『君たちはどう生きるか』のアオサギから古代エジプト神「ベンヌ」を読む! その正体は冥界への案内人だ!/羽仁礼
話題の映画『君たちはどう生きるか』に登場する重要キャラクターは、なぜアオサギだったのか? 背景にある深い意味と歴史について徹底考察!
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、古代エジプトの神々の中でも特に重要な「オシリス」にまつわる神話を取りあげる。
冥界の神、オシリス――。古代エジプトは多神教で、数多くの神々が信仰されていたが、オシリスはその中でも特別な地位を占めており、3000年続いた古代エジプト時代を通じて崇拝されてきた。
実はこの「オシリス」という呼び名はギリシャ名で、古代エジプトでは、「アス=アル(眼の力)」あるいは「ウン=ネフェル(美しきもの)」と呼ばれていた。この神の起源は古代エジプトに統一王朝が成立する以前にまで遡るらしく、今となっては明らかでない。一説にはリビアやシリア、シュメールから伝来したとも言われているのだが、いずれにせよ、本来は植物の育成に関わる神であったと考えられている。それが、どうして冥界の神に変じたのか。その経緯については、ある神話が伝わっている。
古代エジプトの都市ヘリオポリスに伝わる世界の創世神話によれば、原初の神「ヌン」は水の広がりであり、その中から自らの意志で現れたのが「アトゥム」である。このアトゥムは唾を吐いて息子である大気の神「シュウ」を、嘔吐することで女神「テフヌト」を生んだ。シュウとテフヌトは兄と妹であったが、結婚して天の女神「ヌト」と大地の神「ゲブ」を生み、この2人の神から産まれたのが「オシリス」、豊穣の女神「イシス」、戦いの神「セト」、葬祭の女神「ネフティス」の4柱の神々である。
4人きょうだいの長子にあたるオシリスは、父ゲブから地上の支配権を得ると、野蛮な食人種であった人類を導き、教化して文明に目覚めさせた。
オシリスが彼らに小麦や大麦、ブドウなど穀物や果樹の栽培を教え、ぶどう酒やビールの醸造法を教え、農具を作って田畑を耕作させたので、人類は互いに食い合うことはなくなった。オシリスはまた、都市を建てる方法、灌漑水路とダムによってナイルの氾濫を制御するやり方、鉱物の精錬法も教えた。さらに諸神の像を造ってどのように崇拝するか教え、法律を作成した。
オシリスは一切武力に頼ることなく、言葉の力と、あらゆる種類の歌と音楽を用い、エジプト全土を巡って人々を教化した。知恵の神「トト」と、オシリスの妹であり妻でもあるイシスも、このオシリスの仕事を手助けした。
ところが、弟神のセトはこのオシリスの権威を妬み、72人の男達と、「アソ」という名のエチオピアの女王の力を借りて、オシリスの地位を奪うべく密かに陰謀を企てる。
セトは密かにオシリスの身体の寸法を計り、その寸法にぴったりの美しく、見事に装飾をほどこした箱を作らせた。
事件が起きたのは、オシリスの治世28年目のアテュルの月の17日で、太陽がさそり座を通過する時だったと言われている。
その日、宴会が催されてオシリスやセト、さらに72人の共謀者ら大勢が出席した。
セトは宴席に問題の箱を運び込んだ。参加した者たちはそれを見て、口々にその美しさを褒めそやした。するとセトは冗談めかして、
「誰でもこの箱の中に入ってぴったり寸法が合う人がいたら、その人に箱を進呈しよう」
と述べた。そこでその場にいる者は代わる代わる試してみたが、誰も寸法が合わなかった。最後に、人々に促されたオシリスが中に入って横たわると、セトは共謀者たちとともに蓋をかぶせ、外から釘を打ち込んで封をした上、熱く説かした鉛を上から注いだ。こうしてオシリスは殺されてしまった。
彼らはナイル河の流れに乗せて箱を運ぶと、河口の街タニスから海に流した。
箱は海を漂った後、フェニキアの海岸にあるビブロスの、ギョリュウの茂みに流れ着いた。このギョリュウの木は、箱を内部に飲み込む形で、たちまち大きく成長した。そこでこの立派な木を目に留めたビブロスの王マルカトロスは、中にオシリスの棺ともいうべき箱が封じ込められていることを知らないまま、これを切って王宮の柱にした。
一方、オシリスがセトに殺されたと知ったイシスは未亡人の喪服を身につけ、髪の毛を半分に切り落とし、夫の遺体を取り戻すためエジプト中を訪ね回った。そして遂に、問題の箱がビブロスにあることを突き止めた。
正体を隠してビブロスに訪れたイシスは、王妃アスタルテが生んだばかりの子の乳母となった。
イシスは魔術を司る女神でもある。乳母となったイシスは、アスタルテの子を不死にしようと、彼女の指だけをしゃぶらせて育て、夜になると神聖な清めの炎で焦がし、不死でない体の部分を焼いていた。
また、イシスはツバメに姿を変えては王宮の柱となっているギョリュウの木の周りを飛び、嘆きの声を上げていた。ところがある時、王妃がたまたまこの様子を見てしまった。驚いた王妃が大声で叫んだためイシスの呪文は破れ、子供の不死はかなわなくなった。そこで女神は正体を現し、王宮の柱を自分に与えるよう王に頼んだ。王の承諾を得たイシスは柱を切って箱を見つけ、船でエジプトへと持ち帰った。
エジプトに着いたイシスは、ナイル・デルタの沼地にあるブトという街の近くに、こっそり箱を隠していた。ところが、あるとき沼地で狩をしていたセトが偶然これを見つけ、今度は死んだ兄の遺体を切り裂いて14個の断片と化し、エジプト各地にばら撒いた。
だが、今度もイシスは諦めなかった。パピルスでできた船に乗ってエジプト中を放浪し、ばらばらの各部を集め、元通りにつなぎ合わせた。ただ、オシリスの性器だけはナイル河のカニに食べられていたので、イシスは人工的に性器を作り、遺体を復元した。さらに息子の「ホルス」や他の神々の協力も得て、魔術で夫を甦られた。このイシスの行為が、古代エジプトでのミイラ作りの起源になったと言われている。
だが、すでにオシリスは冥界の住人となっていたので、彼は現世の統治を息子の「ホルス」に任せることにし、以後は冥界の王となったのだ。
古代エジプトの『死者の書』によれば、死んだ人間は誰もが皆、オシリスの法廷で裁きを受けることになっている。
法廷で玉座に座るオシリスは、42の神を従えており、死者は彼ら全員の前で身の潔白を証明しなければならない。
その後、ジャッカルの頭をした神「アヌビス」の眼前で、彼らの心臓の重さが量られる。天秤の一方には死者の心臓、他方には真理と正義の女神「マアト」の羽が乗せられ、心臓が少しでも羽より重いと、近くに待つ怪物「アメミト」に心臓を食われてしまう。そうすると死者は来世で穏やかに生活できず、永遠の苦しみを受けるのだ。
なお、アトゥムからオシリスら4人の兄弟姉妹に至るヘリオポリスの9柱の神々は、ギリシャ語で「エネアド」とも総称される。
ちなみに、1952年12月、このヘリオポリスの9人の神を名乗る宇宙人たちが、アメリカの超心理学者アンドリア・プハリッチが主催する「円卓財団」のインド人霊媒にコンタクトするという事件が起きている。このとき彼らは、人数にちなんで「ナイン」と呼ばれていた。その後も何人かが、このナインからのメッセージを受けている。
世界の神話は、古代に実際に起きた事件に基づいているとの意見もあるが、もしかしたらヘリオポリスの9人の神々の正体は、古代に地球を訪れた宇宙人であり、オシリス神話は、そうした宇宙人の間で起きた権力争いを伝えたものなのかもしれない。
【参考】
『エジプト神話』(ヴェロニカ・イオンズ/青土社)
『エジプトの死者の書』(石上玄一郎/人文書院)
『火星+エジプト文明の建造者「9神」との接触』(リン・ピクネット、クライブ・プリンス/徳間書店)
羽仁 礼
ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。
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