「超音波による脳操作」研究の最前線! 医療に革命か、最悪の洗脳技術か?/久野友萬
超音波で脳を操る、そういうことが研究されている。超音波を使って、脳を遠隔操作するのだ。なんだかよくわからない話だが、超音波がどういうものか知れば、理解できる。
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自分の身体が置かれた状況を感じ取る、内受容感覚。これを鍛えることで、感情や行動もコントール可能になる! 意識が身体と極めて密接に結びついている実態が判明しつつある。
医学は意識を無視する傾向があり、現実の症状とつじつまの合わないことが多い。
最近でこそ「脳腸相関」という言葉も生まれ、腸のコンディションが実際に体の免疫や臓器の機能と関わっていることが判明しつつある。この話、もし10年前だったら、ビックリ話のレベルで誰にも相手にされなかっただろう。
腸だ、お腹だ、脳とは関係ないだろう――たしかに、どう考えても関係がないように思える。しかし腸壁に脳神経と同じホルモンを受け取る受容体細胞が見つかり、脳まで神経がつながっていることがわかった。
腸はいわば一種の脳であり、脳の出張所なのだ。そして脳に神経信号を送り、話しかけるのだ。
最近は「お腹の中に善玉菌が多いとポジティブな性格になる」という話や、「腸内細菌占い」のようなものまであって、行き過ぎの感はあるけども、“脳腸相関”のように東洋医学的な考え方が徐々に浸透しているのは喜ばしい。
脳腸相関であったり、あるいは東洋医学でいう経絡とは筋膜のことではないか? とわかり始めたことで、少しづつ科学者の堅い頭もほぐれ、臓器の働きを臓器単体ではなく、体全体や臓器同士のネットワークで考えるようになってきた。
こういう全体(=ホリスティック)的な捉え方は東洋医学の人体観だ。手の親指を押したら胃腸の調子が良くなるなど、西洋医学ではありえないが、東洋医学にとっては普通のツボ押しである。
臓器のコンディションが神経系ひいては脳にまで影響することが通説となりつつあり、その考えに沿った実験も行われている。
産業技術総合研究所の木村健太らが発表した「Cardiac cycle affects risky decision-making(心拍周期は危険な意思決定に影響を与える)」では、「ギャンブル実験において、心拍周期が個人の意思決定プロセスに与える影響」が検証された。
実験では、被験者に心電図をつけてもらい、パソコンでギャンブルゲームをしてもらう。
心臓は血液を送り出すために鼓動する。心臓はおよそ1秒間隔で、ポンプのように血を送る時には収縮、吸い込む時は拡張を繰り返しているわけだ。そして動脈には脳と直結するセンサが付いている。
心臓が収縮すると血流が増え、血圧が一時的に上昇する。その時、動脈のセンサーがひずみを感知、脳の孤束核という部位に信号を送る。
孤束核には臓器から伸びる迷走神経を束ね、脳に伝える機能がある。いわば体と心をつなぐ部位なのだ。孤束核の背内側部は血圧が上昇すると心拍数を低下させ、血圧が低下すると心拍数を上昇させる。
そしてギャンブルの選択に、心臓の収縮あるいは拡張が影響するのか調べた結果、選択肢が「心臓収縮期に呈示された場合、心臓拡張期に呈示されたときに比べて、リスクのある選択肢を選ぶ頻度が高く」なることがわかった。
血圧が高くなるとリスクの高い行動を選択する。つまり、頭に血がのぼると危ないことをやってしまうのが人間なのだ。
臓器の動きは自律的に行われ、コントロールが効かないというのが従来の常識だった。ごくまれに心拍数をコントロールしたり呼吸を非常に遅くできる人はいても、それは特別な人たちの話で、一般の人には無理と考えられてきた。
体の中の感覚を内受容感覚という。お腹が空いたとか背筋がゾワゾワするといった、体内からのサインを受け取る感覚だ。
そしてこの内受容感覚をより深く感じ、臓器をコントロールする練習をすると、意外と誰でもできることがわかってきた。心拍計をつけて、ピピッという音で心拍のリズムを聞く。リズムを遅くするにはどういう気持ちでいればいいのか、速くするにはどうするのかを考えなら気持ちを切り替えていくと、ある程度は心拍数を自分でコントロールできるようになるそうだ。
この訓練をすると脳の機能が変化し、うつ病などのストレス性疾患を軽減させることもわかったという(「内受容感覚訓練が脳回路変化を誘導することを発見 ~心身症の新規治療法開発への期待~」国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センタープレスリリース)。
内受容感覚に敏感になり、ストレス時の体の反応を減らすよう無意識に体のコンディションを変えられるようになるらしい。
また、内受容感覚に敏感な人は、他人の目にも敏感で、相手の表情を模倣する率が高いこともわかった(「自分の身体の中の感覚に気づきやすい人ほど、表情模倣が起こりやすく、 他人の視線にも敏感であることを解明」京都大学)。
さらに、感情は脳ではなく身体、内受容感覚によって得られた体内の情報によって引き起こされるという説もある。
音楽を聴くとなぜ感動するのか? 東京大学次世代知能科学研究センターと広島大学脳・こころ・感性科学研究センターの研究「身体感覚マップにおける和音列に基づいた予測誤差と不確実性の心身への影響」では、和音を次々に流し、その中の不協和音を聞いた被験者の体に起こる反応を調べた。
すると被験者は、不協和音を予測した場合は胃のあたり、予測できなかった場合は心臓に変化を感じた。人間は音楽を予測し、予測の外れ方が小さいと胃に不快感を感じ、大きいと緊張して心臓がバクバクする。予想と現実の差に体が大きく反応するわけだ。
予想と一致した場合には何が起きるかというと、脳からドーパミンが出る。予想が当たると脳が気持ちいいという報酬をくれる。いわゆる射幸心であり、ギャンブルにハマるのは脳がギャンブラーに報酬を用意しているためだ。ギャンブラーがいくらでも賭けてしまうのは、脳がドーパミン中毒になっているからだ。
ギャンブルの興奮と音楽の感動は同じメカニズムで動いている。勝ち続けることは快感だが、さらにそこにイレギュラーな不協和音が加わることで体が興奮し、それを感動だと解釈してきたわけだ。
意識と体は密接に結びつき、意識によって体は変わるし、体の感覚が変わると脳も変わる。意識を含んだ体全体で病気を捉え、脳と体をセットにして俯瞰することで、身体のメカニズムはより包括的に見えてくる。
今は原因不明とされる不定愁訴やリウマチのような自己免疫疾患の病気も、内受容感覚を磨くことで治癒できるかもしれない。またマーケティング分野では、血圧が高いとリスクの高い決断をするような事例を商品開発や販売に生かせるかもしれないし、会社では作業効率を上げるための条件を見つける一助になるだろう。
体と対話するという、直観的な身体と心の関係が現代科学の俎上に乗り始めたことで、新たな可能性が開かれつつあるのだ。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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