「ピアスの穴から飛び出た白い糸」都市伝説は日本生まれだった! White Threadの恐怖/AI時代の都市伝説

文=宇佐和通

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    都市伝説研究家の宇佐和通氏の新刊『AI時代の都市伝説』から、今改めて知るべきトピックを抜粋して紹介!

    耳たぶから飛び出した白い糸

     1995年を境に、欧米で流行していたアーバン・フォークロアが日本で流行し、日本で語られていた都市伝説的な話が欧米で拡散するという状況が生まれた。これは、この本でもたびたび指摘しているように、ウィンドウズ95の普及がきっかけになってネット由来のコミュニケーションが増加し、ポップカルチャーにおいても情報距離がぐっと縮まったからだと考えている。この項目で紹介するのは、アメリカではアメリカ生まれであると思われている日本生まれの都市伝説だ。

     とある女子大生が、友達にピアスの穴を開けてもらうことにした。安全ピンをライターで熱して消毒してから、それを耳たぶに刺す。ピンが刺さったまましばらく放置して、そっと抜くと、傷口から白い糸のようなものがぶら下がっているのが見えた。糸くずみたいだ。友だちは、それを指先でそっとつまんだ。

     すぐ取れると思ったのだが、思っていたよりずっと長い。仕方ないので少し力を入れて引っ張ってみたが、切れない。そのまま引っ張っていると、抵抗がなくなってスルスル出てくるようになった。

     そのまま引っ張り続けていると、再び抵抗を感じた。力を入れても動かない。そこで、指に何重かに巻き付けて思い切り引っ張ったら、どこかで「ブチッ!」という小さな音がした。

     次の瞬間、耳に穴を開けてもらっているほうの女の子がこう言った。
    「ねー、ちょっと待ってよ。何も見えないよ。電気消すなら先に言ってよ」

     スイッチは部屋を入ったすぐのところにあるので、二人とも届かない。もちろん停電でもない。実は、耳たぶからぶら下がっていた白い糸のようなものは視神経で、それを全部引っ張り出してしまったため、目が見えなくなってしまったのだ。

     懐かしい思いで読んでいただいている方もいらっしゃると思う。筆者がとあるコミック誌の編集者からこの話を初めて聞いたのは1990年代初めだった。1994年刊行の『ピアスの白い糸――日本の現代伝説』(白水社刊)というハードカバー本にもメインのトピックとして収録されていた。

     都市伝説が大好きな筆者は、フィールドワークを常に大切にしてきた。90年代は、街頭インタビューを通して都市伝説的な話を採取していた。こういう過程でも「耳たぶの白い糸」の話をよく聞くようになり、ピアスを売っているお店や美容外科でも取材させていただいた。

    さまざまなバリエーションと進化版も

     この話、「The White Thread」という直訳なタイトルでアメリカのアーバン・フォークロアSNSでも紹介されている。アメリカ発の話として認識されることも多いのだが、中には日本で生まれた話がアメリカに入って来て拡散したという正しい経緯に触れているサイトもある。友達に安全ピンで耳たぶに穴を開けてもらうというのはアメリカではなかなか馴染まないシチュエーションであるため、リアリティに欠けると感じる人が多かったのだろう。すぐに派生バージョンが生まれて語られるようになった。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     ある夏の出来事。ベニスビーチ(カリフォルニア州) で、サーファーがガールフレンドとおそろいのピアスを買った。ついでなので、その店で穴もあけてもらうことにした。そして数週間後。耳たぶの穴が猛烈に痛み始めた。ガールフレンドに見てもらうと、縁の部分から細い糸のようなものが出ている。引っ張ってみると、切れずにどんどん出てきた。面白くなってしまって引っ張り続けていると、サーファーの体からがくんと力が抜け、その場に倒れてしまった。驚いたガールフレンドは慌てて救急車を呼び、病院に向かった。

     いろいろな検査を行った結果、耳たぶの穴から出ていたものは脊椎の一番上につながっている神経だったことがわかった。そうとは知らず、脳幹神経の一部を引っ張り出してしまったのだ。

     サーファーは植物状態になって、今もUCLA病院の集中治療室にいる。

     進化はさらに続く。西海岸では主人公として親和性が高いサーファーも、アメリカ中部や東海岸では違和感がある。そこで、パンクロッカーを主人公にしたバージョンが生まれた。ストーリーラインはまったく同じで、耳たぶや鼻ピアスの穴から出てきた白い糸を引っ張った結果失明してしまったり、植物状態になってしまったりする話が拡散した。こうして、定番と言ってさしつかえのないレベルで語られるアーバン・フォークロアとなり、ネットロア化した。「耳たぶの白い糸」も、アメリカならではの時代背景の影響を受けながら進化したのだろう。

     これはこれで、アーバン・フォークロアからネットロアへの進化が具体的に示された事例であると考えていいのではないだろうか。

    <書籍情報>
    『AI時代の都市伝説: 世界をザワつかせる最新ネットロア50』
    宇佐和通・著/笠間書院
    https://shop.kasamashoin.jp/bd/isbn/9784305710147/

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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