都市伝説「遊園地の人さらい」の舞台を巡る“噂拡散のメカニズム”/オレゴン州ミステリー案内
超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
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超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
前回の「遊園地の誘拐未遂事件」に続き、オレゴン州つながりでもうひとつ都市伝説を紹介しよう。こちらも、筆者にとって深い思い入れがあり、かつ“ご当地感”が強い話だからだ。
10代の頃、筆者は当時バイトをしていた歌舞伎町の牛丼店近くにあるゲームセンターに暇さえあれば入り浸っている状態で、パックマンやドンキーコング、クレイジークライマーなど、当時のメジャーなゲームはすべて得意機種としていた。
1982年の春、短期留学で訪れたオレゴン州の州都セーラムにあるウィラメット大学でも、ブックストアの隣にゲームコーナーがあることを知り、そこに毎日通い詰めることになった。すると、1週間もしないうちにほぼ毎日顔を合わせる人物がいることに気づいた。そして、どちらからともなくゲームの話をするようになった。
日本ではどんなゲームが流行ってるのか? アメリカで人気のゲームはやったことあるか? お前、いつもここにいるけど勉強は大丈夫か? さまざまな話をするうちに、聞き慣れないゲームの名前が出てきた。
「ポリビアスって知ってるか?」と訊ねられたが、当時の筆者はアメリカっぽいアーケードゲームといえば「センティピード」くらいしか思いつかない。詳しく知りたくなり、どこでプレイできるのか尋ねた。
「それがさ」――彼の名前は、その日に初めて知った――ショーンは、ちょっともったいぶった口調で続けた。「見つからないんだよ。ポートランドに住んでる友だちの友だちが1度プレイしたことがあるって言っていただけだ。去年話を聞いて、俺もポートランド中のゲームセンターを回ってみたけど、どこにもなかった。でも、ちょっとだけ面白い話を聞いたんだ」
ショーンがしてくれた面白い話というのは、以下のような内容だ。
「ポートランドにあるいくつかのアーケードに、全身黒ずくめの男たちが出入りしてる光景が度々目撃されていたらしい。ゲーム機の基盤を調べたり、データを抽出したりしてるんだ。そして彼らがいじっているのが、ポリビアスだったと」
ポートランドは、セーラムから車で1時間くらいの場所にある大都市で、北西岸ではワシントン州シアトルに次いで人口が多い。NBAのプロバスケットチームもあり、筆者も週末には遊びに行っていた。近郊の高校生や大学生が集まるきれいな町で、おしゃれな店も多かった。
筆者がフリーライターになってから調べたところによれば、ポリビアスがリリースされたのは1981年とされている。当時アメリカの大都市には、「ビデオアーケード」と呼ばれるゲームセンターが数多く存在したが、ショーンの言葉通り、ポートランドのゲームセンターで実機を見た、あるいはプレイしている人を見たという話が多い。しかし、メーカーはおろか筐体の外見さえわからず、ほぼすべての証言が「稼働していたのはわずか数週間だった」ということで一致している。いずれにしてもポリビアスは、ポートランドに集まる若者をピンポイントで狙ったかのような都市伝説だったのだ。
ショーンが「見つからない」とは言うものの、ポートランド市内の複数のゲームセンターで目撃されたということは、1981年の時点で筐体が少なくとも数台は存在していたことになる。ただ、前述のとおり稼働期間はきわめて短かかった。
この話を聞いた19歳の筆者は、“変な話”程度の認識だった。アーバン・フォークロアというものに対して本当の意味で目覚めるのはこの2年後だ。覚醒がもう少し早ければ、この時点でポートランドに行って一次情報を集めることもできたのに……。だからフリーライターになってから、13年前の謎に取り組むべくありとあらゆる手段を使って情報を集めた。いや、今も追いかけている。
ポリビアスが稼働していたと思われる1981年、ゲームが原因で起きたとされる身体的不調の実例がいくつか報告されていた。激しい頭痛や呼吸困難、ぜんそくの発作のような症状がほとんどだが、この中にポートランドでジェフ・デイリーという19歳のゲーマーが「ベルセルク」というゲームの世界最高スコアを叩き出した直後、心臓発作で亡くなった事例がある。
このような背景から、ポリビアスに関する噂もダークなものが多かった。1982年には、ポリビアスをプレイした子どもたちが頭痛や吐き気、さらには記憶喪失のような症状を呈するという話が広まり始めたという。
ゲームセンターに出入りしていたという黒ずくめの男たちについても、もう少し詳しく触れておこう。当時はMIBのイメージが定着し始めていた時代であり、不気味な服装の男たちに対する警戒感が強かったせいか、「ポリビアスを媒体として政府がブラックプロジェクトを実行している」という噂も登場する。こうした新しい要素も盛り込まれながら、ポリビアスというゲーム自体のメージが構築され、少なくとも都市伝説の世界の中では既成事実化していったのだろう。そして人々の興味や関心はピークに達し、多くの人々が「ポリビアスには何かある」と認識するようになったのではないか。
では、そもそもポリピアスとはどんな内容のゲームだったのか。ネット上の情報およびショーンが聞いた話では、いわゆる音ゲーだったようだ。本体から流れてくる音に合わせ、レバーを動かしてなんらかの操作を行う。音が立体的に聞こえ、プレイ画面の色使いがとても斬新だったという。その程度しかわかっていない。ショーンは「サイケデリックなゲーム」と表現していた。音と光、そして鮮やかな色彩で精神に働きかけるという方向性のゲームだったのかもしれない。
これまで何度も、さまざま方法で情報提供を求めているのだが、ポリビアスに関しては具体的な情報がまったく得られない。本家アメリカのリサーチャーも、状況は同じようだ。
ポートランドという都市の規模も、この話に深く関係していると思う。カリフォルニア州のLAやワシントン州のシアトルでは都会すぎて、目撃者やプレイ経験者がきわめて少ないというリアリティが薄れるし、オレゴンの別の都市では小さすぎて、話そのものの信ぴょう性が損なわれてしまう。ポートランドという町のイメージと、サイズ感があってこそ、ポリビアスの話のリアリティが極限まで高まったと思うのだ。
ショーンが語ってくれたことすべてが正確な情報だったと断言することはできない。今となっては、何らかの方法でポリビアスの謎解明につながる情報が見つかることを祈るだけだ。ポリビアスは、今も、そしてこれからも都市伝説ハンターである筆者にとっての「エピソード0」的アーバン・フォークロアであり続けている。
【参考】
https://weirdworld00700.blogspot.com/2012/07/game-of-insanitypolybius.html
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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