夭折の天才少年がミレニアル世代初の「聖人」に! カトリック教会が正式認定した2つの奇跡とは!?
初の「ミレニアル世代」の聖人が登場することが確実となった。ローマ教皇フランシスコが5月23日、2006年に15歳で逝去した福者、カルロ・アクティスの二度目の“奇跡”を認定したことで、彼に“聖人”となる
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自分が起こしてしまう“奇跡”をなるべく知られないようひた隠しにしていた聖女とは――。空中に浮き上がろうとする身体を周囲にしがみついて必死に抗っていたのが16世紀の聖女「アビラのテレサ」である。
終末の時、イエス・キリストは空に浮かび上がった姿で再臨し、それに続いて「携挙」と呼ばれるイベントが起きるという。したがって、空中に浮揚することは神こそ為せる奇跡とされるのだが、カトリックの歴史を紐解いてみると、聖人トマス・アクィナスやクペルティーノのヨセフなども空中に浮かんだ記録が残されており、空中浮揚者(levitator)と総称されている。
そして近世初期の最も有名な空中浮揚者の1人であり、なぜか“不本意”であったとされる人物が、「アビラのテレサ」ことテレサ・デ・セペダ・イ・アウマダ(1515〜1582)である。
10代で修道女になったテレサは、20代で医師も匙を投げる謎の病気に悩まされていた。心肺停止状態に陥り、死亡宣告を受けて葬式の準備まで整い、納棺されるわずか数時間前に意識を取り戻したこともあったという。
長い療養の後、なんとか回復したテレサは修道院に戻って信仰の道に専心していたが、40代になって幻覚や恍惚状態を経験するようになった。そして、その状態の時になんと空中浮遊をするようになったのだ。
周囲からはテレサが悪魔に憑かれているという疑惑や、自作自演の詐欺なのではないかとの声、あるいは精神疾患やてんかんなどの発作ではないという懸念も持ち上がっていた。
米イェール大学の歴史学および宗教学の教授で作家のカルロス・エール氏によれば、テレサの恍惚状態と空中浮遊には、3つの重要なポイントがあるという。
第一に、テレサほど一人称で詳細に体験を記述し、分析したキリスト教徒の空中浮遊者はほかにいないこと。第二に、テレサほど頻繁に、声高に空中浮遊について不満を述べた空中浮遊者もほかにいないこと。第三にテレサほど突然、きっぱりと空中浮遊をしなくなった空中浮遊者もまたほかにはいない点だ。
テレサは自叙伝『Vida』の中で、神の天国へと導かれる体験を「恍惚状態」と呼び、次のように述べている。
「賛美歌を朗読していると突然、恍惚状態が起こり、私は我を忘れそうになった。それは明白で、疑いようのないことだった。主が私に恍惚状態の恩恵を与えてくださったのは、これが初めてだった」
ちなみにこの『Vida』は、教会の司祭から恍惚状態と空中浮遊について詳しく説明することを求められたことで執筆され、いわばテレサの“自己分析”の意味合いも持つ著書である。
恍惚状態は主に感覚の喪失と麻痺、そして後遺症を伴うトランス状態によって、身体のコントロールを失うことだとテレサは明らかにしている。
「空中浮揚の後、私の体はしばしばとても軽く感じられ、重さがまったく感じられないほどでした。時にはそれがあまりにも圧倒的で、足が地面から離れているかどうかさえほとんどわかりませんでした。空中浮揚の間、身体は死んだままで、自分では何もできないのです。そして空中浮揚を強いられたときには、身体がどのような姿勢であったとしても、立っていても座っていても、手を開いていても握っていても、そのままなのです」(自叙伝より)
テレサはこれらの恍惚状態と空中浮揚には、肉体的および精神的に苦痛と至福が矛盾して絡み合っていることについて繰り返し言及している。
「これらの空中浮揚は死への入り口のように見えますが、それがもたらす苦しみに匹敵するものを私は知りません」と肉体的苦痛について説明し、恍惚状態が絶え間なく続いた日々は「まるで茫然自失したように」歩き回るだけだったと告白している。
「私は誰にも会いたくも話したくもなく、ただ自分の痛みを抱きしめたいだけでした。その痛みは、全創造物で見つけられるものよりも大きな至福をもたらしてくれました」(自叙伝より)
テレサは恍惚状態と空中浮揚の予兆があると何度も抗ってきたが、その試みはほとんど失敗に終わった。阻止できなかったことについて聴罪司祭から非難されたこともあったため、なるべく人に知られたくない気持ちが強くなっていった。
テレサの精神的アドバイザーを務めたドミニコ会の著名な神学者ドミンゴ・バネスは、自分を含めほかの多くの人々が、聖体拝領直後にテレサが空中に浮くのを見たことがあると述べている。
身体が浮き上がるとテレサは「非常に悲しんで」教会の格子にしがみつき、やめてくれるよう大声で神に懇願したという。
また、テレサが聖歌隊席の床のマットに両手でしがみつきながらも空中に浮かび上がるのを見たと証言する人々もいる。テレサは、ほかの修道女たちに自分の修道服を引っ張って自分を引き降ろすよう頼んていたという。
テレサの空中浮遊の最も注目すべき点の1つは、彼女が空中浮揚に対して抱いていた否定的な思いと、周囲の人々だけでなく神自身に対しても不満を漏らしていたことである。
彼女は自著『The Interior Castle(城の中へ)』の中で、三人称で自分自身について次のように語っている。
「彼女はただ、皆に自分のために祈ってほしいと頼み、主に対して別の道に導いてくださることを懇願していたのです」
テレサを悩ませた恍惚状態と空中浮揚であったが、ある日突然その終止符が打たれることになる。その日を境に恍惚状態と空中浮遊が一切起きなくなったのだ。これについてテレサは、主が自分の願いを聞き入れてくれたのだと述べている。
テレサの死後、空中浮揚に対する信仰はカトリック教徒の間で強まっていったという。17世紀、いわゆる理性の時代の始まりには、空中浮揚者はヨーロッパだけでなく、スペイン、ポルトガル、フランスの植民地でも見られるようになっていた。
アイザック・ニュートンが経験主義と帰納的推論を使って万有引力の法則を導き出していたのと同時期に、かなりの数の空中浮揚者が空中に浮かんでいたとすれば実に興味深い。なぜ、この時代に空中浮揚者が多かったのか。そして、今でもカトリックの聖職者の中に空中浮揚者がいるのだろうか。カトリックの歴史の中でも実に興味深く魅力的な存在である空中浮揚者について、新たな解釈と視点がもたらされることを期待したい。
【参考】
https://publicdomainreview.org/essay/the-reluctant-levitator/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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