灰色の看護師が今もさまよう…ニュージーランドの心霊スポット「キングシート病院跡」を現地取材
ニュージーランドにかつて存在した精神科病院。いくつもの凄惨な事件を隠蔽していたその病院は閉鎖後、100件以上の異常現象が報告される最恐心霊スポットになっていた。
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南半球の島国、ニュージーランド。そこにもさまざまな怪談が伝えられ、人々のあいだに息づいていた。怪談作家・田辺青蛙が現地レポート。
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この夏、怪談を求めてはるばるニュージーランドまで取材に向かった怪談作家・田辺青蛙さん。Webムーでは「“NZ最恐心霊スポット”と呼ばれた精神科病院をそのまま利用したお化け屋敷」というディープスポット直撃のようすをお伝えしたが(記事はこちら)、田辺さんはさらに現地の先住民族・マオリ族に伝わる怪談も蒐集してきたという。
マオリの怪談、それはいったいどんなものなのか……。以下、田辺さんによる現地取材記事をお届けする。
ニュージーランド滞在中、心霊スポット体験のほかにマオリ族のテ・オカ・トイア(Te Oka Toia)氏のゴースト・ツアーにも参加し、他では決して聞くことができない話を聞いた。
テオカ氏がゴースト・ツアーを開始したのは2008年。途中、2020年のコロナ禍でいったん中断をはさみ、演劇や観客参加の要素を取り入れながら、マオリ文化の豊かな物語、神話、習慣、儀式などを加え拡大させるというビジョンを持って、ツアーを再開したそうだ。
ニュージーランド最大の都市、オークランドにあるブリトマート駅から開始するツアーは約2時間、歩いて街なかを巡りながら、過去に歴史や文化にまつわる暗部や、事件に絡めた怪談を聞く内容となっている。特にマオリ族の怪談は、語ること自体をタブー視されることも多く、ニュージーランド在住者でもなかなか聞くことが難しい。
そんな貴重な怪談を、インタビューを交えながら筆者が記録を行なった。
テオカ 「私のツアーでは『カラキア』を最初に行ないます。カラキアはマオリ族の祈りの儀式です。今回はダークなツアー内容のため、お祓いの意味合いで最初と最後に行ないます。不吉な話やネガティブな情報を語ると、そういったものが寄ってくるという伝承があります。なので、悪い何かを避け、祓うために、カラキアを行なうのは重要なんです。
まずは、スタート地点のブリトマート駅周辺の土地に纏わる歴史をお話しましょう。
第一次世界大戦から帰還した兵士が運んできたウイルスにより、1918年にインフルエンザパンデミックが起きました。
オークランド病院だけで1週間で1500人が亡くなり遺体が収容しきれなくなったため、病院は閉鎖され、このエリアにある3つの公園が屋外霊安所として使われました。遺体の移動には馬が使われ、辺りは死臭で満たされていたそうです。今はオークランドの玄関口として賑わい、きらびやかな商業施設が立ち並んだ場所ですが、こういった過去があるのです。
私はンガプヒ族とタイヌイ族のマオリ族の血筋で、今夜話すのはその部族にまつわるお話だと思って下さい。我々は「トゥプトゥプウェウェヌア」または「トゥムトゥムウェウェヌア」と呼ばれる祖先を共有しています。
私は10代まで英語を学ぶことはなく、どっぷりとマオリ文化のなかで育ちました。その教育により、マオリ民族の歴史、芸術、文化、習慣、儀式など、昔ながらの知識を身につけることができたんです。マオリの男性は幼い頃から戦士として育てられ、さまざまな武器の使い方も学びます。首から下に入れるマオリ族の伝統的なタトゥーはモコと呼ばれており、顔のタトゥーはマタオラと呼ばれています。
両足含め全身にタトゥーを入れるのにはおよそ40時間の施術が必要。私自身の体にも入っています。マオリ族の人々は、人生において何かを達成した時や、自身のアイデンティティを表すためにタトゥーを入れるのです。
タトゥーの他にも、石や木を使った彫刻や、歌やハカ(踊り)など、さまざまな形で今も続いている、マオリの文化を共有することに私は誇りを持っています」
ニュージーランドにも「怪談」はあるのだろうか。テオカ氏に聞いてみた。
テオカ 「ニュージーランドには多くの怪談があり、私の友人のマーク・ウォールバンクが設立したHaunted Aucklandのチームが多くの怪談を調査・研究しています。私はマオリ族なので、その視点からの発言になりますが、いくつかを紹介しましょう。まずは、マオリ族に対して行われた最後の公開処刑にまつわる怪談からーー。
1946年4月21日に処刑された3人のマオリ男性が最後の公開処刑となりました。驚くことに当時は公開処刑が一種の娯楽のように扱われており、刑が執行される際はたくさんの人々が観覧に訪れていました。彼らの罪状は第二次世界大戦中に行なわれた食人(カニバリズム)でした。当時のマオリ文化では食人が習慣として行なわれていたのです。今でも年老いたマオリの人たちには、食人体験談を聞いた経験がある人もいます。
第二次世界大戦中は主にふたつの動機によって食人が行なわれていました。ひとつは純粋に食料としての消費で、ふたつ目は敵を食べ自らの排泄物とすることで、相手を侮辱する儀式としての行為でした。オークランドの目貫通りのクイーンストリートの一角に、公開処刑場はありました。今は見る影もありませんが、何か感じる人はいるようです。
その近くでは連鎖のように9月になると殺人事件が起こっています。もしかしたら悪しき物が何か負の連鎖になるような見えないものを引き寄せているのかもしれません。マオリの文化では、こういった事件のあった場所は負の力を宿し、さらなる不幸を引き寄せると信じられています」
テオカ 「ブリトマート駅から歩いて10分程の場所にある、オークランド大学の校舎に隣接したこの公園は、もともと富裕層と貧困層の住居区域を分けるために作られました。
現在は主に学生で賑わう市民の憩いの場ですが、かつて食人の下処理が行われていた木がこの公園には残っています。その木は『死人の木』と呼ばれていて、人によっては地面から大きく手を広げた姿のように、木が視えるといいます。
この木の根に座り、女性達が食べられるための、人肉を解体していました。食人の儀式のルールのひとつとして、人間の骨や肉は女性しか触れないというのがあります。なぜなら、命をこの世に産み出すのは女性であり、その命を奪うことができるのも女性であるという考えがマオリの文化にあるからです」
テオカ 「儀式の際は歌を歌ったり、伝統的なフルートのような楽器を演奏したりします。その楽器は女性の骨で出来ていて、風のような音がします。人間をさばく際は、喉を切り地面に血と油を搾りだしたあと解体するのが手順です。ハンギという調理方法を知っていますか? ハンギはマオリの伝統的な調理法で、地面に穴を掘った後、火山岩を赤くなるまで熱し、バナナの葉に包んだ人肉を穴に入れ、蒸し焼きにします。
この木のそばでハンギの煙があがり、近くで血を抜き肉を解体する女性がいたことを、ここで食事をする学生たちは……恐らく知らないでしょうね。夜にこの場所で写真を撮影すると、何か人でないものが映り込むことがあるそうです」
テオカ 「身体を食料として消費した後に残った頭を、縮めて保存する文化がマオリ族にはありました。
具体的な方法を説明しましょう。ペルーでは「干し首」と呼ばれていて、そちらの方が一般的には知られていますね。
①まずは脳を取りのぞき、麻で編んだ籠に入れて海水に数日浸します。そして籠を引きあげて塩漬けにする。
②乾いた砂に2回に分けて埋めて、乾燥させる。
③頭を吊るして、黒くなるまで低温で燻(いぶ)す。
④クジラかサメ、もしくは人間の油を表面に塗って仕上げる。
この儀式は1830年まで当たり前に行なわれており、植民地支配にきたイギリス人にとって「モコモカイ」は人気のお土産でした。マオリ族の『モコモカイ』が特徴的なのは、南米の干し首と違って目や口を縫って閉じないことや、部族の特徴を表す入れ墨が施されていることです。tā moko ( ター・モコ)と呼ばれるこの入れ墨は、個人と部族の関係を表現することから各人によって違なります。なので、海外の蒐集家や博物館から『モコモカイ』を部族に返還する時に、この入れ墨の情報をもとにどこに返すべきかを決めました」
テオカ 「アメリカテキサスに大量の頭を所持する個人の収集家がいて、その後ほとんどの頭は親族のもとへと返され、一部はウェリントンの博物館に所蔵されています。
2020年に返還された64個の『モコモカイ』はオ-ストリアのウィーンの自然博物館に収められていました。ですが、返還の交渉は難しく、70年間も話し合いが続いていたそうです。そして、その長い交渉が実を結び、ニュージーランドのマオリ族の子孫のもとにやっと返される事が決まりました。しかしまだ海外に残されている『モコモカイ』があります」
テオカ 「マオリ族の文化では、死後の魂(ワイルア)は全て同じ旅路をたどっていくと考えられています。南島から始まり北島のてっぺんまでいき、そこでダイビングをして、生にまだ未練がある魂は木にしがみつき、死後の世界への準備が出来ている魂はそのまま下っていくのです。
マオリの文化には天国と地獄という概念はなく、死後の世界が存在するだけです。悪人も善人も死後いく場所に変わりはありません。
また、マオリの人間だけでなく、ニュージーランドに暮らす人なら誰でもこの死後の世界にいくことができると信じられています。マオリ族の世界では昔、死者を埋葬せず、遺体の骨を宝物や武器と一緒に洞窟に安置している方法を取っていました。ヒネキノはそのような洞窟に住んでいた魔女で、霊の世界と肉体の世界をつなぐ媒介者として働き、祖先の大腿骨で作った、呪いをかける事が可能なフルートを吹いていたといわれています。
その呪いとは、盗まれたものが洞窟に返還されるまで、現代に至るまでもその血統の男性に呪いをかけるというものでした。この呪いは不正を正すまで一族の中で続くことになり、実際魔女の夢を見て正気を失った墓泥棒や、病気で短命で全滅した一族がいます」
最後に、日本の怪談ファンにむけたテオカ氏のメッセージを紹介しよう。
ーー他にも多くの怪談を知っていますか?
テオカ 「オークランドで語り継がれている話だけでもたくさんありますよ。例えば、スーツケースの殺人事件にまつわる心霊話。
アボンデール大学の青い看護婦、ワイクムテ墓地の殺人者の森の吊るされた犯罪者の霊、市民劇場の灰色の幽霊、キングシート病院とキャリントン・アンド・オークリー・クリニックの泣き叫ぶ霊、カーライル・ハウスの焼かれた孤児たち……、オークランドは怪談の宝庫です。語り継がれているものでは、マオリ語でレレンガ・ワイルア(霊魂の飛翔)と呼ばれるものがありますね。先祖の骨を乱した者への呪いや、もっともっと過酷な内容のエピソードもあります。機会があればいつかお話したいですね」
ーー日本の怪談ファンに伝えたいことはりますか?
テオカ 「日本の怪談好きには、怪談を楽しみつつも、安全にこの世界に足を踏み入れてほしいと思っています。マオリ族の文化では、ひとたび怪談を語り始めたり読み始めたりすれば、あなたは暗闇のなかの光のようなもので、見えないものに見られる危険性があると信じています。
精神的に常に安全でいること、これは文化によって意味が違うかもしれないが、基本的には、幽霊の世界をさらに覗くときには、古い習慣や伝統を守るようにすることが重要だと考えています」
テ・オカ・トイア
ニュージーランド産まれ。ンガプヒ族とタイヌイ族の文化を継承するマオリ。オークランド大学を卒業後、2008年にオークランド・ゴースト・ツアーを開始し、2020年にコロナで中断を挟み、2024年に再開。若い頃から熱心な読書家で文化に纏わる書籍以外にも、ホラーや、SF、ファンタジー、ホラーの本や日本のマンガを愛読する知日家でも知られる。ダンス、演劇、演技、声優の経験を生かし、物語を伝えるクリエイティブな方法をニュージーランドのオークランドの地で常に模索している。
オークランド・ゴースト・ツアー https://www.facebook.com/AucklandGhostTours
田辺青蛙
ホラー・怪談作家。怪談イベントなどにも出演するプレーヤーでもある。
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