都市伝説を本当に“解体”して見せた!? 極上のミステリゲーム「都市伝説解体センター」/ムー通

文=藤川Q

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    ゲーム雑誌「ファミ通」とのコラボでムー的ゲームをお届け! 今回は超話題作を大ボリュームで解説。

    友達の友達から聞いた話だけど……

     都市伝説――その定義はあいまいなものではあるものの、人々の間で“誰かの体験談”として共有される話だと言えるかもしれません。その意味では、奇々怪々なるエピソードだけでなく、笑い話や犯罪事件まで、すべてのシェアされるストーリーは都市伝説になりうるもの。つまり、人々の噂によって伝播して“起きたらしいと信じられる”ストーリーこそ、都市伝説なのでしょうか?

     ではひとつ、本作の重要人物「センター長」の真似事として、この“都市伝説”という概念そのものを“解体”してみるとしましょう。

     そもそも“都市伝説”という名称が初めて登場したのは、アメリカでした。1981年にアメリカの民俗学者ブルンヴァンが、クルマでヒッチハイクをしていた若者がいつの間にか運転中に気づくといなくなっている…という話が無数に存在することに気づき、その調査結果をしたためた著書『消えるヒッチハイカー』で“都市伝説”と名付けたのが始まりです。それが日本にも80年代末から90年代にかけて、こうしたあるのかないのかわからないミステリアスな出来事が、もっぱらTVなどのメディアで取り上げられたことで、さまざまな噂が都市伝説として流布。2000年代には、ネット上の匿名掲示板に投稿された情報、噂、怪談さえもが都市伝説とされるようになり、いまや都市伝説というブラックボックスは、人々の好奇の目をくすぐって止まないものとなっているのです。

     じっさい、“八尺様”や“くねくね”、“コトリバコ”、さらには海外のクリーピーパスタである“スレンダーマン”など有名な都市伝説の怪異群は、本来はあくまでもネットホラーやネット怪談としてスレッド上で創作・共同構築されたストーリーだったはずのもの。ですが2025年の現代でも、これらは“実際に存在する怪異”であると本気で信じている方も多いのです。つまり、噂の如き曖昧な情報の断片は、集積されることでいつしか少しずつユニークなオカルトめいた話になり、やがては特徴的なディティールを持った“都市伝説”として語り継がれるものへと変貌していった。

     やはり都市伝説とは“噂の集積のようなもの”、のようです。

     ……前置きが長ーくなってしまったものの、今回紹介する『都市伝説解体センター』は、『和階堂真の事件簿』シリーズを手掛けた墓場文庫と集英社ゲームズが贈る最新作。まさに、こうした噂が虚像を結んでゆく“都市伝説の構造”をミステリーとしてこれ以上ないほど精緻に再構成したアドベンチャー作品です。

     本作であなたは、ある不幸なきっかけから、じつに怪しげな“都市伝説解体センター”で急遽働くことになった新人調査員“福来あざみ”の視点で(どうしてか不思議な眼鏡で過去の痕跡を視る能力がある)、センターに舞い込む様々な依頼の解決のために奔走することに。……もちろん、依頼はすべてが“都市伝説”絡みの怪事件です。たとえば“友人のマンションで、ベッドの下から現れた斧を手にした男に襲われた!”など。

     そんな設定だけでもゾクゾクしてしまう『都市伝説解体センター』は、かつてないほどにFabulousに都市伝説の輪郭をミステリの構造で描き出して魅せた作品でもあります。その最大の理由は、センターが都市伝説に相対した際の解決へと至る手順にほかなりません。まずは怪奇な事件を調査して情報を集め、どんな都市伝説なのかを“特定”します。前述の事件であれば、その特徴からこの事件は都市伝説ノアレなのではないか、と。

     さらに、特定した都市伝説が事件とどのように関わっているのかを精査し、調査で集めた証拠をもとに、都市伝説を“解体”していくのです。解体された後に残るのは――さまざまな噂や存在しない情報に隠された真相のみ。嗚呼、なんて美しいミステリと都市伝説のマリアージュでしょうか……まさにFabulous!

     ちなみにメインストーリーでは、これまたグッとくるネーミングの“イルミナカードなる陰謀と予言のカードを軸とした、不穏かつ芳醇なミステリが展開します。さらには、物語の脇道にも数多の都市伝説ネタが愛情深く織り込まれており、都市伝説や怪異、陰謀論がお好みの方ならば、きっと多幸感に包まれ続けながらのゲーム体験になることでしょう。

     また、印象深い全編を通じて素敵なドット絵と楽曲ですが、とくに“特定”と“解体”シーンはぜひいちど体験していただきたいもの。あなたが都市伝説解体センター職員となって怪事件を取り巻く噂のような断片情報から都市伝説を“特定”し、そして“解体”したとき――きっと都市伝説とは何かを知るでしょう。

     余談ですが、いまwebムーのページをご覧になっているあなたのように都市伝説に惹かれているような方であれば、きっと『都市伝説解体センター』の各話のエピソードでとりあげられ主題とされる都市伝説が、いったい何の都市伝説なのか? それをセンター長とともに毎回特定していく前に、これはアレではないだろうか? などといろいろセルフ特定するという本作でしか堪能できない都市伝説の推理も格別です。そしてなにより、真相が重層的に隠された、驚きに満ちたとってもおもしろいミステリとしても! 

     また、すばらしいドット絵のビジュアルや、公開されているトレーラー、主題歌などがもしも少しでも気になられましたら、このゲームは誰もがとてもいいプレイ感で、その驚くべき結末まで楽しめるので掛値なくお勧めします。

     ぜひ、あなたも都市伝説解体センターの調査員募集の扉を叩いてみてください。

    本作のムー民度 ★★★★★
    ©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
    Steam / Nintendo Switch™️ / PS5配信中 1,980円
    公式サイト『都市伝説解体センター』https://umdc.shueisha-games.com/

    (月刊ムー 2025年4月号)

    藤川Q

    ファミ通の怪人編集者。妖怪・オカルト担当という謎のポジションで、ムーにも協力。

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