令和に蘇る「呪怨」Vシネマ版―事故物件の残穢が拡散する恐怖を見た

文=杉浦みな子

関連キーワード:

    2025年夏、伝説のVシネマ版「呪怨」が4K化&5.1chサラウンド化されて復活。「呪怨〈4K:Vシネマ版〉」と「呪怨2〈4K:Vシネマ版〉」のタイトルで、8月8日(金)から劇場上映されている。

    シリーズ最恐と名高いVシネマ版、まさかの復活

     映画監督・清水崇が手がけた平成Jホラーの代表作「呪怨」。2025年夏、そんな「呪怨」シリーズの原点であるVシネマ版の2作が、4K化&5.1chサラウンド化されて劇場上映されている。 

     そう、「呪怨」といえば2003年に映画第一作が劇場公開されているが、実はスタートはその3年前に制作されたVシネマだった。VHSという記録媒体をよりしろに、最初の「呪怨」「呪怨2」が誕生したのは2000年のこと。
     レンタルビデオ店の棚にひっそりと置かれたそれの評判が徐々に口コミで広がり、のちに劇場映画版が制作されるまでになるのだ。 

    「呪怨」VHS版 ※販売はすでに終了
    「呪怨2」VHS版 ※販売はすでに終了

    「呪怨」はJホラーの歴史を語るうえで欠かせない傑作シリーズであるが、オカルト目線では“事故物件映画の名作”としても語りがいがある。 

     特に今回、4K化&5.1chサラウンド化されたVシネマ版の2作は、ファンの間で「シリーズ中、最も怖い呪怨」として語り継がれてきたものであり、“事故物件が誕生する経緯”が描かれていることにも注目したい。その辺を軸に紹介していこう。

    呪いはまず土地に染みつく

    「呪怨」シリーズは、しばしば“最恐ホラー”として語られる。Jホラーとしての位置付けや映画理論的な目線で語り尽くされている本作だが、やはりオカルト的には、“強い怨念によって生じた呪いが、まず土地に染みつく”という前提が描かれている納得感が心強い。 

     物語の舞台は、とある一軒家。かつてここで、佐伯剛雄という居住者が、妻・伽椰子と小学生の息子・俊雄を殺害するという惨劇が起きた。伽椰子と俊雄くんはその一軒家に棲みつく怨霊となり、家そのものが呪いの発生源となっている。 

    ©︎東映ビデオ
    ©︎東映ビデオ
    ©︎東映ビデオ

     その後、一軒家は人手に渡り、居住者が次々に変わるが、その家に足を踏み入れた者は直接の当事者でなくとも呪いを受けてしまう。まさに“事故物件”の構造だ。 

     ある家で凄惨な事件や不幸な死が起きると、その痕跡が不可視の形で残り、次に入居した者に影響を及ぼす。「呪怨」では、現実にある“住んではいけない家”という恐怖が、わかりやすく擬似体験できる形で映像化されている。

    ©︎東映ビデオ
    ©︎東映ビデオ

    残穢が人を介して移動するという恐怖

     ここで思い出されるのが、“残穢(ざんえ)”という言葉である。人の死や恨みが土地に残り、それが後から来た人間に作用するイメージ。この思想は、古くから日本の怪異譚に現れてきた。「呪怨」が描いているのは、まさにこの残穢の姿と言える。
     ちなみに、小野不由美のモキュメンタリー小説「残穢」もこのモチーフを取り扱った名作であり、実際に作中で同じ例として「呪怨」シリーズに触れている。 

    ©︎東映ビデオ

     そんな小野不由美の「残穢」とも共通するポイントだが、「呪怨」でもうひとつ興味深いのは、呪いが土地に留まらず“移動”する様子が描かれていることだ。その家で影響を受けた人物が、別の場所に移動したときに怨念も一緒に持っていって(?)しまい、そこで新たな犠牲を生み出す。 

     呪いが人を媒介にして別の土地にも拡散し、どこに逃げても安全圏が存在しないというのは、まさに“呪怨的魅力”と言えよう。特に今回復活したVシネマ版では、この“呪いの移動”がわかりやすい。
     伽椰子と俊雄くんの怨念は、事故物件のクローズドな論理を超えて、常にオープンエンドで拡大していくのだ。

    ©︎東映ビデオ

    4K化&5.1chサラウンド化で“呪いの震源地”へ

     そして大事なのは、今回の「呪怨〈4K:Vシネマ版〉」と「呪怨2〈4K:Vシネマ版〉」が、単なる復刻版ではないこと。清水崇監督自らが完全監修を行い、映像と音声がともに現代の技術でブーストされている。  

     映像はVHS版のビデオマスターを、最新の「RS+」技術で4Kマスターへアップスケーリング。元々はブラウン管での鑑賞を意図して制作されていたわけだが、それがスクリーン鑑賞に適する状態に精細化された。 

    ©︎東映ビデオ

     実際に観てみると、VHS時代のザラついたディティールが残りつつ、現代の感覚で自然に視聴できる&恐怖も深まるくらいにアップデートされたイメージだ。 変にキレイすぎて作品性が変わってる……みたいなことは全くないのでご安心を。 

     さらに、音声もVHS時代のステレオ音源が5.1chサラウンドへ進化し、音響的な演出効果が最大化されている。個人的には、第1作の前半・家庭教師「由紀」の章で、伽椰子の「ア゛ア゛ア゛」という声だけが微かに後方から聴こえてきたのは、素敵な恐怖体験だった(実際、このシーンで後ろを振り返っている観客もいたくらいだ)。 

    ©︎東映ビデオ

    「呪怨」シリーズはこれまで、ハリウッドリメイクも含めて多くの続編や派生作品を生んできたが、今回のVシネマ版2作の4K化&5.1chサラウンド化上映は、呪いの震源地を再び見直す良い機会といえよう。 

     大前提として、この2作は今観ても抜群に面白いホラーだ。ビデオリリースから25年を経てなお、その残穢がリアリティを持って迫ってくること自体が“呪いの力”の証明ではないだろうか。

    ©︎東映ビデオ

     ちなみに劇場では、公式パンフではなく“証言集”が販売されている。これがかなり熱くて、冒頭には清水監督のロングインタビューを収録。加えて「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」の近藤亮太監督のコラムや、「きさらぎ駅」の永江二朗監督、上述の「残穢」小野不由美氏と、その夫である推理小説家・綾辻行人氏が「呪怨」Vシネマ版に出会った日なんかも回想されている。
     さらに島田秀平さん、朝宮運河さん、吉田悠軌さん、大島てるさんなど、ムーでおなじみの面々も“呪怨愛”溢れるコメントを寄せていて、オカルトファンも必読の一冊だ。こちらもぜひお見逃しなく。

    映画監督・プロデューサーの杉浦仁輝氏が責任編集した「25周年記念証言集」(1000円)。
    清水監督の歴代最長ロングインタビュー(約22500字)。小さい文字ギッチリで密度が濃く、熱量がすごい。
    「呪怨」Vシネマ版との出会いを振り返る各界著名人のコメントもかなり熱い。

    『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』 
    2000年/日本/70分/5.1ch/スタンダード/カラー/DCP/映倫区分:G/配給:東映ビデオ 

    『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』 
    2000年/日本/76分/5.1ch/スタンダード/カラー/DCP/映倫区分:G/配給:東映ビデオ 

    新宿バルト9ほかにて8月8日(金)より劇場公開
    ※上映には4KのDCPを使用、上映環境によって2Kコンバートでの上映。
    公式HP: https://www.toei-video.co.jp/juon4k/  
    公式X: @juon4k
    公式Tiktok: www.tiktok.com/@juon4k 
    ©東映ビデオ

    ©︎東映ビデオ

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
    https://sugiuraminako.edire.co/

    関連記事

    おすすめ記事