『まちカドまぞく』伊藤いづもワールドの神話観と神々、そしてオカルト愛
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江戸時代、謎の怪獣は島国ニッポンを取り囲む海からも続々と上陸していたのだ。各地で目撃された、海棲怪奇生物の正体とは?
現在でも森林面積が国土の7割を占める日本列島では、深い山にすむ異獣、怪獣たちが人間と遭遇する事例が多数発生していたらしいことはこれまでの「大江戸怪獣録」でも紹介した。しかし、山よりもさらに広くて深いのが海。江戸時代、山の獣に勝るとも劣らない奇妙な海棲怪獣たちが、各地で目撃されていたようだ。
今回はそんな海の怪獣録。まずはこちらから。

右端に名前が書かれている通り、これはコロナ禍のなか一躍有名になったいわゆる予言獣の一種、「神社姫」の図だ。
その全長は5メートルばかり、文政2年(1819)4月に肥前国(現在の佐賀県)の浜に出現し、「この先7年は豊年だが、その後コロリという病が流行る」と予言し、自分の姿をみたものは助かると告げたといわれる怪獣で、その姿を描いた図版も現在数種類が知られている。
この図のおもしろいのは、他では角とされている頭部の突起が「耳」と表現されていることだ。「耳三尺」とあるからこれだけで1メートル近かったようだが、耳だと思うとずいぶんイメージがかわいらしくなってくる。「手三尺六寸」とも書かれているが、どれが手なのだろう。パーツの捉え方が特徴的な人物が模写したものなのかもしれない。
続いて、予言こそしていないが同様に浜辺にあがってきた巨大怪獣がこちら。

ビジュアルの強烈なインパクトのわりに名前もつけられていないのだが、紀州熊野浦(紀伊半島)にたびたび出現して人々を怖がらせたという怪物で、全長は3メートル強、鳴き声は猿のようだったという。明和9年(1772)に浜に現れたところを村人たちに打ち殺されたそうだが、怖かったという他に特に悪事を働いたような記録もなく、それだけの理由で殺されたのだとしたら少しかわいそうな気もする。
獣ではないが、大きさでは引けを取らないのがこの魚。

『査魚志(まんぼうし)』という書物に描かれたマンボウの図である。大の男が4人、マンボウの腹部にまで入り込んで解体を進めている漁の場面だ。内臓を取り出しているようだが、マンボウの腸は現在でも食べられている珍味。実物がここまで巨大に成長するのかは疑問だが、色も鮮やかで臨場感があり、こんなこともあったのかな……と信じてしまうリアリティがある。
現在にくらべて動物分類の境界があいまいだった時代には、魚とも獣ともつかない謎生物の目撃情報も多かったのだが、こちらもずいぶん謎めいた一枚だ。

「あもしつべい之図」と題されたそこに描かれているのは、全身に毛の生えた魚らしきモノ。頭部にはタテガミのようなものもあるが、文には「あもしつべい」は松前地方(北海道の南端部)でたくさん獲れるもので、その毛皮は江戸で布団の表にする、といったことが書かれている。
となれば、これは実在する生き物ということになる。Google検索では何の情報もでてこないこの名前だが、あれこれと調べてみたところ、「あもしつべい」とはオットセイの子どもを指すことばであることがわかった。そう思ってみると、ヒレ状になった足(2本多いが)、口部の細かい牙、毛皮の様子などたしかにオットセイと一致する。
オットセイの実物をみることの難しかった地域では「魚のような獣」をイメージするのもたいへんだったらしく、中国ではオットセイが下のような姿に描かれたこともあった。江戸の人たちとっても、「あもしつべい」はまさに得体の知れない謎の怪獣だったのだろう。

そして最後に、こればかりは何が何だか全くかわからない、謎の塊のような怪獣をご紹介したい。
天保4年(1833)6月11日、ジャカルタから長崎に入港したオランダ船に乗っていたというもので、その名は「ヌルテケレナスシンベ」という。

このオランダ船には、他にも2寸(6cm)くらいの鹿、熊のような黒毛の猿、ヤマネコ、ジャコウネコなどが乗っていたそうで、いずれもなかなかの珍獣ぞろいだが(2寸の鹿もかなり気になる)、それらとくらべてもヌルテケレナスシンベの意味不明さは群を抜いている。
そこに描かれた絵をみても、羊のような丸まった角に、口元には鋭い牙のようなものが覗き、前足には毛だらけの4本指、そして極め付けに尻尾と思しき部分にはギョロリとした目玉までついている。
他の動物と列記されている以上これも生物であることは間違いないのだろうが、一体、どこに生息する、なにに属する種類なのだろう。背中の模様はウロコをあらわしているようでもあり、哺乳類なのかどうかすら不明だ。
そもそも「ヌルテケレナスシンベ」はオランダ語なのか、それともジャカルタの現地語なのか……。ほうぼう調べてみたものの、こればかりは手がかりらしい手がかりにもたどり着けなかった。もし何か情報をご存知のかたがいたら、ぜひご教示いただきたい。
図版出典一覧
『楓軒年録』(国立国会図書館デジタルコレクション)
『連城叢書』(国立国会図書館デジタルコレクション)
『査魚志』(国立公文書館デジタルアーカイブ )
『魚鳥写生図』(国立国会図書館デジタルコレクション)
『本草綱目』(国立国会図書館デジタルコレクション)
『天保雑記』(国立公文書館デジタルアーカイブ)
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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