フランスのチクリ通り魔「注射器男」の恐怖など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

    目次1 Xマス奇譚A2 Xマス奇譚B3 チクリ通り魔4 奇々怪々音 Xマス奇譚A  ある年のクリスマス直前、米テキサス州ダラス=フォートワースで在宅勤務中のブレッタ・イングラムさん(29歳)は、独り暮らしのはずなのになぜ […]

    Xマス奇譚A

     ある年のクリスマス直前、米テキサス州ダラス=フォートワースで在宅勤務中のブレッタ・イングラムさん(29歳)は、独り暮らしのはずなのになぜか、軽いクシャミのような物音を聞きつけた。

    「(きっとただの空耳よ)と私は思って、そのまま仕事を続けました。でもまた音がして、今度はキーキーという鳴き声でした」

     室内を捜しまわると、飾りつけたクリスマスツリーの中から、オポッサム(和名フクロネズミ、ただし有袋類)の長くて可愛い尻尾が垂れ下がっているのが見えた。

    「私は立ち止まって、ツリーの中をじっくり観察した。すると白っぽい桃色のふわふわ毛をしたオポッサムが1匹、ツリーの枝木にうずくまって、つぶらな黒い瞳でこっちをじっと見つめてたわ!」

     ツリーの中からオポッサムを取りだすのはいささか勇気がいったが、なんとか優しく掴みだすと、中庭の立木中に移してやった。

     それにしても、オポッサムがどうしてツリーの中にいたのか?

     専門業者がツリーを届けてくれた時、すでにその中に隠れていたのか? それとも室内に飾りつけた後で、庭先から侵入したのか?

     一般に有袋類の原産地といえばオーストラリアのカンガルーとコアラが有名だが、オポッサムは南北アメリカ大陸にのみ棲息する、珍しい種類の有袋類であることはあまり知られていない。

    Xマス奇譚B

     1920年、当時8歳のドロシー・グラントは両親から、枝が25本しかない地味な造りのクリスマスツリーを買ってもらった。

     ドロシーは長命に恵まれて、2014年に101歳で他界するまでこのツリーを大切に扱い、娘のシャーリー・ホールに譲った。

     2023年のクリスマス直前、今や84歳になったシャーリーは、おのれが〝1920年代の生活を偲ぶささやかな思い出の品〟と呼ぶこの高さがたった79センチしかない小さな人造ツリーを、英オクスフォードシャー州バンベリーの著名な競売・鑑定会社ハンソン・オークショニアズに出品した。

     事前に予想された落札価格は60ないし80英ポンド(約1万3000〜1万7000円)だったが、実際にはなんと2600英ポンド(約56万3000円)という予想だにせぬ破格の高値で落札された!

     ハンソン社はこの落札結果を、「世界一つつましやかなXマスツリーが、仰天するような超高値で売却された!」と発表した。

     同社のチャールズ・ハンソン社長によれば、このつましいXマスツリーの出所はおそらくロンドン市内のどこか昔のデパートで、売られた時の値段はほんの数ペンス(ペンスはポンドの100分の1)だったはずだという。

    「クリスマス本来の教えは、贅沢や浪費に対する戒めだったはず。われわれはだれもがみな、毎年クリスマスには、1年を振り返って猛省しなければいけないのだ!」

    チクリ通り魔

     フランスでは毎年6月の夏至の日(普通は21日だが、年により前後する)、全国の主要都市ですべて無料のコンサートやパレードやダンスパーティが開催され、何百万人もの国民が喜んで参加する。

     ところが去年は、以前にもあった謎の〝チクリ通り魔〟が大々的に復活。ボルドーをはじめ数都市の街頭で、合計145人もの被害者が「お祭り騒ぎに紛れて、注射器か何かでチクリとやられた!」と警察に届けでた。

     ボルドー在住のマノン某という22歳の女性は、お祭り騒ぎが終わった真夜中の午前1時半過ぎ、だれかに左の前腕を叩かれて振り向くと、男が足早に立ち去った。

    「まるでワクチンを注射された時みたいに、左腕の筋肉の感覚が無くなって、30分ほどするとそこに注射の赤い跡が現れたわ!」

     幸い、別に体調は悪くならなかったが、彼女は念のため地元の病院に駆け込んで、数時間がかりの毒性学的検査を受けた。

     診療結果が出るまで数日はかかるといわれて、彼女はいったんは帰宅したものの、その数日間は、「心配で心配で、夜もろくすっぽ眠れなかったわ!」という。

     地元の警察も(被害の程度は軽いが、軽犯罪にしろパニックが起きかねない)として、容疑者の割りだしに懸命だが、現在に至っても、犯人はまだ捕まっていない。

     この種の軽犯罪はだれでも気軽に犯せそうに見えるため、その後も似たような模倣犯が、首都のパリをはじめ、アングレーム、トゥール、エヴルー、ルーアンなど各地で続出している。やれやれ。

    奇々怪々音

     ニュージーランドは北島最大の都市オークランドのセルウィンクレセントで、ほとんど毎日のように夕方5時ごろから始まり、少なくとも延々と真夜中過ぎまで聞こえてくる奇々怪々な物音——〝正体不明の機械的連打音〟とでも形容できそうな奇々怪々な連続音が、付近住民を不安がらせている。

     それも不運にもたまたま発生地点にいちばん近い家宅に住んでいる家族にとっては、身体が文字どおりガクンガクンと揺さぶられるような——あるいは耳の鼓膜がガンガンと破られそうな、とても大きな怪音なのだ!

     その家の主デイヴィッド・ハウ氏はこうこぼす。

    「まったくこりゃ大問題だよ。みんな、ひどいストレスを抱えこまされてる状態だね」

     隣人の女性リジー・オークスさんも、さらにつけ加える。

    「私も何度かあのドカンドカンという音を聞いたわ。まるで工事の人夫さんたちが、シフト勤務からせっかく帰宅したのに、昼間の仕事をまた夜中遅くまで続けさせられてるみたいにね」

     さらに市役所の騒音規制調査官たちもまた、怪音の発生源を突き止めようと、その中心地点と思しき場所を通っている雨水管に狙いを定め、そこに検査用カメラを挿入して徹底的に調べたものの、何ひとつ解明できずに終わった。

     とはいえハウ氏の信じるところでは、やはり怪音の出所はどこかの建築現場で、そこで発される物音が近くを通る雨水管を伝って聞こえるのだという。

    「結論は全然見えません。望むらくは、世界のどの国のどなたでも結構ですから、ご明答をいただけないでしょうか?」

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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