ドイツ小説家の心霊事件簿「心霊学の理論」/ムー民のためのブックガイド

文=羽仁 礼

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    心霊学の理論 ユング=シュティリング 著/牧原豊樹 訳 発刊即発禁となった、ドイツ小説家の心霊事件簿  ドイツ文学に詳しい人ならいざ知らず、本書の著者・ユング=シュティリングは、日本ではほとんど無名で、翻訳書も1冊しかな […]

    心霊学の理論

    ユング=シュティリング 著/牧原豊樹 訳

    発刊即発禁となった、ドイツ小説家の心霊事件簿

     ドイツ文学に詳しい人ならいざ知らず、本書の著者・ユング=シュティリングは、日本ではほとんど無名で、翻訳書も1冊しかないという。恥ずかしながら評者も、本書で初めてその名を知った。
     しかし、ドイツではそれなりに知られた小説家で、ゲーテやヘルダー、レンツなど、同時代の著名なドイツ文学者たちとも交流があり、ロシアや中東、アメリカでも知られているらしい。
     宗教的には、ルター派の中でもかなり傍流とされる敬虔主義の熱心な信者でもあり、当時広まっていた機械論的人間観に強く反対し、民衆を教宣するような作品を多数執筆したという。
     その一方で彼は、人間は死後も霊となって存在しつづけること、そして死後の世界は存在することを確信していた。
     本書は、こういった彼の信念を、証明しようとするものである。
     そのためユング=シュティリングは、当時の文献に記載された事件、自分が直接聴取した話など、予知や透視といった超能力、心霊現象に関する事例を数多く収集し、本書で提示している。
     そうした諸事例については、キリスト教敬虔主義の立場からの考察が付されているが、作者が述べる事件のほとんどは、日本で知られていないものばかりだ。
     こうした実話に触れるだけでも、本書は読む価値があるといえよう。

    幻戯書房 5280円(税込)

    (月刊ムー 2025年8月号掲載)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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