SAN値が削られる存在も監視しないといけない夜…ゲーム『Last Report』/ムー通

文=藤川Q

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    見てはいけないものを見る

     クトゥルフの暗黒邪神たちは、見るだけで正気を失うという。いわゆるクトゥルフ神話TRPGでいうところのSAN値こと正気度がガリガリ削られるわけだが……職種によっては、いやでも見なくてはならないシチュエーションもあるのでは。

     今回ご紹介する『Last Report』で、あなたは広大なアメリカの森林公園に務める監視員となって、監視カメラに写り込んださまざまな違反を公園管理局に報告する仕事に従事する。公園の各エリアから上がってくる報告書には、禁止区域でこっそり釣りをする連中や、ごみをポイ捨てしたり廃棄物を不法投棄したり、鹿や猪を密猟するハンターまでがしっかり映り込んでいるため、あなたは報告書の内容を確認しつつ、スキャンデータをPCから本部にアップデートしていくことになる。コーヒーをおごってくれる気のいい同僚が巡回の途中できてくれたり、トランシーバーで彼女と話すこともできる職場だ。雄大な自然にも囲まれている。

     だが薄暗い小屋でPCの画面を見ながら淡々と報告書をアップロードするうち、次第にあなたの孤独な心には、夜の不安や恐れが滲む。ふと手にした報告書を見ると、そこには狂暴な何かに襲われたような遺体が写り込んでいるものが紛れはじめる。あるいは"接近中"と書かれ、監視カメラの画像の奥に光る赤い目をした影。ふと気がつくと、監視小屋の外の窓を黒い影が横切り……少しだけ開いたドアの隙間から名状しがたいものが滑り込んできて、いままさに停電し真っ暗になったこの小屋の中に、何かが! いる! 見ると正気度が削られるものも、監視員なら見なくては仕事にならない。

    削られる正気をゲームで体験

     本作は、嵐の夜に監視小屋でひとりPCに向かい報告書を吟味しつづけるという行為を通じて、少しずつ正気が削られ、周囲の現実がだんだんと恐怖に侵食されていくとはいかなることなのかを、プレイヤーであるあなたに堪能させてくれる素敵な小品。報告書の判別というゲーム性はあるものの、どちらかというと体感する"怪談"とでもいうべき手触りで、この夏、嵐の夜にひとりでじっくりプレイしていただきたい(コーヒーを淹れるのもお忘れなく)。

    (本作のムー民度  ★★★☆☆)

    Steam 配信中 560円

    ©Monopixel Games

    (月刊ムー 2025年9月号)

    藤川Q

    ファミ通の怪人編集者。妖怪・オカルト担当という謎のポジションで、ムーにも協力。

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