『地獄先生ぬ~べ~』真倉翔&岡野剛インタビュー 鬼の手のデザインとお色気シーンの制作秘話とは?

文=山内貴範 協力=真倉翔、岡野剛、集英社

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    1990年代に『地獄先生ぬ~べ~』で大ヒットを飛ばした“鬼漫画”の先駆者であり、現在も、最強ジャンプで第3シーズン『地獄先生ぬ~べ~S』を連載中! 原作者・真倉翔先生と作画担当の岡野剛先生へのインタビュー、後編です。

    前編から続く

    現実にありそうな恐怖と怪奇を絵にする

    ――私は小学生の頃、『ぬ~べ~』に出てくる妖怪のリアルな描写が衝撃的で、怖くて眠れなくなり、トラウマになりました。同様に感じた子どもは少なくないと思います。印象深い絵(場面)を生み出すために、岡野先生が心掛けていることはありますか?
    岡野:まず、妖怪にしても、UMAにしても、現実にいてもおかしくない絵を目指しています。僕がそう考えるようになったのは、子どもの頃に読んだ“口裂け女”の漫画がきっかけなんですよ。ハラハラしながら読んでいたのに、肝心の口裂け女が出てきたら、ぜんぜん怖くなかったんです。
    ――どうしてですか?
    岡野:口裂け女の“歯”が、サメの“キバ”みたいにギザギザに描かれていたんですよ。これは変だと思って一気に冷めたんです。口裂け女は、整形手術の失敗で口が裂けたという設定がありますから、“人間の歯”じゃないとおかしいですよね?
    ――『ぬ~べ~』にも口裂け女が出てきますが、岡野先生がおっしゃるように、歯の描き方は人間そのものですね。
    岡野:人間の歯を観察して、さらに口角の裂け目なども徹底的にリアルに描きました。口裂け女のほかにも“人食いモナリザ”など、元が人間という設定の妖怪は歯にこだわっています。人間っぽく描くからこそ現実味があって、怖いんですよ。

    岡野剛氏が、「子どもの頃の自分を怖がらせるつもりで描いた」という口裂け女。リアリティを出すべく実際の歯を観察して描いたという、渾身の表現だ。「#31 恐怖の口裂け女の巻」より。

    ――なるほど! 読者がインパクトを感じたのはそのせいかもしれませんね。
    岡野:単なる自己満足だろうと思っていたら、諌山創先生が、「『進撃の巨人』に出てくる巨人のデザインは、人食いモナリザが人間の歯で人間を喰う様子から影響を受けた」と話していて、やった! 通じた! と感激しました。口裂け女って、僕が小学6年生の頃に学校がパニックになるくらい噂になったんですよ。僕は電車通学だったから、1人で駅まで行くのが怖かった。『ぬ~べ~』の妖怪は、当時の自分と同じくらいの年齢の子を怖がらせようと思って、描いています。

    鬼の手はエイリアン由来!?

    ――登場する妖怪のデザインにも、岡野先生流のアレンジが加えられていることがわかります。例えば、ぬ~べ~が左手に封印した覇鬼(ばき)や、必殺武器である“鬼の手”の造形も、鬼というよりも悪魔や爬虫類的なモンスターみたいというか、一般的な鬼のイメージと異なっています。
    真倉:鬼の手なんですが、虎に近い、獣の手のイメージで岡野先生に伝えたんです。そしたら、ぜんぜん違うものが上がってきた(笑)。
    岡野:そもそも鬼の手なんて見たことがないので、ぜんぜんイメージがわかないんですよ。そこで、映画『エイリアン』のデザインにかかわったH・R・ギーガーの『ネクロノミコン』という画集を参考に、エイリアン風に描いたら、気持ち悪さとカッコよさが一体になった独特のデザインができたんです。
    真倉:私は一目見て、「あ、これはギーガーだ!」とわかったよ(笑)。

    一般的な鬼のイメージとは異なり、ぬ~べ~が右手に封印した覇鬼は身体に筋があらわれた異形のデザインだ。「#103 鬼の手の秘密(後編)の巻」より。

    ――鬼の手を片手に宿す設定はどこからきたのでしょうか?
    真倉:これは漫画の『寄生獣』や『コブラ』の影響ですね。『コブラ』は主人公の片手が銃になっているなんて、斬新じゃないですか。ちなみに、はじめは、ぬ~べ~は霊能力者なので経文を使った除霊を攻撃の中心にしようと考えていました。“鬼の手”は岡野先生が戦闘シーンの作画が得意じゃないから(笑)、一発で終わらせるようにと作ったのです。そんなに使わないと思っていたんですけど、いつの間にか登場頻度が上がっちゃった。
    ――鬼の手、最強の武器だと思っていましたが、たった8話目でいきなりやられていますよね。“はたもんば”という妖怪に切り裂かれて、敗北しています。
    真倉:ホラー漫画は、被害者が酷い目に遭うバッドエンドこそが醍醐味です。少年漫画ではバッドエンドは滅多に描けないけれど、ぬ~べ~が絶対的に強かったら怖くないでしょう? もしかしたら助からないかもしれないな、というくらいのピンチはたびたび描いています。

    鬼の手は無敵ではなく、なんと連載8話目にして早くも敗北する。「#8 はたもんばの呪いの巻(後編)」より。

    ――全体から見ると少ないですが、中にはバッドエンドな話もありますよね。
    真倉:“てけてけ”という妖怪が出てくる話では、まったく誰も助かりません。完璧なバッドエンドを描くことができたので、私の中では満足度が高いですね。
    ――登場人物には、ぬ~べ~以外の霊能力者や、味方になってくれる妖怪もいます。その中には東北地方の出身者が多く、私は秋田県出身なので親近感をもっています。“霊媒師(イタコ)”の葉月いずなは秋田県、“雪女”のゆきめは岩手県の生まれです。真倉先生と岡野先生は東北出身なのかと思ったのですが、まったく違うんですね。
    真倉:怪談系の話を調べると、東北地方が舞台のものが多いんですよ。柳田國男の『遠野物語』の影響が大きいのだと思いますが、雪深い東北の方が霊や妖怪が身近なイメージがありませんか? 東北なら、家に座敷童が出そうとか、妖怪と共存してそうとか、想像できるんです。僕が愛知県出身だからなのかもしれないけれど、南の方だと陽気で明るい印象を持ってしまい、おどろおどろしさが少ないんですよね。

    セーラー服を着た女子高生の“イタコギャル”、葉月いずな。ルーズソックスやミニスカートなどのモチーフからは、90年代の流行が感じられる。「#99 イタコギャルいずな口寄せするの巻」より。

    ――縁の深い土地の取材をされたことはありますか?
    真倉:岡野先生と一緒に、青森の恐山にイタコが集まるお祭りを取材しました。イタコって、いずなみたいに女性だけだと思っていたんだけど、男性もいたことにびっくりしました。
    岡野:実際にイタコが魂を降ろすのはテントの中だったので、直接見れなかったのは残念でしたけれど。
    ――いずなはその後、スピンオフ作品(『霊媒師いずな』)も描かれたほどの人気キャラですよね。
    岡野:ちょうど『ぬ~べ~』を連載していたころ、高校を卒業したばかりの10代のイタコが本当にいたんですよ。取材のとき、その方がいるかなと思って探したけど、見当たりませんでした。今はどうしているんだろうなあ。
    真倉:あれれ? そんな女の子がいたんだ…… 覚えていないけれど、いずなはそういうニュースを見て参考にしたのかもしれないね(笑)。

    お色気シーンの必然性!

    ――いずなは妖怪との戦闘でセーラー服を破られたり、散々な目に遭いますが、『ぬ~べ~』を語るうえで欠かせないのが“お色気シーン”です。私もドキドキしながら読みました。
    真倉:自分でも、これは大丈夫かなと思う原作を書くことがあるんですが、それは思いついたアイディアを何でも入れているからですね。私自身、永井豪先生の作品が好きですし、エロを入れるのは適度な息抜きにもなるんですよ。

    眠鬼が登場する話は、『ぬ~べ~』屈指の問題回のひとつ。眠鬼はなくしたパンツを探すため、ぬ~べ~の前に登場。妖力で男子生徒をパンツに変えてしまう。女子生徒たちは、男子を救うためにパンツを履こうとするが… なお、鬼が履くパンツは霊能力者によって作られたもの、という設定がある。したがって、この話も決してお色気だけが目的ではない…はずだ。「#243 鬼の目にも涙!?の巻」より。

    岡野:ただ、ここで申し上げておきたいのは、僕たちは決していかがわしい目的でエロを描いているのではない、ということです! 真面目な話をすると、幽霊はエロが嫌いといわれています。幽霊は“陰”でエロは“陽”と、対極の関係にあるわけですから。つまり、エッチな絵には魔除けの効果も期待できるのです。
    真倉:そうそう。むしろ、“読者の安全のため”にエッチな絵を入れたと思っていただければ、嬉しいですね。
    岡野:もし、この記事の読者のみなさんが幽霊や妖怪に取り憑かれることがあったら、『ぬ~べ~』のエッチな場面を思い起こしていただければいいんじゃないでしょうか(笑)。

    眠鬼が大のお気に入りという岡野氏。見開きで描かれた、衝撃的な登場シーンを鑑賞中。

    webムー編集部

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