所有者が残した何かが染みついて…「中古品」の怪/朝里樹の都市伝説タイムトリップ

文=朝里樹 絵=本多翔

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    売っても戻るワケアリ品に、死者の影が忍びよる。

    くりかえされる死中古車に宿る呪い

     中古品、そんなものは町のどこにでも売っているが、それがかつてだれか別の人間のものであったからこそ生まれる都市伝説がある。よく語られるのは、中古車にまつわる都市伝説だ。その場合、中古車はソアラなどの高級車で、それが中古だとしても不自然に安い金額で売られているとされることが多い。具体的な話は以下のようなものだ。

     ある山中の国道沿いにぽつりとある中古車販売店で、5万円という安値で高級車が売られていた。それを見たひとりの若者が購入し、乗り回していたが、1週間後、首が切断される事故を起こし、死んでしまった。
     実はこの高級車は、最初に購入した人物が首を失う事故で死亡して以来、購入した人間が必ず首を切断される事故で死亡する呪いの自動車であり、以来、この車を購入した者は最初の持ち主と同じように首を失う事故で死ぬということが繰り返された。そのため、販売価格が5万円まで下がってしまったのだという。そして、この高級車は次の犠牲者を待つように同じ中古車販売店の店頭に並んでいるのだとされる。

     この話では最初の持ち主である死者が事故を起こしているのか、そもそも自動車が呪われているのか想像の余地を残しているが、話によっては自動車の中に元の持ち主の霊が現れて事故を誘発するなど、より直接的な表現がなされる場合もある。
     またこれらの怪談の場合、中古車は所有者となった人間を毎回事故に巻き込んで死亡させるにもかかわらず、再び中古車販売店に現れるとされ、破損することがないという特徴もある。

     こういった中古車にまつわる怪異は海外にもある。たとえばアメリカでは1955年に自動車事故で亡くなった俳優、ジェームズ・ディーンがその事故の際に乗っていた愛車「リスト・バスタード」が呪われており、事故後、バラバラになったリスト・バスタードの部品に何らかの形で接触した人間が次々と事故に遭った、という都市伝説がある。

     また、第1次世界大戦のきっかけとなったオーストリア皇太子フランツ・フェルディナント大公の暗殺事件(サラエボ事件)で、フランツ・フェルディナント大公らが暗殺の際に乗っていたオープンカーも、その後人の手に渡った後、次々と悲惨な事故を起こしたという都市伝説が語られる場合もある。

     このように世界各地で中古車の怪が語られているが、日本では他にも中古船にまつわる怪異譚もある。松谷みよ子著『現代民話考3』には、殺人事件の現場となった船が売りに出されたところ、その船に毎晩のように若い船員の幽霊が出た、という話が載せられている。

    へっついにご用心出たら勝負だ

     車に船にと、現代の中古品に現れる死者の話は乗り物に関連することが多い。しかし、近代にも中古品に現れた死者の話があり、その中古品は乗り物ではなく「へっつい」、つまり「かまど」だった。三代目桂三木助や六代目三遊亭圓生が語って広まった落語『へっつい幽霊』に登場するこの幽霊は、恐ろしさよりも滑稽さを感じさせる。その内容は以下のようなものだ。

     ある道具屋にあったへっついは、だれかが買っても翌日にはその客が引き取ってくれ、と買ったときの値段より安い金額で返しにくる不思議なへっついだった。それが何度も続いたため、あるとき、道具屋の主人が客に理由をたずねると、夜中に痩せた男の幽霊が現れ「金を出せ」と脅かしてくるのだと語った。
     やがてあの店の品は幽霊が出ると噂が立つようになり、困った道具屋は3両出すからへっついをもらってくれ、と人を捜しはじめる。それを聞いた博打好きの長屋の熊は、隣に住む悪友で、遊び人の若旦那とともに引き取った。しかし運ぶ途中にへっついを落としてしまい、角が欠ける。するとへっついの中から300両もの大金が出てきたため、ふたりは大喜びして山分けし、ひと晩で使い果たしてしまった。
     その次の晩、へっついから幽霊が現れた。若旦那が悲鳴を上げたため、隣の熊が駆けつけ、幽霊にお前は何者かとたずねると、幽霊は身の上を語りはじめた。それによると、幽霊は左官の長五郎といい、熊と同じく博打好きで、大当たりを取って300両をこのへっついの中に隠し、フグを食ったところ、これに当たって死んでしまったのだという。
     幽霊が300両を返してくれというので、若旦那の実家へ行って訳を話し、金を都合して幽霊に返した。しかし幽霊は根っからの博打好きであったため、それを元金にして熊と丁半博打を興じはじめる。しかし、この勝負は熊のもとに運が舞い込み、幽霊はすっからかんになってしまった。それでも幽霊は懲りずに「もうひと勝負」と頼み込む。さすがの熊も「銭がねえならおしまいだ」とあしらうが、幽霊はこういった。
    「銭がなくっても私は幽霊です。決して足は出しません」

     この話の元になったのは安永2年(1773年)に出版された笑話本『俗談今歳花時』にある「幽霊」だとされ、博打好きの禁平という男が死後、その一周忌に友人たちが墓の前でちょぼいち(サイコロ賭博の一種)を行うと、突然禁平が現れ、死装束をカタに金を300文張る、という話になっている。

     売っても売っても戻ってくる中古品には、死者の影があった。もし高価なものの中古品が異常な安さで売られていたら気をつけよう。そこに憑いている霊が長五郎や禁平のような害のないものならいいが、新しい所有者に死を誘発させる霊である場合もあるのだ。

    (月刊ムー 2025年6月号掲載)

    朝里樹

    1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。

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