シャーマン師弟と風水師、葬儀師の4人が奇妙な墓に隠された秘密を掘り返す韓国映画『破墓/パミョ』監督インタビュー
話題のホラー映画「破墓/パミョ」のチャン・ジェヒョン監督にインタビュー!
記事を読む
タイでもとくに幽霊とかかわりが深いイサーン地方を舞台にしたホラー映画が公開へ。ご当地の風習を知り尽くし、「儀式と葬儀」を生々しく描いた監督へインタビュー。
タイは仏教国だが、葬式の風習や死生観は日本とは随分異なっている。一番の違いは、タイには墓地がない。火葬された遺骨は川や海に撒くか、自宅に置くか、寺に作られた“遺骨の家”と呼ばれる場所に安置してもらう。
そんなタイで、幽霊と葬式を巡るホラー映画が撮られ、異例の大ヒットを記録した。9月26日から日本でも公開されている『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』だ。
本作を製作したのは、タイ東北部のイサーン地方に本社を置く映像製作会社タイバーン・スタジオ。イサーン地方は、ラオスやカンボジアからの影響を受けつつ独自の文化を育んできた。映画は、そんなイサーン地方で起こった幽霊騒動を、今も残る不思議な風習や迷信をユーモアをまじえて描き、大きな話題を呼んだのである。
今も幽霊が普通に信じられているイサーン地方の村で、若い妊婦バイカーオが鬱病を患って自死した。以後、バイカーオの幽霊を見たという人が次々と現れたが、元カレで、今もバイカーオのことが忘れられないシアンの前には現れない。どうしてもバイカーオに会いたいシアンは、村でただ一人の葬儀屋ザックに幽体離脱の方法を教えて欲しいと頼む。体調が悪化して車椅子生活を余儀なくされたザックは、息子のジュートとともに葬儀屋を継ぐことを条件に指南を始めるが……。
映画はバイカーオの葬式から始まるが、その様子は一風変わっている。葬式をすべて執り行う葬儀屋ザックは、屋外に置かれた台の上に寝かせた遺体に何か液体を振りかけ、腹部にナイフを刺して血を滴らせた後に納棺するのだ。
本作を撮った新鋭ティティ・シーヌアン監督にズーム・インタビューを行い、映画に描かれた儀式や風習の意味を聞いた。
「イサーン地方では、事故死や自死など不慮の死を遂げた人の葬式は、家や寺ではしません。そうした遺体にはほかの魂が憑くと信じられ、村外れに作られた専用の場所で葬式を行い、棺を火葬するときまで安置します」
じつはタイの葬式は、通常火葬場を併設した寺で数日間にわたって行われ、最後の日に火葬する。バイカーオの葬式は特別なのだ。
「しかもバイカーオは、胎児とともに亡くなった。妊婦の場合、そのまま弔うと、母親は悪霊になって子どもを探し回ると信じられています。そこで、母親の遺体と子どもの遺体を別々にして火葬し、母親に心配しなくていいと伝えるのです。映画では、多くの方が鑑賞できるように腹部にナイフを刺したところで終わらせましたが、実際は胎児を取り出しすのですよ。
あと、バイカーオの遺体に振りかけたのは、ココナッツの果汁です。ココナッツは神聖なもので、その果汁は不純物が入っていない純粋な液体と考えられています。そのため、通常の葬儀でも、ココナッツの果汁で遺体をきれいにします」
さらに奇妙なことに、その後、バイカーオの親族は、遺体を火葬する場所を決める儀式を行う。その理由と意味は?
「自死した妊婦の魂はすごく不幸な魂だからです。そこで、棺を安置していた専用の場所の近くで親族が順に卵を投げ、卵が割れた場所を火葬の場とする儀式を行います。これには、その妊婦の魂に、自分を火葬する場所を決めてもらうという意味があります。こうして火葬の場所が決まったら、日時を決め、当日は組んだ薪の上に棺を置き、油をかけて火をつけます」
では、火葬後、遺骨はどうするのか? 映画ではトランスジェンダーの若者の葬式で少しだけ描かれる。
「火葬後、遺骨を長方形の台の上に並べて人の形を作ります。この段階の遺骨にはまだ魂が宿っていると信じられているからです。それで、台の四隅にココナッツの実を置き、それぞれに棒を立て、その先端部分に順に糸をかけ、台を四角で囲む。これは、その囲いの外に、きれいになった魂が出ないようにしているのです」
さて、バイカーオの幽霊に会いたいシアンは、まず、祖母から幽霊に会う3つの方法を教えてもらい、試す。それは、①首から提げたお守りを裏返して腕の下を覗く、②死者の服を着る、③黒い犬の涙を瞼に塗る、というものだったが、これは実際に伝わっているものなのだろうか?
「あれはイサーン地方だけではなく、タイ全土で広く信じられていることです。お守りを裏返すというのは、お守りをしていると幽霊が怖がって現れないと信じられているからです。だから、幽霊を見たいときは、お守りを裏返して隠すのです」
この3つの方法ではバイカーオの幽霊に会えなかったので、シアンは葬儀屋から幽体離脱の方法を伝授してもらう。幽体離脱すれば霊の世界に行けるとされているからだ。
その方法は、キンマの葉を9枚重ねて口にくわえ、線香に火をつけたら横になって意識を集中させる。離脱したら、死者を捜すことができるが、線香の香りが消えたら光を頼りに戻らねばならない。線香が燃え尽きる前に戻らないと、その世界から出られなくなるという。この幽体離脱法も、実際に伝わっているものなのだろうか?
「あれは、基本的にはタイで一般的なやり方です。しかし、地方によって伝わっている方法には若干違いがあるので、いろんなやり方をミックスしてアレンジしました。私もやってみましたが、残念ながらできませんでした。でも、私は夢をコントロールできます。夢を見ていて、途中で目が覚めても、もう一度眠るとその夢のつづきを見ることができるんです。そんな夢の記憶をもとに幽体離脱時の映像をデザインしました」
夢に関する能力は自然に身についたと話す監督だが、それだけではなかった。なんと、9歳ぐらいのころから幽霊が見えるようになったという。本作の撮影中も、たびたび女性の幽霊が見えたそうだ。しかし、ただ見えるだけで、幽霊が何かを仕掛けてくることはないという。こうした経験から生み出された幽体離脱シーンはとても神秘的で魅了される。
映画は、幽体離脱を繰り返してバイカーオを捜すシアンと、葬儀屋の息子がシアンとともにさまざまな葬式を行って成長していく様子を平行して描いていく。インタビューでは触れられなかった興味深い風習がほかにも多く映されるので、ぜひ、スクリーンで味わってほしい。(通訳:高杉美和)
ティティ・シーヌアン監督
プロフィール/1996年3月11日生まれ。タイ東北部イサーン地方の国立マハーサーラカーム大学芸術学部卒業。2015年に同じイサーン地方出身の歌手、ゴン・フワイライの「サイワーシボティムガン」のMVを監督して一躍有名になる。2024年に日本の東宝スタジオでゴジラと一緒に撮影したCocktailの「Yours Ever」のMVはYouTubeでの視聴回数が1億2000万回を超えている。映画界のキャリアは、俳優として2018年に『Thi Baan the Series2 Par2』に出演したことに始まる。2020年に『Thibaan×BNK48』の共同監督・脚本で映画監督デビューし、2023年に公開された『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』が初の単独監督作となる。同作はタイのアカデミー賞と呼ばれる映画賞・スパンナホン賞で、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞な計7部門受賞。2025年夏、『サッパルー2』(仮)の撮影が終了し、現在編集作業中。
映画『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カレだった件』公式サイト
https://motokano-yurei.jp/
関連記事
シャーマン師弟と風水師、葬儀師の4人が奇妙な墓に隠された秘密を掘り返す韓国映画『破墓/パミョ』監督インタビュー
話題のホラー映画「破墓/パミョ」のチャン・ジェヒョン監督にインタビュー!
記事を読む
20年前の少女失踪事件の真実とは!? 今も存在する「魔女狩り」を描いた映画『ナイトサイレン/呪縛』監督インタビュー
「現代の“魔女狩り”フォークホラー」と銘打った話題の映画『ナイトサイレン/呪縛』。本作に秘められた“恐怖の深層”について、スロヴァキアの新星映画監督がムーに語った!
記事を読む
霊能者も驚く霊視リアリティ! “見える人”を疑似体験できる映画「見える子ちゃん」のスゴさ
心霊が見えるようになってしまった女子高生の姿を描く映画「見える子ちゃん」。「ほん呪」「残穢」の中村監督と“2人の霊能者”のトリプルインタビューを通して、新しい”見える人”映画の裏側に迫る。
記事を読む
玄米を食べれば死者に会える!? 食にまつわるオカルト的潮流を科学する
食に関心のある人は、白い食べ物は体に悪い、砂糖は毒、無農薬じゃない野菜は食べちゃいけない、など「〇〇を食べてはいけない」という話ばかりする。しかし、よく聞いてみると、科学的な根拠に乏しい話が多いこと
記事を読む
おすすめ記事