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火星には思わぬ“お宝”が眠っていた――。火星地表のクレーターの溝は宝石で満たされていたのだ。
着々と進展するNASAの火星探査において、これまでは知り得なかった火星の“素顔”が徐々に明らかになっている。
NASAの最新鋭火星探査車「パーサヴィアランス」が2021年2月の火星地表への着陸時に撮影した映像では、これまでは想像するしかなかった「火星の風の音」が収録・公開されて天文ファンが歓喜した。火星地表の塵が舞い上がる一陣の風の音が、探査車に搭載された高性能マイクによって初めて拾われたのである。
次々と明らかになる火星の実態だが、最近になってまた1つ興味深い発見が報告されている。火星のクレーターに思わぬ“お宝”が眠っているエリアがあるというのだ。
米アリゾナ州立大学をはじめとする研究チームが2022年12月に「Journal of Geophysical Research: Planets」で発表した研究では、NASAの火星探査車「キュリオシティ」がゲールクレーター(Gale Crater)の周囲を移動して収集したデータを分析している。
このゲールクレーターは大型の衝突盆地で、中央には巨大な層状の山があるのだが、そのエリアには「フラクチャーハロー(fracture halo)」と呼ばれる明るい色調の岩石が見える亀裂帯が縦横に走っている。
10年間にわたってキュリオシティが収集したデータには、DAN(Dynamic Albedo of Neutrons)分光計や、火星地表の水素または水を測定できる中性子検出器による測定値も含まれている。これらのデータを分析したところ、亀裂帯の岩石が水を含んでいる可能性が浮き彫りになったのだ。
研究チームはさらにレーザー誘起破壊分光計の測定値や撮影画像を詳しく分析し、これらの岩石が主に水とシリカで構成されていることを確認したのである。そしてこれは、地球上ではオパールと呼ばれる宝石なのだ。したがってこの亀裂帯にオパールがぎっしりと詰まっていることが示唆されることになったのである。
“死の惑星”は意外にも宝の山であった――。依然として人類の“引っ越し先”として最有力候補である火星に対するイメージがガラリと変わる発見ともいえそうだ。
地球上ではオパールは、シリカ(二酸化ケイ素)が水によって変成した宝石であり、一般に褐鉄鉱、砂岩、流紋岩、泥灰岩、玄武岩の割れ目に見られる。「オパール」という名前は、サンスクリット語では「宝石」を意味し、またギリシャ語では「色の変化を見ること」を意味している。
虹色に輝くプレシャスオパールは世界的にも人気のある宝石で、主な産地はエチオピア、オーストラリア、メキシコなどである。
宝石としてのオパールには長い歴史があり、特にオーストラリアとエチオピアで発見された大規模なオパール鉱床は、歴史的にヨーロッパの王族が管理、活用していた経緯がある。
火星のオパールは残念ながらプレシャスオパールではなく、乳白色の一般的なものである可能性が高い。一攫千金を狙うトレジャーハンターはがっかりするかもしれないが、将来火星を訪れる宇宙飛行士や入植者にとっては実はきわめて大きなニュースである。
大昔(約20~25億年前)の火星には豊かな水と大気があったことが各種の研究から示唆されているが、現在の“死の惑星”である火星にはその面影すらない。しかし今回大量に見つかったフラクチャーハローのオパールを活用して水を抽出することができれば、火星でのミッションにおいて頼もしいサポーターとなり得る。
そしてもちろん、ゲールクレーター以外にも大量のオパールが眠っている場所は少なくないのだろう。まずは次世代の火星探査機がオパールを採掘して水を抽出するための機器を持ち込むことがはじめの一歩となる。今回のオパールの発見で今後の火星探査、そして火星開発にさらなる追い風が吹いていることは間違いない。
【参考】
https://mysteriousuniverse.org/2023/01/NASA-Rover-Finds-Gemstones-in-Martian-Crater/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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