世界の祈りと精霊と出会う場所! 特別展「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」が奈良国立博物館で開催中

文=倉本菜生

    奈良国立博物館「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」に世界各地の民俗具、信仰具が集まっている。生活、祈り、まじない……展示物から、人類の心の具体を見た。

    奈良国立博物館と天理参考館の協力企画

     奈良国立博物館開館130年・天理大学創立100周年記念となる特別展「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」が、奈良県の奈良国立博物館 東西新館にて開催中だ。会期は2025年7月26日(土)~9月23日(火・祝)。

     世界を冠したタイトルの本展では、奈良国立博物館と天理大学附属天理参考館が誇るコレクションから、約220件におよぶ選りすぐりの品々が集結。信仰や儀式にまつわる術具や、各地の民族が生み出した生活具や装飾品などを通して、人類が築いてきた歴史をたどることができる。時代も地域も異なる展示が一堂に並ぶことで、文化の広がりと深さを体感できる構成だ。

    「ムー」ではこれまでに、本展の開催概要や注目ポイントについて何度も紹介してきた。今回はついに、会場の空気をこの目で確かめるべく内覧会に潜入!

     展示物のひとつひとつに“何か”が宿っている──そんな異空間の様子をお届けしよう。

    会場入り口で「世界」から見つめ返される

     会場に足を踏み入れると、まず出迎えてくれたのは無数の“目”たち。各地で生まれた名品の「目元」だけを集めた巨大なパネルが、来場者を静かに見つめている。その視線を受け止めるようにして、“世界探検”は始まる。

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     本展のテーマは「旅」。第1章「文明の交差する世界」では、人類の誕生から、ユーラシア大陸における文明の発展、そしてシルクロードを通じた東西文化の交流、さらには日本独自の仏教美術の形成へと至る流れが紹介されている。

    会場での展示風景。ギリシア陶器などのアイテム群。
    《銀装鉄短剣》サーサーン朝時代(5世紀頃)。

     東西文明の起こりと発展を肌で感じながら進んだ先には、第1章の締めくくりとなる「ひろがる祈りの世界」が待ち構えている。

    《兜跋毘沙門天立像》日本 平安時代(12世紀)。
    《霊鳥ガルーダに乗るヴィシュヌ神像》(部分)インドネシア 20世紀。

     館内ロビーの垂れ幕ビジュアルにも使われているヴィシュヌ神像は、霊鳥ガルーダの表情がなんともユニーク。間近で見ると、そのキャッチーな造形に思わず目を離せなくなる。

    会場入り口を飾るのは、左に《霊鳥ガルーダに乗るヴィシュヌ神像》と、右に《儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ》。
    《二十八部衆立像のうち迦楼羅王》(部分)日本 鎌倉時代(13世紀)。迦楼羅は霊鳥ガルーダに由来する。

    “神々と呪物”の世界へ

     第2章「神々と摩訶不思議な世界」では、ムー民お待ちかねの精霊仮面や儀礼用仮面がずらり! 開催前から注目していた我々取材班も、思わず「おっきい……」と息を飲むほど圧巻のスケールだ。

    会場での展示風景。

     まるで“霊界の住人たち”と対峙しているかのような存在感をもつ、ニューギニアの仮面たち。ーーその姿は、神話に登場する英雄や精霊、死者や祖霊など、超自然的存在を表現している。用途や素材、形も実にさまざまで、舞踏の際に使用するものから、家や儀礼小屋に飾るものまで多岐にわたる。

    《精霊仮面 鳥の霊》パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀中頃。
    《精霊仮面「コヴァヴェ」》パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀前半。

     コヴァヴェは山に棲む精霊で、豚の霊魂を食べて生きると伝えられている。仮面は民族内の「男子秘密結社」で密かに作られ、男子の通過儀礼の際に着用されるそうだ。

    《儀礼用仮面「マイ」》パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀中頃。
    《儀礼用仮面「マイ」》パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀中頃。

     中でも注目したいのが、開催前にも紹介してきた儀礼用仮面「マイ」。コヴァヴェと同じく通過儀礼で用いられる特別な仮面で、今回の特別展では2種類の「マイ」が展示されている。表面には貝殻がびっしりと敷き詰められていて、横から覗くと立体感や細かな装飾の美しさがよりはっきりと感じられる。

     こうした仮面は村の外に持ち出されること自体が稀なため、間近で見られる貴重な機会だ。

     さらにさらに、ニューギニアの精神世界に圧倒されながら進んだ先には、バリ島の儀礼劇チャロナランの仮面や、ジャワ島の影絵芝居が登場する。

    会場での展示風景。左が《儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ》(部分)、右が《儀礼劇チャロナランの仮面 聖獣バロン・ケケット》(部分)。
    会場での展示風景。実際に幕に映し出され、精霊たちの物語を味わえる。

     筆者が注目したのが、台湾原住民族のシャーマンが使う呪具たち。2024年時点で約61万人、政府認定のグループは16と、生きた存在である彼ら。アニミズム的な信仰をもち、神や祖霊などの霊的存在と交流するシャーマンの存在が現在でも確認されている。

    《シャーマンの呪具 呪薬入れ「タトブック」》台湾東部 20世紀前半。
    左:《呪具収納箱》台湾東部 20世紀前半。右:《呪具収納箱「カネポチ」》台湾南部 20世紀前半。

     呪具収納箱「カネポチ」には、小刀や豚の骨、ムクロジの種子、鉄片、糸などが収められる。これらの道具は病気の治療や卜占、悪霊退散といった呪術に用いられてきた。
     台湾原住民のシャーマンの役割は幅広く、呪医として病を癒やす以外にも、祖霊への祭祀や災厄の駆除、吉凶の判断など、暮らしの中のさまざまな場面に関わってきたという。

    《シャーマンの装束 頭巾》台湾東部 20世紀後半。アミ族のシャーマン「シカワサイ」が身につけた。病気治療のための呪術的儀礼で使用される。

     そして第2章の終わりを飾るのは、古代エジプトの死後の世界。神々の像や副葬品に囲まれるように木棺が横たわる光景は、まるで厳かな墓所のよう。

    会場での展示風景。
    《ミイラ包み 頭飾》ペルー南海岸 ワリ文化(7~11世紀)。

     この幅広さはまさに「世界」である。

    忘れられそうな文明の記憶

     悠久の旅の果てにたどり着くのは、第3章「追憶の20世紀」。ここでは、北米、エジプト、中国の地域色豊かな文化が紹介され、近現代まで人々の暮らしの中で用いられてきた生活道具や装飾品が展示されている。

    《戦士の栄誉礼冠》(部分)カナダ 20世紀中頃。
    《バタフライ・ダンス用頭飾》アメリカ 20世紀。
    会場の展示風景。 20世紀に北京の商業地域を彩った看板たち。扱う商品や業種が見てわかるデザインと、目立つことを競うようなデザインだ。これを集めておこうと思ったことがすごい。

    グッズも記念写真も“探検”気分

     何度でも足を運びたくなる今回の特別展。初回は気軽にふらっと、二回目はキャプションをじっくり読み込みながら。そして三回目は図録を片手に、より深く。展示フロアから出たあとにはきっと、自分だけの“世界探検”をもう一度始めたくなるはずだ。

     なお、今回の特別展開催に際し、ワークシートミッションも実施されている。作品解説を手がかりに解き進んでいき、出口で参加賞をもらおう。何がもらえるかは、解いてみてからのお楽しみだ。

    ワークシートは展示会場入口で配布されている。

     展示を見終わったあとも、グッズにプリクラとお楽しみは盛りだくさん。グッズ売り場では、ぜひムーのコラボ商品を手に取ってみてほしい。

    鎮墓獣クッション。「ムーならコレクション」としてコラボグッズが会場で発売中。
    特設のフォトブースもある! 印刷写真1枚とスマホの画像ダウンロードQRコード付き。

     展示物たちと撮影ができるプリクラは1回1000円。取材班も記念に撮影してみた。

    デザインの一種。センターの「マイ」の隙間に入り込む形でうまいことおさまって撮影。

     世界中の“不思議”と歴史が詰まった特別な空間。ぜひこの夏、奈良で体験してみてほしい。

    展覧会名:奈良国立博物館開館130年・天理大学創立100周年記念特別展「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」
    会 期:2025年7月26日(土)~9月23日(火・祝)
    開館時間:9:30~17:00(毎週土曜日は19:00まで)※入館は閉館30分前まで
    休 館 日 :8月25日(月)、9月1日(月)、9月8日(月)、9月16日(火)
    会 場:奈良国立博物館 東西新館
    所在地 〒630-8213 奈良県奈良市登大路町50番地
    主 催:奈良国立博物館、天理大学附属天理参考館、日本経済新聞社、テレビ大阪
    協賛:近畿日本鉄道、コクヨ、天理時報社、奈良テレビ放送、阪和興業
    特別支援:DMG森精機
    協 力:仏教美術協会、日本香堂
    奈良国立博物館問い合わせ:050-5542-8600(ハローダイヤル)
    展覧会公式ウェブサイト:http://art.nikkei.com/tanken/
    奈良国立博物館ウェブサイト:https://www.narahaku.go.jp/

    倉本菜生

    寺生まれオカ板育ち、京都在住。
    魑魅魍魎はだいたい友達なルポライター、日本史研究者。
    オカルト×歴史学をテーマに、心霊スポットや怪談の謎を追っている。
    住んでいるマンションに何かいる。

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