巨人「ゴリアテ」の“本当の身長“を科学者が算出!  ダビデ王との戦いの知られざる真相も判明

文=仲田しんじ

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    聖書に登場する巨人「ゴリアテ」は、実際にはどれほどの身長だったのか――。科学者が残された記録からゴリアテの正確な身長の算出を試みている。

    「ゴリアテ」の本当の身長は?

     旧約聖書のサムエル記に登場する大巨人「ゴリアテ」は、ペリシテ人の戦士で将来のダビデ王と戦い、投石器の攻撃に遭った末に首をはねられて絶命した。この聖書の巨人は実際どれほど大きかったのか。

     聖書によると、ゴリアテの身長は「6キュビト1スパン」で、体重「5000シェケル」、その巨体は青銅の鎧で覆われているという。一方、紀元前1世紀から3世紀の間に書かれた旧約聖書のギリシャ語への翻訳である『七十人訳聖書』によると、ゴリアテの身長は「4キュビト1スパン」とされ、かなりのギャップがある。

     いずれにせよこの古い単位である「キュビト」と「スパン」がどの程度なのか、正確な数値はわかっていないのだが、一説では「6キュビト1スパン」なら約330センチ、「4キュビト1スパン」であれば約240センチになるともいわれている。身長3メートル以上ある生身の人間を想定することは難しいが、240センチ程度であれば少しは現実味を帯びてくるかもしれない。

     ちなみに、世界一背の高い男性、スルタン・キョセン氏は2023年の時点の身長が251センチでギネスブックに登録されている。この身長は、現代の医療のサポートがあってこそのものともいわれているが、例外中の例外として約3000年前に240センチの人間がいた可能性も残される。

    オスマール・シンドラー「ダビデとゴリアテ」

     米ブリガムヤング大学のジェフ・チャドウィック教授率いる研究チームは、巨人ゴリアテが生まれたガテの街(現代のイスラエルのテル・エス・サフィ)の建築的特徴から、古代の建築家が使用していた長さの単位を割り出す取り組みを行っている。

     そして研究の結果、古代の1キュビットは54センチ、スパンは22センチに相当することが算出されれたのだ。この単位を使用すると、ゴリアテの身長は238センチとなり、現代における世界一背の高い男性よりは低かったことになる。とはいえ、青銅器時代の男性の平均身長が160センチであったことを考えると、ゴリアテは同時代の人々にとってまさに大巨人に見えたことは間違いないだろう。

     今回、ついにゴリアテの身長=238センチが有力な説になったといえるのだが、唯一の問題は、ゴリアテの身長を示唆する記述が聖書以外には存在しないことだ。

     アメリカ東洋学研究所でのプレゼンテーションでチャドウィック教授はこの238㎝、つまり「4キュビトと1スパン」という数字が、ガテの街の壁の高さとまったく同じであることも指摘している。
     チャドウィック教授は「ゴリアテを城壁と同じくらいの大きさと表現するのは、適切な文学的表現のように思える」とも述べている。つまり、ゴリアテは「壁ほどの背丈の男」という漠然とした形容である可能性もあるということだ。

    アンドレア・ヴァッカーロ「ダビデとゴリアテの頭部」 画像は「Wikipedia」より

    不憫な大巨人であったのか

     一部の科学者は、ゴリアテのような巨体は下垂体の異変がもたらしたものであると指摘している。

     北アイルランド・ベルファスト市立病院の遺伝学者、パトリック・モリソン教授によると、ゴリアテやほかの歴史上の巨人は、下垂体に影響を及ぼすまれな遺伝的疾患を患っていた可能性が高いというのだ。
     育ち盛りの頃に活発に分泌されるヒト成長ホルモンはやがて自然に減衰して分泌が止まるが、下垂体に腫瘍などがあると正常な制御回路が妨害されて“オン”のままになり、身体が成長を続けるのだ。
     科学者たちは、成長ホルモンの過剰分泌により身体の変化と代謝異常が見られる病気である「先端巨大症(アクロメガリー)」の約10パーセントは、AIPと呼ばれる遺伝子によって引き起こされると考えている。1780年代にロンドンに住んでいた「アイルランドの巨人」こと身長231センチのチャールズ・バーンの骨格を調べたところ、彼もAIP遺伝子をもっていたことがわかっている。

     2014年に発表された論文で、モリソン教授は旧約聖書の「サムエル記」と「歴代誌」を分析。ゴリアテの兄弟と3人の息子が皆、巨人だったことを指摘している。つまり、身体の大きさは遺伝性のものであった可能性が高いのだ。
     モリソン教授は両目の間にある下垂体が腫瘍によって大きくなると、視神経が圧迫されて側方視力が失われると解説する。ゴリアテが20代後半だった場合、この腫瘍が進行していて周辺視野がほとんどなかった可能性もあるという。

    glagolyvechnoyzhizniによるPixabayからの画像

     聖書では「ゴリアテは盾持ちに率いられて戦いに出た」と描写されているのだが、この盾持ちは敵のいる方向を視力が弱いゴリアテに指示していた可能性があるということだ。

     また、巨体は筋肉を動かすための血液量が多いため心臓や血管に負荷がかかり、静脈瘤性潰瘍を引き起こしやすくなるため、先端巨大症のほとんどは心不全で死亡するといわれている。つまりゴリアテは恐ろしい巨漢の敵に見えたかもしれないが、その実態はかなり病弱な存在であったのだ。

     そして、ダビデが投石器を使ったのは、ゴリアテの視界の外から攻撃するためであったかもしれない。投石を受けてゴリアテが混乱している間に、ダビデがゴリアテの頭を切り落としたとすれば説明がつきやすい。つまり、ダビデはゴリアテの弱点を知っていたと考えられる。

     見た目の圧倒的威圧感で戦場で恐れられてきたゴリアテだが、実は虚弱で視界も狭く、それをダビデに見抜かれて攻略され、最終的に首をはねられたのだとすれば不憫で哀れな存在であったということになるのかもしれない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「hochelaga」より

    【参考】
    https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-14317919/Scientists-reveal-Goliath-height-Bible.html

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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