それは祟りか災害か? 山口県浮島の「海を渡る鼠」の脅威/黒史郎の妖怪補遺々々
ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、“忘れ去られた妖怪”を史料から発掘! 今回は、襲い来る「海の鼠」にまつわる奇譚の数々を補遺々々します。
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文=遠野そら

ある日、忽然と人が姿を消すーー。古くから世界各地で奇々怪々な失踪事件が報告されているが、南米・ブラジルでは今なお未解決とされる集団失踪事件がある。村人全員が忽然と姿を消した「オエル・ベヴェルデ集団失踪事件」だ。
事件は1923年2月5日、ブラジル中部・熱帯雨林に囲まれた人口わずか600人ほどの小さな村「オエル・ベヴェルデ(Hoer Verde)」で起きた。
当時、深い森に囲まれた地域では、河川が貴重なライフラインとなりコミュニティが形成されていたが、オエル村もまた同様に、食料品や生活用品を近隣の村々から舟運していたそうだ。
最初に異変に気がついたのは、隣村の舟員だった。いつもなら到着するはずのオエル村の舟が、いつになっても来ない。舟の故障で困っているのではないかーー。そう思った舟員の男性は、オエル村へ直接物資を届けることにしたのだ。
男性がオエル村に到着してみると、舟は柵に繋がれたままで、故障といったトラブルはないようであった。いったい何があったのか、顔見知りの村人に尋ねようとしたが、どこにも見当たらない。それどころか、洗濯する女性たち、周囲を走り回る子ども、犬の鳴き声、食事を作る匂い、といった日常的な活気が失われ、村全体が異様なほどの静寂に包まれていたのだ。
「何が起きたんだ」
不思議に思った男性が村の中を歩いてみると、家屋は荒らされた様子がない。洗濯物はロープに干されたまま、食事の準備をしていたのだろうか、皿やコップがテーブルに置かれている家もある。だが、まるで村全体が巨大な何かに飲み込まれてしまったかのように、村人約600人が忽然と姿を消していたのだ。

その後、地元警察とブラジル人民軍の小隊による現地調査が行われたが、やはり村にはだれひとりいなかった。また学校の黒板には「救いはない」という文字が大きく書かれており、すぐ側には発泡した形跡のある銃が数丁残されていた。
なんとも無気味な出来事であるが、このミステリーに拍車をかけたのが黒板に書かれた「救いはない」という文字である。これがいったい何を意味するのか。今ではもう真相を解明する術はないが、発砲した形跡のある銃があったということから、危機的な状況に陥った村人が絶望にかられて書いたのではないか、と推測されているようである。
オエル村で一体何が起きたのか。その起因について、エイリアンによる集団的アブダクションや、パラレルワールド、ブラックホールといった説のほか、政治情勢によるゲリラから避難といった説もあるが、すべて推測の枠を出ない。なかには、この事件がロシアのある雑誌に掲載されたことが発端であるとして、その信ぴょう性を指摘する説もあるようだ。

だが、カナダ、アメリカ、中国など、これまでも世界各地で集団失踪事件が報告されているのは紛れもない事実である。その真相については今も謎のままであるが、現実にあったとしても不思議ではないだろう。
約100年の時を経て、かつてオウル村があったとされる集落は今では所在不明となっているそうだ。彼らの身に一体何が起きたのか。その答えは村とともに森の奥深くで眠っているのかもしれない。
【参考】
https://www.infinityexplorers.com/disappearance-hoer-verde-village-residents/
https://factschology.com/mmm-podcast-articles/mysterious-disappearance-hoer-verde-brazil-1923
遠野そら
UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。
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