全裸の老女を担ぐ3人の幽霊集団と遭遇した話/妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

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    ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する「妖怪補遺々々」。今回は「南島研究」より、ちょっと変わった怪異・怪談を補遺々々します。

    「南島研究」の怪談

     暖かな陽春に語られる夢、幻めいた怪談もありますし、冬の囲炉裏端で語られる、身も心も凍てつく怪談もあります。ですが、やはりなんといっても怪談は夏でしょう。(編注:記事初出時が夏の掲載でした)

     さて、怪談の主人公といえば、いうまでもなく幽霊や妖怪といった、あやしのものたちですが、みなさんは幽霊と聞くと、どのようなものを想像されるでしょうか。

     頭に白い三角、白装束、身体が透けて足がなく、陰火をともない、ひとこと、「うらめしや」。
     今なら、長い黒髪で顔を隠した、白いワンピースの女が次から次へと人を呪い殺していく、そんなイメージでしょうか。

     今回は南島研究会編『南島研究』から、ちょっと変わった幽霊をご紹介いたします。

    水死者の霊はなにを吐く

     戦後間もないころ、沖縄で起きた出来事です。

     とある沖合で漁に出ておりますと、大量の材木が流れてきました。
     船に積み込もうとしますと、くくってあったロープが切れてしまい、材木は海へ落ちてしまいます。
     一番年下の青年漁師が落ちた材木を集めようと海に飛び込みましたが、時化であったために海が荒れており、不幸にも彼は行方不明となってしまいます。

     数日後、とても残念なことに彼は遺体となって見つかってしまうのです。

     その後、亡くなった青年が彼の自宅の門前に現れるようになりました。
     初めはうずくまっているのですが、なぜなのか、彼は人が来ると口から火を吹きつけたといいます。
     現れたのは月夜の晩。彼を目撃した村の若者たちは恐ろしさで震えあがったといいます。

     この話が収録されている資料の執筆者・崎原恒新が、幼少のころに噂になっていた話だといいます。

    ワッショの隣の社宅で

     こちらは平成のころに鹿児島で起きた出来事です。

     体験者のNさんは、ある工事のために沖永良部島の畔布にある社宅で寝泊まりしていました。このときの滞在者は8名。4畳半の部屋にふたりずつ泊まっていたそうです。

     その社宅は、ワッショと呼ばれる墓の隣にあり、近くにはたくさんの人骨が葬られている洞窟がありました。

     ある日のことです。同僚のひとりが夜中に目を覚ますと、見知らぬ人の顔が目の前にありました。夢かと思って視線をはずし、また視線を戻すと、顔はまだそこにあります。

     じっと、同僚のことを見つめてきたといいます。

     また、別の同僚がこんな体験をしておりました。社宅にいるはずのない子供が、「小父(おじ)さん」と呼びながら寄ってきたというのです。

     このような怪異が起きたと社宅で話題になった数日後、とうとうNさんも怪異に遭ってしまいます。

     夜中、Nさんは急に膝から下が金縛りにあって目が覚めました。

     するとそこには、騎馬戦の形になった3人がおり、その3人の肩に鉢巻きをした婆さんが乗って、Nさんのことを見つめていました。

     この婆さんは裸体でしたが、色が黒かったので首から下ははっきり見えなかったといいます。

     Nさんはこれらの怨霊たちは「丁重に葬られていない」霊であり、この世に未練があって自分たちの前に現れたのだと考えているそうです。

    <参考資料>
    崎原恒新「沖縄における霊魂観資料」『南島研究』第十九号
    登山修「夜な夜な現れる怨霊達」『南島研究』第四十二号

    (2020年11月26日記事を再編集)

    黒史郎

    作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。

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