魔女狩りの嵐が吹き荒れた地に建つ「悪魔憑き」の古城へ! スコットランドの心霊古城「ドーノッホキャッスル」ルポ

文・写真=ケリー狩野智映

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    幻獣、妖怪、妖精の伝説が数多く存在するミステリー大国スコットランド。その北部ハイランド地方には、「幽霊が出る」という古城ホテルがある。現地在住ライターが現場からレポート!

    前編「タロッホキャッスル」についての記事はこちら https://web-mu.jp/history/56745/

    処刑された男の霊が出るドーノッホキャッスル

     インヴァネスから車でさらに北上すること1時間強の町ドーノッホには「ドーノッホキャッスル」がある。ここは2003年10月に、アメリカの有料テレビチャンネル「TravelChannel」の人気シリーズ番組「Haunted Hotels(幽霊の出るホテル)」でも紹介されている。

     ドーノッホキャッスルは、1500年ごろに司教の邸宅として建てられたとされ、1557年に地元貴族のサザーランド伯爵に譲られた。その向かいにあるドーノッホ大聖堂では、世界のポップスター・マドンナが2000年に、当時の夫で映画監督のガイ・リッチーとの間に生まれた息子ロッコの洗礼式を行っている。

     この城と大聖堂は、1570年に地元の有力氏族間で起こった抗争の際に、凄まじい籠城戦の舞台となった。その後、城は何度か修復され、19世紀前半には裁判所および監獄として使われていた。
     記録によると、1828年には男性囚人63名、女性囚人17 名の計80名が投獄されており、そのうちの34名は蒸溜酒(主にウイスキー)密造の罪に問われた周辺地域の小作人だったという。

    堅牢な作りのドーノッホキャッスルは、19世紀には裁判所や監獄として利用されていた。
    城の向かい側にあるドーノッホ大聖堂。

     そして、1947年にホテルとなったのだが、ここで亡霊が目撃されるようになったのは19世紀終盤からのことだ。

     最初の目撃者は、州長官の娘としてこの城に住んでいたマリオン・マッケンジー嬢である。
     ある日、紅茶に入れる巣蜜(蜂が集めた蜜を巣ごと切り取ったもの)を捜して父の書斎に入ったマリオンは、奇妙な顔をした長い白髪の男の霊に出くわした。
     その男は、真鍮のボタンが2個ついた青いコート、膝下までのズボン、分厚いグレーの靴下、バックルつきの靴、そしてスコットランドの農民が着用していた「バルモラルボンネット」と呼ばれる羊毛製の帽子という出で立ちだったという。
     恐怖に慄いたマリオンは書斎を飛びだし、家族に助けを求めにいった。しかし、マリオンが家族を連れて書斎に戻ると、男の霊はすでに姿を消していた。
     それから数日後、近隣地域の聖職者であったマリオンの母方の伯父が城を訪れた。その晩、夜中に何者かに叩き起こされた伯父が目を開くと、ベッドのかたわらに不審な男が立っていた。伯父は驚愕し、部屋から出ていかないなら州長官を呼ぶと脅すと、男はその場で煙のように消えたという。
     娘と義兄の話を聞いた州長官は過去の監獄の記録を調べ、その男が17世紀のスコットランドで、長老派教会の支持を盟約した「カヴェナンター」と呼ばれる人々のひとりで、羊を盗んだ罪で投獄・処刑されたアンドリュー・マクコーニッシュであると特定した、と伝えられている。

    不可解な現象が起こる古城ホテルの現場を歩く

     その後、長い間マクコーニッシュの霊が目撃されることはなかったのだが、1922年に城が売却されたとき、新しいオーナーはエクソシストを雇って徹底的な悪霊祓いをさせたという。だが、城がホテルになってから、何度も心霊現象が報告されている。悪霊祓いには有効期限があったのだろうか。

     現在のオーナーは、2000年にホテルを買い取ったトンプソン一家である。筆者が取材で訪問した日、ロズリン夫人が直々に城内を案内してくれた。

    ホテルを案内してくれたオーナーのロズリン夫人。
    幽霊の出るホテルとして知られる「ドーノッホキャッスル」の入り口。

     現存する城の最も古い部分は16世紀のものと考えられている。現在はウイスキーバーとなっていて、ウイスキー通の間で定評のあるエリアは、かつては城の厨房だったという。
     城にある塔のらせん階段などはいかにも「何か出そう」なムードを漂わせているが、実際に心霊現象が報告されているのは、木製の四柱式ベッドが置かれた客室2と、古い石の柱がある客室7だ。何人もの宿泊客が男の霊を目撃したり、寝ているときにだれかに見下ろされているように感じたという。
     これはトンプソン一家がオーナーになる前の話だが、ある塗装工が壁のペンキ塗り作業をしていたとき、ほかにはだれもいないはずの廊下で、何者かの気配と冷気を何度も感じたという。
     ロズリン夫人の話によると、過去に何度かオカルト研究家を名乗る人々が調査のために宿泊しに訪れたそうだ。果たして調査の結果はどうだったのだろうか。

    木製の古風なベッドが置かれた客室2。ここでは何度か男の霊が目撃されている。
    (上下)心霊現象が起きるという客室7。部屋の奥には相当古い時代のものと思われる石の柱がある。
    塗装工がペンキ塗りの作業中、心霊体験をしたという廊下。

    魔女狩りの嵐に晒された悲劇の土地ドーノッホ

     ドーノッホはスコットランド最後の魔女が処刑された地でもある。それは1722年のことで、処刑現場には小さな石碑が置かれている。
     中世のヨーロッパにおいて、魔女狩りの嵐がとりわけ激しく吹き荒れたスコットランドでは、2022年に自治政府が歴史的な不正義を認め、正式に謝罪している。
     ドーノッホの石碑の周りには、理不尽に処刑された女性を供養するかのように、色とりどりに塗られた石が供えられていた。

    1722年、スコットランドで最後の魔女が処刑された場所。悲しい歴史の記憶をつなぎとめるように、小さな石碑が置かれている。

     筆者は常日ごろから、歴史深い建造物の壁や柱には、そこに住んだ人人や起こった出来事の記憶が染み込んでいると考えている。風光明媚なスコットランドに点在する古城を訪れるたびにそのことを実感するのだが、タロッホキャッスルとドーノッホキャッスルは、まさにそれを実証しているのではないだろうか。旅好きの「ムー民」の方々に、ぜひとも感じ取っていただきたい。

    (月刊ムー 2025年5月号掲載)

    ケリー狩野智映

    スコットランド在住フリーライター、翻訳者、コピーライター。海外書き人クラブ所属。
    大阪府出身。海外在住歴30年。2020年より現夫の故郷スコットランド・ハイランド地方に居を構える。

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