亡き楽聖たちの霊を降ろして新曲を奏でた! 音楽霊媒ローズマリー・ブラウンの霊界交流
ローズマリー・ブラウンといえば偉大な作曲家たちの霊が彼女のもとを訪れ楽曲を授けていった、著名な音楽霊媒である! 音楽史上最大のミステリーともいえる、音楽家の霊による新曲 とはいかなるものだったのだろう
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音楽を逆再生したら、悪魔崇拝のメッセージが明らかになった!? 悪魔のレコードや不穏な噂の背景には、ロックそのものが孕む社会とのかかわりがあった。
前回は保守系団体などから「悪魔主義的」と攻撃されてきた代表的な欧米のロック、ポップスのレコードを紹介した。前編で取りあげた事例は主に「歌詞がサタニックである」といった批判を受けた作品だったが、今回はそうした解釈の問題ではなく、もう少し具体的というか、ケースによってはかなり明確に立証可能な形で、いわゆる「悪魔崇拝のメッセージ」が隠されている!……と糾弾されたレコードについて語ってみたい。
この方向からの批判も主にアメリカのキリスト教団体が盛んに主張してきたもので、80年代には全米で社会問題化した。各地で公聴会が開催され、何度も裁判沙汰になり、ときには暴動や血なまぐさい事件を巻き起こしてきた歴史がある。
70年代初頭あたりから「悪魔のレコード」の噂についてまわるようになったのが、一般に「バックマスキング」といわれる技法だ。「backmasking=逆さまにして隠す」というのは一種の暗号作成技術であり、録音物などに応用する場合は「逆再生しなければ聞き取れない秘密のメッセージを仕込む」という意味合いになる。つまり、レコードを通常の形で再生させると聞こえてくるありきたりなラブソングの歌詞の一節が、「逆回転」で聴くと「サタンに忠誠を誓え!」といった「悪魔崇拝のメッセージ」に変化する、というものだ。
アメリカのキリスト教団体は、特に80年代以降、多くのロックバンドが「バックマスキング」を応用して若者たちをサタニズムに誘っていると主張しており、この「さかしま」に語られたメッセージは通常の再生で聴く限りは把握できないのだが、一種の「サブリミナル効果」を発揮する「暗示」としてリスナーの潜在意識を「汚染」し、サタニストに「洗脳」してしまう!……としている。
いくらなんでも荒唐無稽な話だし、そもそも視覚的なメディアにおいても、一昔前はもっともらしく語られた「サブリミナル効果」自体が、現在ではかなり疑似科学に近いものだという説もある。ひっくり返した言葉を聞かせただけで他者を「洗脳」できるのであれば、もっと深刻なさまざまな問題が起こっているだろうとも思うのだが、しかし、蒙昧な保守派の「言いがかり」と簡単に一蹴できないのは、多くのミュージシャンが意図的に「バックマスキング」を実際に行っており、また、意図的かどうかはともかく、「逆回転」させると怪しげなフレーズが聞こえるレコードは多数存在している。このことが話をややこしくしてしまい、いくつもの騒動を巻き起こしてきた。

「バックマスキング」は実験的な録音技法としてすでに1950年代から行われていたとされるが、これが最初に大きな話題となったのは、60年代後半、ビートルズをめぐる都市伝説が流布したときだった。
これに関しては同世代のロック好なら記憶していると思う。この噂は、我々世代が洋楽を聴きはじめる年頃になった80年代になっても、まだ一部でまことしやかに囁かれていた。中学生時代、クラスのビートルズ・マニアの子たちが、一種の怪談のようなノリでこの話をしていたのを僕も覚えている。
その噂とは、「ポール・マッカートニーは1966年に死んでいる。現在は密かに入れ替わった別人が『影武者』としてポールを演じているのだ」というものだ。
彼らの「レボリューション9」「ストベリーフィールズ」「アイム・ソー・タイアド」などの曲を逆再生すると「ポールが死んだ」「僕はポールを埋葬した」といったフレーズが聞こえるという主張が注目を集め、さらにはアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケを鏡に映して反転させると、「11月9日に彼は死ぬ」という文字が浮かび上がるなどとされていた。また、『アビイ・ロード』のジャケ写はポールの葬列を暗示しているといわれ、69年前後には多くのメディアでまことしやかに取りあげられて大騒動に発展してしまった。
ことの発端は、アメリカの大学生が大学新聞に執筆した記事だった。ビートルズがここ数年に発表した楽曲には、「ポールが死んだ」ということを示す証拠が無数にあるという見解を披露したもので、これが思いのほか人々の好奇心を刺激したようだ。若者向けのラジオ番組などで特集され、やがては一般紙などでも大々的に取り上げられるようになった。ビートルズ側はもちろん再三にわたって噂を否定したが、騒ぎは拡大し続け、世界中に流布するまでになってしまったわけだ。
この騒動の要因は複数あると思うが、60年代後半のビートルズがライブ活動をやめ、スタジオに引きこもってレコード制作のみに専念したことも大きな原因だったのだろう。メディアにもあまり露出せず、ある意味では秘密めいた存在になってしまっていた。ファンは発表される楽曲のみで彼らの活動を知るわけだが、その楽曲も実験的なものが多くなり、ミュージック・コンクレート(音のコラージュ)のスタイルを採用した「レボリューション9」などに顕著なように、かなり不気味で不穏な印象を与えるものも多かった。当時の彼らの周辺には、ネガティブな都市伝説を生みだす条件がたっぷりと揃っていたのだと思う。

ビートルズのケースは「悪魔崇拝」とはなんの関係もないが、この騒動によって「バックマスキング」という手法がロックをまったく聴かない層にも知れ渡ることとなり、「多くのロックバンドは“ヤバいメッセージ”を逆さまにして楽曲に仕込んでいるのだ!」という批判が、ロック排斥勢力の側で常套化してしまったということはあると思う。
「ポール死亡説」以降、逆再生すると聞こえるインモラルなメッセージを曲に隠したとして攻撃されたバンドは、ストーンズ、ピンク・フロイド、エリック・クラプトン、AC/DCをはじめとした数多くのハードロック、ヘビメタバンド、そしてブリトニー・スピアーズなどまで、それこそ枚挙に暇がない。その多くが「悪魔崇拝」を奨励しているといわれてきた。
なかでも大きな騒動に発展した事例が、レッド・ツェッペリンの泣く子も黙る代表曲「天国への階段」だ。
1982年ごろ、アメリカの多くの識者(牧師やキリスト教系ラジオのDJ、神経科学者、社会心理学者など)によってこの曲がやり玉にあげられ、逆再生すると「俺は悪魔に忠誠を誓う」「我が愛しき悪魔」「サタンに乾杯」といった「悪魔崇拝のメッセージ」が聞き取れるといった主張がなされた。この曲の危険性に関する公聴会が各地で行われ、大規模な「レコード破壊イベント」なども開催されるようになってしまう。さらにノースキャロライナ州では、牧師が30人のティーンエイジャーを引き連れてレコード店を焼き討ちしたともいわれている(これは襲撃ではなく、教会における「レコード焼却大会」だったとの説もあり、情報が錯綜していて真偽不明)。
バンド側はもちろんこれらの批判を「言いがかり」として否定したが、意図的かどうかは断定できないものの、逆再生で聞こえるとされたメッセージは、公の場でも「確かにそのように聞こえる」と確認されたといわれている。単なるパレイドリア(無意味な音を言葉に変換して認知する一種の錯覚)なのかも知れないが、そもそもジミー・ペイジは生粋のアレイスター・クロウリー信望者として世界中に知れ渡っているわけで、真相はともかくとして、なんとも部の悪い論争に巻き込まれてしまったものである。

そして1985年、さらに決定的な事件が起こってしまう。ネバタ州で18歳と20歳の少年がジューダス・プリースト(「PMRC」のほか、多くの保守系団体に目の敵にされてきたブラックリスト常連のヘビメタバンド)の「ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー」という曲を聴いているとき、突然、一種の狂乱状態に陥り、「やっちまえ! やっちまえ!」と叫び出して自分たちがいた部屋を徹底的に破壊しはじめた。そしてショットガンを手に近所の教会へ向かう。教会へ到着すると一人は自分の顔に向けてショットガンを発砲。それを見ていたもう一人も同様の凶行をしでかす。一人は即死、もう一人は顔面を激しく損傷したが、命は取りとめた。
この事件は全米を震撼させる大きなニュースとなったが、5年後に被害者の両親がバンドとレコード会社を相手取り、訴訟を起こす。「ベター・バイ・ユー、ベター・ザン・ミー」には「バックマスキング」で「やっちまえ!(just do it!)」というフレーズが仕込まれており、これは「サブリミナル効果」を利用した「自殺教唆」だ、と主張したのだ。裁判で両親は敗訴する。しかし、「just do it!」が逆回転で曲に隠されていることは裁判所でも認められたという(それを自殺の直接原因とするには証拠不十分とされた)。
この痛ましい「惨事」は、当時のアメリカを象徴するできごとだった。事件そのものより、その「解釈」のされ方が80年代のアメリカの空気をよく表していたのだと思う。
アメリカでは80年代初頭から、「サタニックパニック」(悪魔崇拝をめぐる集団ヒステリー的社会現象)と呼ばれる大規模なムーブメントが巻き起こっていた。その経緯についてはいずれあらためて書いてみたいが、キリスト教関係者と保守系政治家に連なる識者たちが結託して作り出したこの大きなうねりは、いわゆるカウンターカルチャーと、その延長上にある若者文化全体を標的にした広範な文化排斥運動、価値転倒運動であり、ポップスやロックのみならず、ホラー映画、ポルノ映画などへの攻撃のほか、各家庭や教育の問題にまで及んだ。主に60~70年代に培われた「自由」(排斥側から見れば「不道徳」)を標榜するあらゆる表現と、それに慣れ親しんできた社会全体に対する過激なキリスト教的「浄化」運動だったとも言える。「just do it!!」事件は、まさにこの運動の流れのなかで起こっている。
昨今、「信じがたい変貌を遂げてしまった」といったトーンで、かつて「自由の国」と呼ばれたアメリカの現状が報道されることが多くなったが、すでに四十数年前から大きな「モードチェンジ」がダイナミックに行われていたということなのだろう。

一説によれば、「バックマスキング」の発案者はアレイスター・クロウリーだといわれている。彼は1913年の著書のなかで、魔術師がサタニックなパワーを得るためのトレーニングとして、「逆に考え、逆に話し、逆に読み、レコードは逆回転で聴け!」といったことを推奨していたという。ジミー・ペイジを筆頭に、これに多大な影響を受けたミュージシャンが無数にいるのは確かだ。特にフラワー・ムーブメント以降、ロックは古今東西のオカルティズムの領域で手当たり次第にアイデアを漁り続けてきた。
そもそもロック・ミュージックの源流となったデルタブルースの異能者、ロバート・ジョンソンは、真夜中のクロスロード(十字路)で「悪魔」と「契約」し、人間業とは思えぬ不可解なギターテクニックを手に入れた、と伝承されている。彼の演奏を長年研究してきたジミー・ペイジやキース・リチャーズが「奏法が解析できない。二人で弾かなければ出せない音を一人で出している」などと語る謎の技術を謎のままにして、27歳で毒殺とも噂される形で夭折した。こうした伝説というか、ほとんど神話となったロマンチックな歴史(?)の上にロックは成立している。
つまり、ロック・ミュージックは、その誕生の瞬間から確かに「悪魔の音楽」だった。しかし、それはあくまで反逆と破壊のサタニックな幻想に闇雲に憧れる子どもたちの「ロマン」(信仰といってもいいが)を前提とした上での話である。現在、かつてのカウンターカルチャー的な機能を継承するロックの市場はアメリカ本国でも急速に縮小し、若い世代への求心力をほぼ失っているように見える。こうした事態が、少なくとも戦後の数十年間は無数の子どもたちの衝動と欲望に応えてきたロックの「耐用年数」の問題によるものなのか、それとも半世紀近くに渡って「悪魔」と戦い続けてきた清く正しい「エクソシスト」たちがついに勝利した結果なのか、僕にはどうもよくわからないのである。

初見健一
昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。
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