ニホンアマガエルの腸内細菌でがん細胞が消えた! 爬虫類・両生類・昆虫がもたらす夢の新薬開発最前線

文=久野友萬

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    昨年12月、ガンの治療薬につながるかもしれないビッグニュースが流れた――。実現すれば、多くの人の命を救う朗報となる。さっそく詳細について解説しよう!

    たった一度でガン細胞が消滅!?

     日本産のアマガエルから、ガン細胞を死滅させる腸内細菌が見つかった。北陸先端科学技術大学院大学の都英次郎教授らの研究で、ニホンアマガエルの腸内から採取した細菌「Ewingella americana」がマウスの悪性腫瘍をたった1回の投与で消滅させたことが確認されたのだ。

     細菌を使ってガン治療を行う研究は、現在ホットな新技術として各国で研究が進んでいる。特に腸内細菌叢は単に消化と代謝に関わるだけではなく、高度な免疫システムの調節を行うことがわかっている。

     哺乳類に比べて、爬虫類や両生類は極めて強力な免疫システムを持っている。とりわけ両生類の免疫は頑丈で、ほとんど腫瘍ができない。彼らは非常にガンになりにくいのだ。そこで、ニホンアマガエルとニホンイモリ、ニホンオオトカゲの腸内細菌45株を分離し、抗がん作用を引き出す菌を特定した。それが、二ホンアマガエルの腸内細菌のひとつ「Ewingella americana」だ。

    実験手順のイメージ。両生類と爬虫類の腸内から菌を取り出し、種類別に分離、培養したところ、二ホンアマガエルから著しい抗腫瘍効果のある細菌が見つかった。

     人工的に大腸ガンにさせたマウスにこの菌を静脈注射したところ、たった一度で腫瘍がすべて消えてしまった。これほど強い抗腫瘍効果の抗がん剤は前代未聞。アマガエル恐るべしである。

     この菌は腫瘍そのものを攻撃し、ガン細胞を破壊する。また体の免疫系を刺激し、免疫細胞をガン細胞に呼び集め、免疫反応を促進。ガン細胞が自死するように誘導するという。

     まだマウスでの実験段階だが、この驚異的な治癒効果が製薬化すればガン治療の歴史が変わるほどの大発見だ。大いに期待したい。

    他にもある両生類や爬虫類からの創薬

     生き物から薬を作るといえば漢方のイメージが強いが、実は一般医薬品の分野でも生物由来の薬品は多い。

     アメリカドクトカゲは唾液に毒が含まれている。この毒が「エキセナチド」(商品名:バイエッタ、ビュードリオンなど)という糖尿病治療薬として使われている。GLP-1というホルモンを制御する糖尿病薬が最近はダイエットにも使われているが、あの正体はトカゲの唾液なのだ(ただしGLP-1作動薬は他にもいろいろある)。

     ほかにも、一部の毒蛇に噛まれたら血が止まらなくなるが、これを逆手に利用して抗血栓薬が作られている。毒蛇の毒で血栓が作られないように防止するわけだ。

    アイゾメヤドクガエル 画像は「Wikipedia」より引用

     そして世界最強クラスの毒をもつカエル、ヤドクカエルから作られる鎮痛剤エピバチジンは、モルヒネの数百倍という鎮痛作用をもちながら依存性が低いため、ガンの鎮痛剤として研究されている。

     また、カエルやサンショウウオの皮膚からはケガの治りを早くするペプチド(アミノ酸が組み合わさった物質)が見つかり、実用化に向けた研究が進んでいる。肌が剥き出しなのにケガをしないし元気なのは、表面が特殊なペプチドで覆われているからで、このペプチドがすぐに傷を治してしまうし殺菌もするのだ。

     さらに、コンゴツメガエルの皮膚からは抗菌ペプチド、ヒメノキリン-1B(H1B)が分離され、肺がん治療薬として粉末にして吸引するタイプがすでに実用化している。

    カブトムシから薬

     昆虫たちも人間からすれば異常に頑丈だ。土の中にいてもまったく病気にならないし、足がもげても平気で動く。

     カブトムシは非常に強い抗菌作用を持つペプチド(カブトムシディフェンシンと名付けられた)を分泌していて、哺乳類にも毒性がなく、抗菌作用があることがわかった。現在はこのペプチドから薬品を作る研究が進んでいる。

    繭を作るカイコ 画像は「Wikipedia」より引用

     カイコなど遺伝子組み換え物質を量産する“工場”として利用される昆虫もいて、群馬県蚕糸技術センターでは製薬会社とともに遺伝子組換えカイコを使ったヒト型フィブリノゲンやワクチン生産を10万匹単位で行うプラントを運用している。このセンターでは蛍光タンパク質の遺伝子を組み込んだカイコも飼育していて、光るシルクの実用化に取り組んでいる。これができると、ブラックライトで光る服が売り出される。

     昨年末には京都大学の近藤祥司らが老化細胞除去(「セノリシス」という)の新しい技術を発表した。老化のメカニズムに関する最近の研究では、老化細胞がサイトカインという炎症物質を出し、そのために健康な細胞も傷つくことで老化がさらに進行すると考えられている。老化細胞を除去できれば、理屈上、その時点で老化は止まるわけだ。近藤らは老化細胞を自死に誘導することに成功した。

     かつては製薬大国だった日本も、バブル崩壊後は欧米に押されて見る影もない。こうした新発見を大切に育て、日本を新たに成長させる原動力にしてほしい。日本のアマガエルが世界のガン患者を救うなんて、痛快ではないか。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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