日常が突然、非日常に変わる恐怖! 自動車が人を襲うホラー名作(迷作)映画7選

文=オオタケン

関連キーワード:

    ホラーやパニック/ディザスター(災害)系といったジャンルの映画は、いつの時代でも人気が高い。昔から人々は恐怖の疑似体験を創作物に求め続けてきた。

     世界最初のホラー映画は『The Execution of Mary, Queen of Scots(スコットランドのメアリー女王の処刑)』という十数秒の短い作品だったが、撮影されたのは1895年。これは映画の誕生とほぼ同時期のことだ。また、1901年には『Fire!』という火事をテーマにしたパニック映画が公開されている。こういった歴史からも、恐怖映画が100年以上前からずっと、人々の耳目を集めてきたことが分かるだろう。

     以降、ドラキュラやUMA、UFO、ゾンビ、サメなど様々な題材で話題作が量産されてきた。その中には、ややニッチだが「乗り物が人を襲う」というホラー/パニック映画のジャンルが存在する。

     身近な乗り物という”日常”が突然、人命を脅かす”非日常”に変わる恐怖を描いたこれらの作品は、昨今の煽り運転等の問題も想起させ、今こそ見るべき映画ジャンルのような気もする。

     今回はあくまでも幽霊や悪魔、呪いなど超自然現象を起因として、乗り物が牙を向く映画に焦点を当てて紹介したい。サメ映画の始祖『ジョーズ』の亜種として作られたとも言えるこれらの作品は、名作のみならず迷作も含まれるが、見応えのある作品も少なくない。

     今回は【車編】である。

    1. ザ・カー(原題:The Car)/1977

     カーサスペンスの名作『激突!』や、『ジョーズ』の流れを汲んだ映画である。そこに悪霊を絡め、ホラーやパニック映画的アプローチも見せる秀作。アメリカの田舎町に突如として現れた不気味な黒塗りの車が、人を襲う。警察官のウェイドは車を追うが、仲間や知人が次々と狙われてしまう。

     カーアクションも見どころで、野太いエンジン音を響かせ荒野を爆走し、警察車両を横転させながら破壊するシーンなど、迫力がある。登場人物もそれぞれのキャラクターに個性があり、悪役が意外な活躍を見せたりと、物語に深みをもたせている。もはや古典といえる作品だが、現代でも十分に楽しめる。各種配信やDVDで入手可能。なお2018年にはリメイク版が制作されたが、そちらの評判は芳しくない。

    2. クラッシュ!(原題:CRASH!)/1976

     主人公のキムは車を運転中に事故を起こし、同乗していた夫に大きな怪我を負わせてしまう。夫は妻を憎み、車での事故を装いキムの殺害を企てる。奇跡的に一命を取り留めたキムは記憶を喪失してしまうが、偶然手に入れた魔神像の力によって超能力を開花させ、念力で愛車のオープンカー(シボレー・カマロ)を遠隔で操り、なおも命を狙う夫を返り討ちにすべく、町中を暴走する。

    『エクソシスト』をはじめとしたホラー映画ブームの中で、そこにカーアクションを合体させた映画。同系作としては前述の『ザ・カー』よりも前に制作された先鞭的作品だ。病床のキムが魔神像の力で目覚め、真っ赤な瞳で念動力を発するシーンなどはかなり怖い。景気よく車が爆発していくアクションシーンも見どころだが、無人のオープンカーとパトカーのカーチェイスはなんだかシュールで愛らしい。日本語版DVDは未発売、VHSも滅多に見かけない、もはや幻の作品だ。

    3. クリスティーン(原題:Christine)/1983

     気弱な高校生のアーニーはある日、クリスティーンと名付けられたスクラップ同然の1958年型プリ厶ス・フューリーを手に入れる。アーニーは自らの手でクリスティーンを修理しはじめるが、それと同時に彼の性格も別人のように粗暴に変化していく。そして、アーニーによって美しく蘇ったクリスティーンは意思をもち、自分とアーニーにとっての邪魔者を次々と襲いはじめる。

     ホラーの帝王と称されるスティーブン・キングの小説を原作とし、ホラー映画の傑作を数多く生み出してきたジョン・カーペンターが監督した作品。不良グループによって破壊されたクリスティーンが自己修復していくシーンや、ブルドーザーとの決闘シーンなどは、禍々しくも眼を見張るほど美しい。また、全編を通して流れるオールディーズも雰囲気を盛り上げる。DVDや各種配信でも見やすい作品で、乗り物ホラーの入り口としては最適な作品かもしれない。

    4. デス・スピード(原題:Phantom Racer)/2009

     レーサーのJJは、レース中のアクシデントでライバルのカッターと衝突し、激しく横転したカッターは命を落としてしまう。傷心のJJはレースを引退し、トレーラーのドライバーとして生計を立てていた。十数年後、故郷に戻ると、カッターの兄クリフが弟のレースカーを修復し、保管していたことを知る。JJの帰郷を待っていたかのように、レースカーはカッターの怨霊を乗せ、無差別に人を襲い始めるのだった。

     アメリカで放送されたTV映画だが、ややグロテスクなシーンもあるので、苦手な方は要注意。低予算感は隠せないものの、熟れた作りのなかなか見応えがある作品だ。惜しむらくは『ザ・カー』など他作品の不気味な存在感を放つ車たちと比べると、カラフルなレースカーは怖さに欠ける点か。DVDや各種配信で見られるが、『ファントム・レーサー』や『スカル・レーサー』など別名になっていることもあるので要注意。

    5. ヘルクラッシュ!地獄の霊柩車(原題:LE PORTE DEL SILENZIO)/1992

     メルビンは父親の葬儀からの帰り道、一本道で1台の霊柩車に追いつく。蛇行しながらのろのろと走り、行く手を妨害する霊柩車に苛立ったメルビンは、やり過ごそうと回り道をするが、何度も同じ霊柩車に追いついてしまう。やがてメルビンは霊柩車に積まれている棺に自分と同じ名前が刻まれている事に気がつくのだが……。

     グロテスクな描写が売りのゾンビ映画『サンゲリア』で映画史に名を刻んだルチオ・フルチ監督の遺作。それゆえ、淡々と静かに物語が進む本作はファンからの評判は芳しくない。しかし、晩年は糖尿病に苦しみ、人生の終焉が見え始めていたフルチが死に向き合う中で生み出したのがこの作品だったのかもしれない。メルビンは謎の霊柩車に追いかけられるのではなく、自ら追いかけていく立場になる。つまり、死に向かっていくのだ。

     劇中にはメルビンの死を思わせるメタファーが何度も登場する。例えば道中、何度も出会い、謎のメッセージを残す美女の存在は死神を思わせる。こういう演出が憎い。激しいカースタントがあるわけではないが、言われるほど退屈な映画ではない。はたしてメルビンは生きて帰れるのか?

     なお霊柩車が追いかけてくる映画としては、他にも『ザ・ハース』などいくつか存在するため、気になる方はチェックしてみるといいだろう。日本では配信がないのが残念だが、DVDは中古で入手可能だ。

    6. 激突2006(原題:Speed Demon)/2003

     弟を公道レースでの事故で失った主人公のジェシーは、同じように事故で亡くなった父の遺品の中から、ジェームス・ディーンも持っていたという「スピードの悪魔」というペンダントを発見する。これを持つ者はレースで悪魔的スピードを手に入れられるという。そのペンダントを狙い、旧友のオットー率いる走り屋軍団がジェシーに絡む。彼らはスピードの悪魔を崇拝していた。だが、オットーの仲間たちは次々と不審な死を遂げ、謎の車につけ狙われる。

    「激突」と名打ってはいるが、あのスピルバーグの名作とは一切関係ない、単なる便乗タイトルの作品である。ピリッとしない演技、ショボすぎるCG、ダラダラ並走しているだけの迫力のないカーレースシーン、意味不明の演出、犬を散歩中の一般人が普通に見切れているなどといった見どころが満載。なにより出演者の男性たちがほとんどのシーンで脱いでおり、その筋肉美を惜しげもなく披露してくれる。

     通常、ホラー映画ではセクシーな女性をあえて登場させたりするが、本作には一切、それがない。その代わりにオットー達が車のエンジンを御神体として祀り、その周りをパンツ一丁でぐるぐる回ったり、お互いの体にエンジンオイルを垂らすなどという謎の儀式シーンなどに情熱を注いでいる。

     B級映画のマニア間でもうちょっと話題になっても良さそうな作品。おすすめはしないが、リサイクルショップなどで見かけた際には、手に取ってみてはどうだろうか?

    7. 高速ヴァンパイア(原題:Upir z Feratu)/1982

     冴えない医師のマレクは、カーレーサーを志していた救急車の運転手、ミマに恋心を抱いている。ある日、自動車メーカーのフェラトゥが開発した新型スポーツカーの事故現場に遭遇する2人だが、現場にはなにやら不穏な空気が漂う。後日、マレクはミマがフェラトゥ社の専属レーサーとして契約したことを知る。嫉妬心もありフェラトゥ社について嗅ぎ回るうち、マレクはフェラトゥの新型車についての恐ろしい秘密を知ることになる。車は運転する人間の血を吸うことでパワーを得るヴァンパイヤ・カーだったのだ。

     チェコの巨匠ユライ・ヘルツによるSFホラーだが、カースタントシーンや恐怖演出を期待して見ると肩透かしを食らうかもしれない。しかし、魅力的な設定や美しい映像、主人公とも言えるシュコダ製スポーツカー「RSR」の近未来的な造形などは必見だ。レトロなラリー競技の映像も車好きにはたまらないだろう。マレクの見る悪夢の中で、生きているかのように呼吸をし、血を吐き出すRSRのシーンは後の映画にも影響を与えたとされる。社名のフェラトゥは勿論、吸血鬼を意味するノスフェラトゥからの捩り。美術の一部にはあのヤン・シュヴァンクマイエルも関わっていたという。カルト的人気のある作品で、日本語版DVDにはプレミアが付いており、なかなか見るのが難しいことが悔やまれる。

    ◆ ◆ ◆

     いかがだろうか? ややマイナーで視聴が困難な作品もあるが、同じカーホラーというジャンルでもコメディ色が強かったり、実験的な作品があったりと、趣向や楽しみ方もそれぞれだ。

     これらの作品以外にも『激突!』(これはスピルバーグ監督作である)のような、いわゆる「ヒトコワ」系のカーホラーもあり、『ロードキラー』のシリーズなどヒット作も多い。

     前述したが、こういった映画の大元は1975年に公開された『ジョーズ』にあると言える。サメを車に置き換えたわけだ。そして、1980年前後にはホラー映画やスプラッター映画、激しいカースタントが売りの映画がブームに乗って続々と製作された。要はカーホラーは、そういった流行作をごった煮にしたジャンルだったのだ。

     近年でも散見されるこのジャンルの映画は、そのほとんど全てがB級作ではある。だが、70〜90年代を過ごした映画好きにとっては、見ていてどこか懐かしさを感じさせることだろう。若い方も含め、これらの映画を見るきっかけになれば幸いである。

    オオタケン

    イーグルリバー事件のパンケーキを自作したこともあるユーフォロジスト。2005年に発足したUFOサークル「Spファイル友の会」が年一回発行している同人誌『UFO手帖』の寄稿者。

    関連記事

    おすすめ記事