しかできなかったそうだ。だが、乗り切るといってもいつまで耐え続ければよいのだろう。

     じつは事故物件については告知期間というものがある。以前ははっきりした基準もなかったのだが、令和3年10月になって国土交通省が告知に関するガイドラインを出した。それによれば、「概ね3年を経過した場合」は、家主の側から告知する義務はなくなる。だが義務はないものの、相手側から照会された場合は黙っていてはいけない。
     となれば、事実上永久に事故物件であると告げる必要がある。また、有名な事故物件情報サイトの運営者は「そこで事故が起きた事実がなくなるわけではない」とし、サイトから情報を消すことはないと断言している。

     では、どうすればいいのか?

     そこで児玉社長は、第三者の目による客観的で科学的な調査によって、該当する事故物件で何も異常が起きていないと証明出来れば、下落した価値を少しでも回復できるのではないかと考えた。こうした調査の結果を示すことで、物件の「心理的瑕疵」を少しでも減らし、失われた不動産の価値を少しでも回復しようとして、日本で初めてこの種の調査を実施する会社を設立したのだ。「カチモード」という会社名自体、失われた「価値を戻す」という意味が込められている。

     オバケを調査すると聞けば、霊の存在を証明することが目的となりそうなものだが、カチモードの「オバケ調査」の目的は、オバケを見つけるのではなく、何も起きないことを証明することである。

    映像、電磁波、気圧……一晩かけて物件を調査

     カチモードの「オバケ調査」は以下のような手順で実施される。

     調査を依頼されると、まずは家主はじめ遺族など関係者から事情聴取を行い、「事故」の現場情報などを整理しておく。この時点で心霊現象の有無は問わない。そして、現場に児玉社長本人が現場に泊まり込み、異常が起きるかどうかを調査する。基本的に夜10時から翌朝6時までの一晩、じっくりとデータを取るのだ。

     現場には、ビデオカメラやボイスレコーダー、電磁波測定器、温度測定装置、風力測定装置、気圧測定装置などの器材を設置する。8時間稼働させ続け、電磁波や映像、音声、風速、気圧といった様々なデータを測定し、1時間ごとにその結果を記録に残す。
     建物の周辺の状況も事前にしっかりチェックし、データに影響を与えそうな施設や条件を確認するそうだ。あるマンションで飛び降り自殺が起きたときは、飛び降りた屋上や落下場所にも機器を設置した。
     また、建物がちゃんと水平になっているかどうかも、けっこう重要なポイントだという。わずかな水平感覚の不調が心身に影響を与えることも少なくないからだ。

     その調査の結果……何も起きなかったときは、調査は終了。
     カチモードから「何も起きていない」という証明書を発行する。この証明書も、現在では不動産業界の業界紙や経済誌などで注目されており、一部の不動産情報サイトでは「カチモード調査済」の表示が導入されている。

     つまり、それは「不動産情報の除霊」といえるだろう。

    「オバケ調査」で何も異常がなかったら、このような証明書を発行する。

     だがしかし、もし何か異常が感知されたら?

     じつは児玉社長本人も賃貸不動産管理会社に勤務していた頃から、謎の音声を聞いたり、何かの気配を感じたりした経験が何度もあるようだ。こうした不思議な体験については、児玉社長の著書『告知事項あり』『事業内容:オバケ調査』に記されており、いくつかの怪談会、怪談イベントでも披露されているので詳細はそちらに譲るが、児玉社長は、そのような不思議が起こる物件の活用も考えている。じつは、本当に異常な現象が起きる建物を見つけることも、「オバケ調査」の目的のひとつなのだ。

    「オバケ」を事業に活用する

     各種の計測機器に、実際に異常な数値が記録されているとすれば、何かが起きていることは間違いない。それが霊の仕業かどうかは断定できないものの、こうした各種の不可思議な現象のことを、児玉社長はとりあえず「オバケ」と称しているのだ。そこで調査の名称も「オバケ調査」となる。

    「オバケ」が現れる建物やアパートは、ある意味非常に希少価値のある物件とも言える。いるかいないかわからないのではない。データとしての異常(オバケ)が確認済となった物件は当然、珍しい。

     この希少性を価値として利用するのだ。実際イギリスなどでは、幽霊の住む建物にプレミアがついて、通常より高い値段が付くこともある。

    異常が測定された例。

    「異常」の事例として、上記の画像がある。真夏の調査時のデータだ。
     通常のオバケ調査では室温・湿度を計測するため空調はつけないが、この回の調査に関しては依頼主の不動産所有者から、夜間に熱中症などになると困るので…ということで空調を稼働させることを
    調査の条件となった(24℃、風力:静 一番風力の弱い設定)。
     その中で図表のアベレージを見ると室温は24℃前後で推移しているが、湿度が急激に上がりそのまま高い状態で維持している。時間としては日付が変わる0:00ごろから上がり始めた。エアコンの「湿度戻り」というということも考えられるが、ここまで急激な変化があったのは、カチモードの事例でもこの調査のみ。

     こういった「異常」が、いわゆる幽霊そのものかは、わからないが、ともあれ、事故物件においておかしなことが起こることは、確かにあるようだ。

     カチモードの場合、まず異常が確認された物件を会社で借り受けて、継続調査を行う。現在も何件かの物件で、この継続調査が行われている。

     さらに、カチモードによって「異常なし」とされた物件に住んだうえで、その借主が異常な現象を確認した場合は……。その申告を受けて再度カチモードが調査し、改めて異常が確認できた際は最大100万円の懸賞金が出るというのだ。オバケ調査済としても心理的な抵抗をぬぐいきることは難しいが、その気持ちを「何かあったら懸賞金が出るわけだし」とサポートしている。貸主と借主の双方に「気持ち」で対応する事業なのだ。

     つまり、事故物件であっても何も異常がなければその旨についての証明書の発行や懸賞金をつけるなどして家賃の回復を促し、何かが起こるのであればそれを詳細に調査し、関係者と協議の上でその点を価値ある付属情報として不動産の価値を高めようというのがカチモードの狙いなのだ。

     しかし、事故物件をいくつも訪問し、こうした調査を行っている児玉社長本人は、何らかの霊障を受けたりしないのだろうか。

     社長によれば、カチモードを初めて3年になるが、今のところまったく祟りのようなものは受けていないという。もしかしたら児玉社長の守護霊が相当狭量な加護を与えているのかもしれないが、社長自身はこう述べている。

    「事故物件の場合、そもそも死んだ人の素性は明らかであるし、遺族の方からも事情を聴取しているから、例えその人の霊がとどまっているとして相手の素性は明らかである。さらに法律上は契約が終わっているのであるから、霊であってもそこに留まる権利はない。自分としてはそのように考えて、ちゃんと向き合うことができているからではないか」

     各種の測定機器を用いて厳密な調査を行うカチモードのノウハウは、今後パワースポットやミステリースポットの調査にも活用できるかもしれない。こうした調査で得られたデータを分析すれば、いわゆる心霊現象の解明にも新たな進展が得られるはずだ。

    取材協力:カチモード
    https://kachimode.co.jp/
    https://www.youtube.com/@kachimode

    *YouTubeで「不動産の怖い話」を語ることもある児玉社長。

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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