深夜の森に“光る目の怪物”が出現! 正体はエレメンタルか霊獣ウェンディゴか?
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ジャージー・デビル、モスマン、そしてルーガルー。この連載記事では、アメリカ各州の伝統的かつ土着的なモンスターを紹介してきた。今回取り上げるモンスター、ウェンディゴは、こうしたジャンルの中でもかなりレアな部類に属するだろう。
ウェンディゴとは、ミネソタ州に縁が深いネイティブアメリカンのオジブエ族、クリー族、ソールトー族などアルゴンキン語を話す人々の伝承に登場する超自然的存在だ。
アメリカ中西部に位置し、カナダと国境を接するミネソタ州は、「Land of 10,000 Lakes(1万の湖の地)」というニックネームが付けられるほど湖が多い。州内には4万平方メートル以上の面積をもつ湖が14,420か所もあり、州の約3分の1が森林に覆われ、残りは草原や農地が占めている。
「ミネソタ」という名前は先住民ダコタ族の言葉で、「空色の水」を意味する。州の中心は「ツインシティーズ」と呼ばれるミネアポリスとセントポールの都市圏で、州人口の60%以上が集中している。そのツインシティを取り囲むようにどこまでも広がる深い森に、人知を超えた恐ろしい存在が潜んでいると囁かれてきた。
まさにウェンディゴはその代表格として、北米の森林地帯に住む人々の想像力をかき立ててきた。貪欲、飢餓、そして孤立の象徴であるウェンディゴは単なる怪物というよりも、人間の恐怖と道徳に関する深い教訓的な物語のモチーフとしても認識されている。
ウェンディゴ(ウィンディゴまたはウィティコと表記されることもある)の描写は部族や語り部によって異なるが、一貫した特徴もある。灰色がかった、あるいは腐敗した皮膚が骨の上に張り付いたような、やせ細った人間の姿だ。日本特有のイメージでたとえるなら、餓鬼道を描いた浮世絵がぴったりだろうか。ただ背は高く、5メートル近くあるといわれている。角を生やした別世界の動物として描かれることもある。
ウェンディゴという名前は、 “人間を貪る悪霊 “または “食人霊 “という意味になる。彼らは決して癒されることがない飢えに苛まれており、どれだけ食べても絶え間なく飢え続ける。腐敗臭を放ちながらさまよい歩き、助けを求める人間の叫び声を真似て獲物をおびき寄せる。
一説によるとウェンディゴは冬(欠乏と苦難の時期)を擬人化した存在とされ、極度の飢餓と道徳的堕落のイメージに直結する。飢饉の時にカニバリズムに走ったり、欲に溺れすぎたりするとウェンディゴに取り憑かれてしまう。そうなれば最後、人肉を求めてさまようことになるのだ。
オジブエ族の伝説では、ウェンディゴはコミュニティ内での利己主義や貪欲な行いに対する警告として語られることが多かった。食料が不足していた時代には資源を溜め込んだり、分かち合わなかったりすると「ウェンディゴにとり憑かれている」と非難されることもあったようだ。
つまり、ウェンディゴは単なる民間伝承のモンスターではなく、人間の道徳心にまつわる文化的意義をもった存在なのだ。貪欲、利己主義、共同体の幸福を無視するといった行動に対する戒めの象徴であり、孤立や過酷な環境での生存をめぐる深い恐怖を体現したものといえるだろう。
このような解釈は誤りであるとの指摘もあるが、いずれにせよ過酷な自然環境において、飢えと生存をめぐる恐怖がコミュニティに深く根付いていた事実は揺るがない。
ミネソタ州北部、特にスペリオル湖周辺とバウンダリー・ウォーターズ・カヌーエリア・ウィルダネスは、昔から不気味な伝説や超自然現象と結びつけられてきた。ウェンディゴが苛酷な冬にハンターや旅行者、孤立した地域社会を襲うという話は特に有名だ。同州に残されている歴史的資料には、19世紀にヨーロッパから入植してきた人々が、人里離れた場所でのウェンディゴ目撃談をネイティブアメリカンから聞いたと記されている。
ウェンディゴの目撃談は、今も報告され続けている。存在を裏付ける物証はないが、ミネソタの荒野で奇妙な体験をした人々からの報告は絶えない。雄大な自然を楽しむキャンパーやハイカーたちが、夜に人里離れた場所で不気味な悲鳴や人の声に似た叫び声を聞いたり、野生動物にしては人間に似すぎているものを見たりという話も定期的に報告されるようだ。また、森林地帯で不可解な失踪事件が起きることもあり、これをウェンディゴの仕業と信じる人たちもいる。
ウェンディゴ伝説が今も語り継がれているのは、飢餓、孤立、貪欲、人間性の喪失といった普遍的なテーマが根本にあるからだ。キャンプファイヤーを囲んで交わされるポピュラーな怖い話であると同時に、何世代にもわたって受け継がれてきた倫理的教訓でもあるのだ。そして、厳しい自然とともに生きるミネソタ州の人々だからこそ、とりわけ響くものがあるのだろう。
現代ポップカルチャーの舞台でも、人気TVシリーズ『スーパーナチュラル』のエピソードやホラー映画『アントラーズ』(2021年)で取り上げられたこともあり、ウェンディゴの認知度は全米レベルになりつつあるようだ。雪の森をうろつくモンスターであるとしても、極限状態に追い込まれた人間にとり憑く悪霊であるとしても、そして人間の暗い衝動の隠喩としても、ウェンディゴはミネソタ州民の想像力を掻き立て、卑しい本能に支配された人間がみせる醜態をつまびらかにする存在として、これからも語り継がれていくことだろう。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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