西洋版コックリさん「ウィジャボード」の誕生と流行/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録
霊との交信に用いられる神秘の文字盤「ウィジャボード」。19世紀欧米の心霊ブームを機に普及したスピリチュアル・アイテムだが、商品としての大ヒットの仕掛け人は、意外な業界の人物だった。
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
不思議なことが身近にありすぎると、それは風景となる。なにが超日常の現象なのか。それは、あなた次第。
30年くらい前、恋人との喧嘩に悩んでいる女友達がいた。その頃、高円寺に住んでいた彼女は、恋人との大喧嘩が絶えず、裸足のまま家を飛び出ることも何度かあったそうだ。そんな彼女が切々と僕にその憤りを訴えるのであった。
「この間もね、手が出そうになって、私泣きながら部屋を飛び出たのね、でね」
「大変だねぇ。可愛想に」
「裸足だよ。でね、近所の友達のマンションに駆け込もうと思って、友達の部屋の扉を叩いたのよ。ガンガンガンって、でね」
「うんうん」
「そうしたら扉が開いて出て来たのが友達じゃなかったの。森本レオが出て来たのね」
「えっ、森本レオさんが!?」
「私部屋を間違えたのよ。その部屋森本レオが住んでいたのね。ま、それはどうでもいいんだけど。でね、私は友達の部屋に駆け込んだわけ、でね、ね、聞いて」
と彼女は恋人との喧嘩について語り続けた。でも、僕の頭の中はもう「友達じゃなくて森本レオが出て来た」とのインパクト・フレーズでいっぱいになってしまって、申し訳無いが喧嘩エピソードの方がさっぱり入ってこなくなってしまったものである。
彼女にしてみれば森本レオの不意の登場よりも、恋人との喧嘩騒動の方を聞かせたいに決まっている。でも、“裸足で飛び出した高円寺で友達ではなく森本レオさんに遭遇した”という珍事はなんともいえぬ味わいがあるし、トークとして大いにそこは広げるべきポイントではないのか?と思ったんだけど、彼女はその後レオさんについては一言も触れないのであった。
僕としてもさすがに「いやそれよりレオさんなんだけどさ」と言う訳にも言かず、気付けばあれから30年の時が経った。女友達とも疎遠になってしまった。
『ちゃんと痴話喧嘩の話聞いてあげればよかったな』と思う反面、でも今でも『森本レオさんの話はスルーするとこじゃないよなぁ。そこもっと広げようぜ』とも思うのだ。人によって各自それぞれ、体験した出来事の重要なポイントとは異なるものなのだなと感じる。人生いろいろである。
友人にいわゆる宗教二世がいる(統一教会ではない)。親御さんが熱心な信者で、ものごころついた頃から信仰はごく日常のことであったとのこと。彼も熱心で、毎日祈りは欠かさないそうだ。
その彼はオカルトの話が大嫌いだ。先日も僕が「エクソシストについてwebムーに原稿を書いた」と話したところ「そんな話まるで興味が無いね」と小バカにする。
「バカバカしいよ」
「え、でも君の信じる宗教だって、奇跡とか神秘体験とかあるんだろう?オカルトじゃん、そういうの信じないの?」
「信じるも信じないも、普通にあることだから」
「普通に?」
「そう、親父から邪霊に取り憑かれた人をみんなで囲んで説き伏せた話とか子供の頃からよく聞いているからね」
「えっ、エクソシスト!?」
「そういうことは日常、普通のことだから今さらオカルトだとか思ってないよ。スルーだね。それより、間違った対象を信じるとよくないんだなって事の方が重要なポイントなんだよ」
30年ぶりの森本レオ!……と僕は思ったのである。いやそこ広げようよ、十分オカルト事例だし、レオさんの話同様に、スルーしないで広げてほしいとこ、と思ったのだ。
「あ~、そうだよね…えと、ちなみに、お父様たちはどんな邪霊を相手になさったの?」
レオさんスルー事件から30年の時が過ぎていた。やんわりと核心を聞き出す、という知恵が僕にもついていた。彼の信仰心を刺激せず、あくまで余談として、『ちなみに、聞いてみたいかもな~』くらいのニュアンスでもって、僕は、僕が最も重要と思えるポイントを彼に尋ねたわけだ。
「お父様の話ってことは、昭和かなぁ」
「昭和だよ。で、信仰っていうのはさぁ……」
「ああ、あの。お父様、熱心な信者だったんだね。お祓いもなさるなんてスゴいね」
「お祓い…とちょっと違うかなぁ」
「あ、説き伏せるってことか。それどんな感じなのかなぁ」
「う~ん…うちのところは昭和の昔はぶっちゃけ勧誘も活動的にやってたんだけど、逆にそれに反発する人も多くて、中には蛇や狐やイタチを信仰する人がわざわざ訪ねて来ることもあったんだって。その人たちを説き伏せようとすると、その人たちは信じている獣の動きを始めるんだって。蛇を信仰している人は突然体をグネグネねじらせながら床の上をはい回るし、狐を信仰している人は正座したままピョーンピョーンとすごい高さに飛び上がるので、ジャンプしないように親父たちが数人がかりで押さえつけたそうだよ」
座ったまま飛び上がる空中浮遊は写真や動画で見たことがあるが、あれは結跏趺坐からのバネを効かせての動作だった。正座の状態からそれをやるとは狐つきはやっぱりスゴい。
「あとイタチ信仰の人は四国からやって来て、名乗るんだって『アタイは〇〇山のイタチだい!』って」
イタチだい!ちょっとそれカワいい気もする。
「そういう人たちを経を読んで説き伏せてうちらの団体に入信させるっていうのを、親父の世代は昭和の昔によくやっていたと子供の頃によく聞いたよ」
「今はないの?」と尋ねると、友人は「今は聞かないなぁ」とのこと。
今月号(2022年12月号)のムーを読んだところ、「悪魔憑きに代表されるような憑依現象」に関して、「NMDA受容体」と呼ばれる脳機能の機能低下が原因で発生しているのではとする研究が進められているそうだ。あるいは「〇〇山のイタチだい!」も、NMDA受容体異常による症状であったのかもしれない。
しかし、それがなぜ読経で治るというのか? なぜ昭和の頃は多くいたのに、少なくとも彼のいる団体には現れなくなったのか? 説明が尽かない。不思議だ。
「でもとにかく、そういうことは普通にあることだから、オレはオカルトなんて今さら不思議だとも思わないし興味も無いよ。問題は間違った対象を信じるとよくないってこと。ポイントはそこなんだよ」
人生いろいろだ。出来事の重要ポイントも人それぞれなのだ。でも…やっぱり森本レオさんと〇山のイタチだい!のエピソードは、そこは広げるとこじゃないかな~、と僕は思うのだが。
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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